AIだけに限らず中国ではデジタル分野での躍進を続けている(写真:gopixa/iStock)

かつて、驚異的な経済成長を果たしながらも、技術後進国と見なされていた中国は、今、生まれ変わり始めている。チャイナテックと呼ばれる最先端の技術力によって、世界経済を塗り替えようとしているのだ。いったい、中国で何が起きているのか。

1月22日に『チャイナテック:中国デジタル革命の衝撃』を上梓した、趙瑋琳氏が中国で巻き起こるテクノロジーの変化について解説する。

中国デジタルエコノミーの急進展

中国は近年、デジタル分野において目覚ましい発展を遂げている。

例えば、次世代移動通信システム5Gの通信網構築で先行した中国が、デジタルテクノロジー分野での主導権争いでアメリカと火花を散らしていることはよく知られている。人工知能(AI)や量子コンピューター、ドローン、ブロックチェーンなど多くの先端分野において、中国からの特許出願件数が増え続けており、世界トップの座を占めるようになっている。


中国のデジタルエコノミー規模の急拡大とテック企業の成長に伴い、世界のデジタル基盤は、アメリカ一極集中から米中二極化に変わったと言える。

新型コロナウイルスとの闘いにおいても、チャイナテックは世界を驚かせた。

オンライン教育やオンライン会議ツール、さまざまなオンラインサービスをはじめ、上空から市民たちに外出しないよう呼びかけるドローン、5G通信網を活用した遠隔医療、医療機関や隔離用ホテルに医療物資や食事などを運ぶ無人自動運転車とロボット、顔認証によりマスクを着用した通行者の身元の特定と検温を同時に行うAIサービス、支援物資の配布を追跡するブロックチェーンプラットフォーム、人々の健康状況を表すQRコードなどのデジタル技術が、感染の拡大防止に一役買った。

「ローマは一日にして成らず」。もちろん、技術がコロナによって急速に発展したわけではない。中国ではもともとデジタル技術の活用が人々の生活に根付いていた。

例えば、手ぶらで買い物に出かけ、買いたいものをスマートフォンで注文・決済すると、その日のうちに宅配される。EC販売の利便性とリアル店舗での実体験を融合させた「ニューリテール」と呼ばれる新たな消費スタイルが中国では主流になりつつある。

最先端技術の追求はエコシステムの形成に注力

さらに、従来の生産・流通方式を変えるビジネスモデルとして、消費者ニーズ(ビッグデータ)を起点とする商品の開発と生産を行う「C2M(Customer to Manufacturer)」が実践されている。

C2Mを可能にするのが、製造業のスマート化である。工場のデジタル化によって、OEM向けの受託生産メーカーがマス・カスタマイゼーションを実現し、新たな活路を見いだした。家電メーカーのハイアールはロボットやAIの活用で「24時間無灯スマート工場」の異名を持つようになっている。

これらの事例は、米中貿易戦争の標的にされた「中国製造2025」が軌道修正を迫られたものの、「機器換人」(人間の労働力にとって代わる機械の導入)のスローガンの下、製造業のデジタル化が着実に進んでいる証しなのだ。

最先端技術の追求は、ロードマップを政策で示したうえで、資金投入や人材育成、企業支援などエコシステムの形成に注力するというやり方である。

AIの競争力向上がその好例で、2017年夏に公表された「次世代AI発展計画」がグランドデザインとして、2030年までに中国のAI技術を世界最先端のレベルに引き上げ、AI関連産業を10兆元(約160兆円)の市場規模に拡大といった内容を盛り込んでいる。この計画の下、中央政府の各省および地方政府が動き出しているので、いくつか事例を紹介したい。

事例 AI発展のリード役を目指す北京市

北京市は2017年12月に「科学技術のイノベーションの加速とAI産業の育成に関する指導意見」を公布。国内で最もAI関連企業が集積するアドバンテージを生かし、AI発展のリード役を目指している。

事例◆「世界AI大会」が開催される上海市

上海市も北京市と同時期に「次世代AI発展を促進する実施意見」を発表した。

上海市では2018年から毎夏に世界AI大会が開催されている。世界中からAIリーディングカンパニーや専門家が集まり、AIの発展や課題、世界にもたらす影響などを議論し、また世界に向けて発信しているのだ。

2020年は新型コロナウイルス感染症拡大の影響で初のオンライン大会となった。物理的な制限がないため、世界中から1億人超の参加者を集めたそうだ。上海市が「上海AIラボ」と「AI産業投資ファンド」の新設を公表したり、参加企業によりAIイノベーションセンターが設立されたりするなど、コロナ禍の中でも停滞することなく、例年どおり活発な展開がみられた。

事例:EC最大手アリババ擁する杭州市

浙江省杭州市は、EC最大手アリババの本社を擁し、デジタルイノベーションの先進地域として知られている。2017年7月に「AIタウン(杭州人工知能小鎮)」の建設に着手した。AI関連企業や人材を誘致し、AI産業の集積地を作る計画だ。

また、産官学連携によるAI研究の推進のためアリババ、浙江省政府、浙江大学が共同出資し「之江実験室」を設立した。

中国を客観的に正しく理解することが必要不可欠

AIだけに限らず中国ではデジタル分野での躍進を続けており、どんどん進化している。しかも、中国国内にとどまらず、日本をはじめとする海外市場に積極的に進出を図っている。

「知彼知己、百戦不殆(彼を知り己を知れば百戦殆〈あや〉うからず)」

中国を客観的に見て正しく理解することが不可欠だ。

中国の変化とイノベーション能力の向上の波をチャンスとして捉え、チャイナテックをはじめとする中国の豊富なイノベーションリソースやアイデア、活力、人材、資金力などを十分に生かす戦略を日本は考えなければならない。