北朝鮮が1月15日に突然軍事パレードを実施した。写真はソウル市内のテレビに映し出された金正恩総書記(写真:AP/アフロ)


 北朝鮮労働党第8回大会で、軍事に関しての報告書では、「核武力建設(核兵器開発)が完成し、国家の核戦争抑止力を備え、自衛的国防力が強化された」と強調した。

 特に、超大型の水爆と戦術核兵器、各種弾道ミサイル・ロケット、衛星を含む偵察用兵器、世界水準の戦車などの開発に成功したとのことである。

 報告の内容を実際に見せつけたのが、2020年10月と2021年1月の軍事パレードだ。

 報告書が軍事戦略を含めた国家戦略であり、パレードに登場したすべての兵器が軍事戦略を達成するための軍事力だ。

 したがって、この報告書と2つのパレードをセットとして見ることが必要だ。

 しかしながら、北がこれまで発表した報告には、誇大宣伝、嘘、事実などが混在している。

 今回の北の報告内容と2つのパレードに登場した兵器を照合して、これまで長期にわたり分析してきたことを踏まえて、嘘などを見分けながら、北の軍事力についての特色を考察する。

 そして、その特色を踏まえて、北の新軍事戦略を明らかにする。

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1.北朝鮮が誇大宣伝や嘘を発表する実態

 北のこれまでの報告発表内容には、誇大宣伝や嘘が多かった。発表された武器は、形だけ製造したもの(張りぼて)で、まだ完成していない兵器を実験が成功し、運用できる兵器であると見せかけてきたのだ。

 ところが、近年では、パレードに出し、実験も成功させてきた。かなり事実に近づいたといえる。

 しかし、今回の発表を詳細に見ると、誇大宣伝もまだまだある。

 韓国のあるメディアでは、北の発表を鵜呑みにし、情報源が不確かな情報でもそのまま脅威として、さらに煽って掲載することがある。

 このような情報源が信頼できない情報をそのまま受け入れてしまうと、北の謀略戦略に容易に騙されることがあるので、注意すべきだ。

2.戦術核と水爆が完成、核抑止力に自信

 北は報告書で、核兵器を小型軽量化、規格化、戦術兵器化し、超大型水爆の開発を成功させたとしている。

 防衛省は、2017年9月、160kt規模の実験の成功において、「水爆の可能性も否定できない」と評価した。

 私は、「ブースト型核分裂爆弾(強化型原爆)」の製造と実験には成功したものと推測した。

 ブースト型の開発に成功すれば、短期間で水爆や小型の核を製造することが可能だ。実験から3年以上も経過したことから、北が言うとおり成功していると見ている。

 防衛白書でも、核の小型化が完成したと推定している。

3.米国全土狙うICBMと特殊弾頭開発予告

 北は、「火星砲」系列の中長距離弾道ミサイルの開発に成功したとしている。

 実際に、火星12・14・15号ミサイル実験に成功した。特に、火星15号発射実験成功については、北が、「国家核武力完成という歴史的大業」と称えるほど、喜び自信もつけた。

 とはいえ、射程はまだ8500〜1万3000キロであり、米国の全域をカバーすることはできない。

 このため、10月10日に登場した大型ミサイルの発射実験を行い、米国全域を射程内に入れるICBMの実験を成功させたいと考えている。

 そして、新型ICBMが米国全土を射程に入ること、そして実験が成功すれば、いつでも米国全土に打ち込むことができることを今後の米朝交渉の材料として使いたいと強く思っているのだろう。

 北は、2017年に火星12号の発射実験において、多弾頭(Multiple Independently-targetable Reentry Vehicle=MIRV)の実験を行ったと見られている。

 当時、この成功の可否は不明だった。今回の報告では、MIRV開発の最終段階であると述べている。今後、完成させるために実験を行うことが予想される。

 北は、「極超音速滑空弾」の試験製作着手のための準備を行っていると報告している。この弾頭は、中国が2019年10月の軍事パレードに登場させたものだ。

 現在、実験中である。

 この弾は、ミサイルそのものではなく、中距離弾道ミサイルの弾頭部にとりつけた極超音速滑空弾である。

 大気圏に再突入の際に、上昇と下降を繰り返し、軌道を何度も変更できる。中国やロシアが、近年実験している最中である。

 北が中国やロシアから技術支援を得られるのは、遠い将来になると考える。

 もし、技術が得られたとしても、日本海の上空では、実験に必要な十分な飛距雌が足りないので、日本の上空を飛び越えて実験するか、イランや中国の実験場で行う可能性がある。

中国「DF-17」ミサイル

出典:MISSILE THREAT(CSIS)

4.大型潜水艦発射弾道ミサイル実験の予告

 この兵器は、米軍からの核攻撃に対して生き残り、唯一反撃できるものだ。米国に対する抑止力効果が高い。

 とはいえ、弾道ミサイル潜水艦が水中にいて、発見されずに核搭載のSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)を発射できればの話だ。

 北極星号の1と3号は、水中からの発射に、2号は陸上からの発射に成功した。

 4号は昨年10月、5号は今年の1月のパレードに初めて登場したものの発射実験はまだ実施されていない。

 5号は4号よりも全長が長く、射程を延伸させることができる。これらの実験は、米国のジョー・バイデン新政権が交渉に臨まない場合、早々に行われる可能性がある。

左:北極星4号 右:北極星5号

出典:朝鮮中央通信

 しかし、これらのミサイルを潜水艦から発射したことは、これまで一度もない。新浦級潜水艦からも発射されていない。

 弾道ミサイル潜水艦である新浦級潜水艦は、近年では新浦港を出港しないで、岸壁に着けられたままだ。失敗作だと推測される。

 新浦級を整備回収すれば、射程約1000キロの北極星1号だけを発射できる可能性がある。ロメオ級を改造しても、3〜5号を発射することは、100%不可能である。

 これまで、中型潜水艦の改造を行い、新たな原子力潜水艦の設計・研究が完了し、再審査段階だという。

 大型のSLBM北極星号の開発を完了したことで、いかなる威嚇にも対応することができる戦略的抑止力を身につけたと主張したいのだろう。

 しかし、北極星3・4・5号を発射できる原子力潜水艦を建造するまでには、20年以上の期間がかかるであろう。

5.韓国を奇襲攻撃できる兵器のアピール

 北は、短距離弾道ミサイルと中長距離巡航ミサイルに搭載する弾頭威力が大きい戦術核を開発したとしている。

 2度のパレードには各種大量の短距離ミサイルを登場させた。

 イスカンデル版、ATACMS版ミサイルの実験に成功し、飛翔時の軌道を変更でき、命中精度も高まった。射程は最大500〜600キロだ。

 韓国のほぼ全土の重要施設を狙って発射し命中させ、軍事施設や施設上の戦闘機などの兵器を破壊することができる。韓国にとっては極めて大きな脅威だ。

 北が言う長射程巡航ミサイルとは、米国のトマホーク巡行ミサイルに似たもののことか、射程約200キロの対艦ミサイルのことなのか不明だ。おそらく対艦ミサイルのことだと思う。

 北は、世界の兵器分野に概念すら存在しなかった超大型多連装ロケットを開発したとしている。また、2つのパレードでも大量のロケット砲を登場させた。

 口径が異なる超大型多連装ロケットの発射実験が完了し、短距離弾道ミサイルと同様に飛翔軌道を変更し、正確に目標に命中するものだ。

 北は、韓国の広域に配備されている軍事施設を狙って、奇襲的に発射することができる。

 報告では、世界水準に匹敵する主力戦車を開発するために、その方向性と生産工程を一新して新型戦車を製造したとしている。

 この戦車は、自在に移動しつつ射撃(スラローム射撃)、遠距離曲射射撃、対戦車ミサイルを無効にするアクティブアーマーなどを備えている。

 北の言うとおりであれば、世界水準レベルのようだ。

 実は、これは、米軍の「M1」戦車に似せてイランが製造したゾルファガール戦車に酷似している。9両を、イランから輸入したものだろう。

 北は、これまでロシア軍の「T-62」などの戦車を供与され、これにアクティブアーマーを備えて改造したことがあった。

 これまで、戦車を製造したことがなかったのに、突然、自国の力だけで世界水準の戦車を製造できるわけがない。

 自国で設計して、特殊な装甲、高性能の砲身、50トンもの車両を動かすエンジンから自前で生産したようなことを主張しているが、100%嘘である。

 とはいえ、イランから戦車の部品を輸入して、北がこの戦車を組み立てた可能性はある。少なくとも現在、9両の新型戦車が存在することは事実だ。

 今後、イランから部品を導入して、大量の戦車を製造する可能性はある。

 日本のコマツ製造の軽装甲機動車にそっくりの車両も2度のパレードに参加している。

 これもイランか中国で製造された部品を北で組み立てている可能性がある。

 現在、10両ほど保有しているようだが、新型戦車と同様に部品を導入し組み立て、大量に生産する可能性がある。

左:新型戦車 右:軽装甲機動車

出典:朝鮮中央通信

 短距離ミサイル、ロケット砲、新型戦車を大量に保有することによって、北は南進する場合にこれまでの戦いを変えるだろう。

 そして、それに成功する可能性が高まり、韓国全土への大きな脅威となっている。

6.衛星含む偵察用兵器の開発は不可能か

 北は、軍事偵察衛星の設計を完成させたとしている。

 ミサイルを製造したものの、その射撃目標地点の情報を入手することが難しい。これは、北軍のネックになっている。

 現在では、中国製の小型無人機で、偵察活動として使用している。中国版GPSを使用して、必要な情報を入手しているだろう。

 しかし、米国軍の無人機偵察機グローバルホークや無人攻撃機プレデターのレベルには到底及ばない。

 北は、これまで銀河3号により光明星3号を打ち上げ、衛星軌道に到着した。

 信頼できる情報筋によれば、この衛星からの信号が地球に届いていないことや姿勢が安定せず、不規則な回転をしており、正常には機能していないのが現状だ。

 北が偵察衛星を打ち上げるには、イランや中国の技術協力がないと難しい。

 協力が得られたとしても、解像度数十センチ以内の解像度の偵察衛星を衛星軌道に乗せるには、かなり遠い将来になるであろう。私は、20年後でも難しいことだと考える。

7.北朝鮮の新軍事戦略とは

(1)新たなミサイルを米国への交渉戦略に使う

 威力が大きい核兵器を、パレードに登場させたミサイルに搭載して発射すれば、米国全土に届く。新型ICBMは、残すは発射実験だけで、近く完成すると言いたいのだろう。

 完成して、決心さえすれば、いつでも米国全土を核攻撃できる。

 また、2020年10月10日に北極星4号を、今年の1月14日に北極星5号をパレードに登場させた。実験はまだである。

 大型のSLBM北極星4・5号が完成すれば、「米国の核攻撃を受けたとしても、弾道ミサイル潜水艦に搭載した北極星4・5号で米国本土に対して反撃できる」と言いたいのだろう。

 つまり、新型ICBMと北極星4・5号が完成すれば、米国全土をいつでも攻撃できる、反撃できることを、米国に強く伝えたいのだろう。

 この狙いは、「もし、米国が交渉に乗ってこなかったならば、これらの核ミサイルを完成させるぞ」「完成させる前に交渉のテーブルに着け」「米国が北の主張(平和協定を締結する)を受け入れれば、これらのミサイルの開発を凍結する」ということを言いたいのだと思われる。

 つまり、バイデン新大統領との交渉のカードに使いたいのだろう。

(2)米軍には脅しを膨らませ、韓軍には脅威を見せない騙し戦略

 軍事力整備をすべて丸裸にしてしまうと、自国の軍事戦略を解読されてしまう。

 見られている部分や、解読されている部分は、大きくアピールするが、解読されておらず秘匿したい部分は隠すこと、あるいは騙すことが軍事策略である。

 隠していることが判明すれば、北にとって不都合なことになる。これらは、大きく2つある。

 一つは、SLBMを開発して、3号までは水中発射台からの発射実験に成功しているが、潜水艦からは実施していないことだ。

 4・5号も、米国との交渉が始まらなければ、水中発射台からの発射実験を行うだろう。発射できる潜水艦は、まだない。

 建造を始めたという情報もない。大型のSLBMを発射できる潜水艦がなければ、米国への反撃能力がないということに等しい。大型SLBMは、現段階では、ただの脅しにしか過ぎない。

 もう一つは、韓国を攻撃して占領する地上部隊の兵器、特に戦車を含む機動部隊の近代化についてだ。

 このことが、韓国に広く伝われば、韓国を騙して、米国との交渉の手段として使えなくなるからだ。

(3)北朝鮮軍の米軍への抑止戦略、韓国への攻勢戦略

)矛海、米軍と戦って勝利できるものではない。

 比較にならないほど圧倒的に米国が有利である。核兵器、長中距離弾道ミサイル、SLBMは、朝鮮半島有事において、米軍を介入させないための核ミサイルである。

 北は、それをよく知っていて今回の党大会での報告で、兵器開発は国家の戦争抑止力と言っている。これも、米国との戦争では、100%勝てないと認識してのことだろう。

 多弾頭個別誘導弾や極超音速滑空弾は、米国のミサイル防衛により打ち落とされないために開発するものであり、結局は北の核抑止力を高めることにつながるものだ。

 さらに、米国が在韓米軍を撤退させるため、休戦協定を平和協定にするための交渉材料にもなっている。

∨未開発した短距離弾道ミサイルや超大型多連装ロケットは、韓国軍特に空軍・海軍・戦術ロケット部隊を攻撃するためのものだ。

 実験は成功し終了していると考えられるので、今後は、数を増やして、部隊に実戦配備することになるだろう。

 北の新型戦車や装甲機動車(パレード登場)は、地上軍機動部隊を近代化するものだ。南侵する場合、これらを運用して、攻撃速度を著しく高めようとする狙いであろう。

 金正恩総書記が開発整備している軍事力は「自衛的国防力」だという。しかし実際には「南侵を実現するための軍事力」だ。

 これこそが、北が言う最も大きな嘘だ。

筆者:西村 金一