約66年の歴史に幕を閉じるANAの紙「時刻表」。その編集業務はどういったものなのか、同社でもっとも長く作成に携わったスタッフに話を聞きました。担当するなかで、同社時刻表の歴史的な転換点にも立ち会ったといいます。

正方形から長方形へのアップデートも担当

 ANA(全日空)が、2020年12月1日〜2021年1月31日運航分をもって紙媒体での「時刻表」を終了し、オンラインのものに移行します。

 ANAでは、2019年から搭乗日を355日前から航空券を購入できるようになりました。これをきっかけに、オンライン化のプロジェクトが始まり、ついに同社の草創期から約66年にわたった紙時刻表の歴史が幕を閉じることに。この長い歴史のなかで、転換期と呼ぼれる時期はどこだったのでしょうか。


ANA機が並ぶ羽田空港(2020年、乗りものニュース編集部撮影)。

 ANAの現役スタッフのなかで、もっとも長く時刻表の作成に携わったひとりが、現在マーケティング室観光アクション部に在籍する角 正弥さんです。角さんは2006(平成18)年から2014(平成26)年までの8年にわたり、時刻表作成を担当していました。

――在任中、時刻表でもっとも変わった点はどういったところでしょうか?

 いちばん大きく変わったところは、時刻表の形を正方形から長方形に変えたことでしょうか。在任期間中、便や曜日などで運賃が異なる「旅割運賃(2006年導入)」やスキップサービス(2006年導入。チェックイン機での手続きをせず保安検査場に向かえるサービス)などを導入したことで、情報量が厚くなっていきました。

 情報を追加するにも、ページは1ページ単位で増やせるものではなく、一度に8ページ増えることになり、ホッチキスで冊子を止めることができないほどの分量になってしまいます。これをうまくお客様にとってもわかりやすい情報をまとめるために、「時刻表は正方形であるべき」といった発想を転換して、形を変えることにしたのです。結果、情報をわかりやすくまとめることもできましたし、冊子のページ数も20ぺ―ジほど、減らすことができました。

 また、言い回しを極力シンプルかつ、簡潔にすることで、将来、情報が追加されたときに対応がしやすいよう心掛けたつもりです。

新たな時刻表の「温故知新」とは

――長方形の時刻表に変えるときに盛り込んだ情報のなかで、入れてよかったものはどういったものでしょうか?

 たとえば、飛行機に持ち込めない危険物についての具体的なガイドラインを盛り込めたのは、よかったのではないかと思います。いまでは「預け荷物として携帯電話などで用いるリチウムイオン電池(発火の恐れがある)は預けることができない」というのは広く知られるようになりましたが、当時はまだそこまでルールが浸透していませんでした。これは、空港の現場のスタッフから「こういったものがあるといい」と要望を受け、盛り込んだポイントです。


過去に時刻表作成に携わっていたANAマーケティング室観光アクション部 角 正弥さん(2020年12月、乗りものニュース編集部撮影)。

――逆に、従来の正方形型のものをあえてこだわって引き継いだものは、どういったものでしょうか?

 ズバリ、シートマップです。これはお客様が「どの席がいい」というこだわるポイントです。飛行機は大小さまざまあり、座席の仕様もよく改修されたりするのですが、できる限り網羅できるように心掛けました。

 ちなみに、私(ANAマーケティング室観光アクション部 角 正弥さん)が時刻表作成を担当していた時期は、ボーイング747-400(「ジャンボジェット」とよばれたかつてのANA主力機)の退役や、ボーイング787の導入など、ANAの使用機材の過渡期になった時期でもありました。

担当者に聞いた 時刻表作成業務の裏側とは

――時刻表の新刊を出す際「わかりづらいけど実は手間がかかっている」といったポイントなどはありますか?

 時刻表の便一覧表の下に書いてある備考の欄は、実はとても手が込んでいるポイントです。時刻表の標記にはたくさんのルールがあります。たとえば、掲載期間の3分の1以上で大型のボーイング747を使い、あとはボーイング767を使う便では、ルール上、より大型の飛行機を表記しなければいけないので、767ではなく「747」を表に出します。また、プレミアムクラスの有無や、運航会社などもきちんと入れ込まなければならないなどのルールもあり、それらをすべて当て込んで記載しなければならないので、時刻表には、そういった多くの情報が詰まっているといえるでしょう。


ANAが作成した長方形の紙時刻表(2020年11月、乗りものニュース編集部撮影)。

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 ミスが許されない時刻表業務ではあるものの、角さんは「大変と思われるかもしれませんが、実はすごく楽しい仕事でした。各部門の業務を知り、ANAグループの展開しているサービス内容を知ることができます。それをわかりやすく形にしてお客様にお伝えすることでANAをご利用いただけることを常に実感できる業務であり、本当にいい経験をしたと思います」とその当時を振り返ります。ANAらしさをだしたポイントは、「搭乗前から搭乗後まで、お客さまに、ひと目でわかるようにレイアウトを考えた」ところだそうです。