競合他社とは対照的に、コロナ禍でピーチは国内線を拡充してきた(撮影:今祥雄)

コロナ禍の「乱気流」に正面突破を試みる――。

国内LCC(低コスト航空会社)のピーチ・アビエーションは12月24日、中部国際空港を発着する新千歳と仙台両空港への路線を開設した。同社が中部発着の定期直行便を設定したのは初めてだ。

ピーチの森健明CEOは就航を決めた背景について、「中部はピーチ創業当初から、いつか就航したいと思っていた。(創業初便となった2012年3月の)就航から間もなく10年を迎えるにあたり、日本全国にピーチのネットワークを張るタイミングだ」と語った。

「鬼門」の中部国際空港に就航

中部は航空会社にとって「鬼門」とも言える空港だ。日本の3大都市圏に数えられる中部圏の大規模な移動需要を抱えているが、首都圏や近畿圏への移動手段としては新幹線などに劣後している。2019年の国内線の乗降客数は、新千歳や福岡、那覇空港などの後塵を拝し、中部は8位にとどまっている。

ピーチが今回就航した新千歳線の座席利用率は、他社の年間実績で71.7%、仙台線に至っては同56.9%と、高需要路線とは言い難い。ただ、これらは2020年11月に経営破綻したLCCのエアアジア・ジャパンが運航していた路線だ。中部発着路線だけを運航していたエアアジア全体の座席利用率は、コロナ影響のなかった2019年12月期で78%に達し、それほど悪い利用率ではない。

ピーチは新千歳、仙台とも、すでに関空や成田発着で乗り入れている。森CEOは2020年10月の東洋経済によるインタビューで、「決して楽なマーケットではないが、北海道と東北にはピーチのユーザーがいっぱいいるため、(現地発の利用で)初期の需要は下支えできる。そこに中部の新しいお客様が上乗せされれば、早期の収益回収もできると思う」と語っていた。

実際、2020年12月24日の新千歳への初便も、180人の定員に対して160人が搭乗するなど上々の出足となった。

コロナ禍で競合の航空各社が国際線、国内線を問わず供給を絞っているのとは対照的に、ピーチは国内線の供給量を増やす強気の姿勢を続けてきた。

2020年から2021年にかけての年末年始、最大手の全日本空輸(ANA)は国内線の提供座席数を前年比で17.1%減らした。日本航空(JAL)やLCCのジェットスター・ジャパンも、ともに同30%程度減少させた。これに対し、ピーチは年末年始の提供座席数を、逆に前年比で17.6%増やした。

年末年始の利用客はわずか58人

ピーチは2012年の初便就航以来、台湾や香港、韓国など近距離アジアへの国際線を成長の柱に据えてきた。コロナ影響が出る前の2019年3月期の国内線旅客キロ(旅客数×運航距離、航空会社の運航規模を示す)は、2015年3月期と比べて34.5%増だった。それに対し、国際線は同112.4%増で、今や国内線と並ぶ規模になっている。

しかし、コロナ禍における検疫体制の強化や需要の急減により、その国際線は2020年3月20日から全便運休を強いられた。同10月25日から一部の路線で運航を再開したが、年末年始の国際線利用客数はわずか58人と、引き続き需要が蒸発したままだ。

そこでピーチが目を付けたのが国内線だ。国際航空運送協会(IATA)によると、世界の航空需要がコロナ前である2019年の水準に戻るのは2024年のこと。ただ、IATAは出入国などのハードルが高い国際線より国内線が早く回復するとみている。


ピーチが就航した中部=新千歳線の初便。2020年12月に就航したため、従業員はサンタクロースのコスチュームで乗客を見送った(記者撮影)

日本の国際線の旅客数も、2020年10月が前年同月比96.6%減と底ばい状態なのに対し、Go To トラベル事業などの後押しのあった国内線は同50.4%減と相対的に戻りは早い。

これを受け、ピーチは2023年3月期までに計画していた国際線の就航計画を先送りし、国内線のそれを前倒ししている。2020年8月には成田=釧路、宮崎線、10月には那覇=新千歳、仙台の各路線を開設。2021年1月には中部=那覇、石垣線、2月には成田=女満別、大分線の運航も始める。

LCCの客層構成も、コロナ禍におけるピーチの集客にプラスに働きそうだ。コロナ禍における航空需要は、リモートツールの普及や一部企業の業績悪化などで、ANAやJALの得意とするビジネス需要の戻りが遅いと見込まれている。一方、LCCは低運賃を武器に、従来から観光客や帰省客に強い。

ピーチの森CEOは2020年7月の東洋経済のインタビューで、「しばらくは海外旅行に行けないため、日本人は『ステイホーム』ならぬ『ステイジャパン』の状況となる。(Go To トラベルなどによって)国内旅行が促進される中で、逆に国内線を増やさないほうが疑問だ。やるなら今しかない」と語っていた。

コロナ第3波後に需要は回復するか

気がかりなのは、コロナ感染第3波による再びの需要低迷だ。年末年始におけるピーチの国内線旅客数は前年比38.6%減の8万6739人にとどまった。利用率は46.8%と低迷し、森CEOの言う「利益を出すために必要な70%以上の搭乗率」にはほど遠い。現状は利益どころか、運航変動費を賄えるかどうかという状況だ。


成田発着路線の拡大について会見するピーチの森健明CEO(撮影:今祥雄)

第3波の収束後に航空需要が回復するペースも不透明だ。そのため、ピーチは得意としてきたレジャー客だけでなく、ビジネス客の取り込みも狙う。森CEOは2020年12月の中部国際空港への就航イベントの際、観光と業務を両立させる「ワーケーション」などの普及を見越し、飛行機を定額乗り放題で利用できる制度を検討していることを明かした。

コロナ前までのピーチは、10%超の営業利益率をコンスタントに叩きだすなど、業界の中でも高収益企業として知られていた。森CEOは第3波によるキャンセル動向に懸念を示しつつ、「2020年度は非常に大きな赤字を抱えてしまうので、2021年度は何が何でも黒字に立つことが最低限必要だ」と黒字転換への意欲を見せる。

早期の黒字化に向けて、柔軟に減便を駆使して変動費を抑制すると同時に、復便できるタイミングで集中的にプロモーションをかけるなど、臨機応変な経営判断が問われる。