スマホ不倫(写真はイメージです)

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 どれだけ密を避ける生活を求められようと、男女の「秘密」の関係を押し止めることはできない。スマホという新たな出会いのツールを得て、妻たちは夫の知らぬ間に深みへとはまっていく。女性の恋愛事情に詳しい夏目かをる氏がリポートする「スマホ不倫」の実態。

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【写真】訳ありカップル(写真はイメージです)

 SNSが浸透するにつれて、不特定多数の人と瞬時に繋がることができるようになり、男女の関係もまた、SNS時代ならではの様相を帯びてくる。数年前から“妻”たちに浸透した「元カレ症候群」は、SNSによって加速していった。これは〈かつての交際相手が忘れられず、新たな恋や、現在の結婚生活に満足できない、あるいはときめかない〉ことを指す。

スマホ不倫(写真はイメージです)

 きっかけは1990年代後半に、小室哲哉プロデューサーに導かれて一世を風靡した華原朋美の芸能界復帰。かつて「現代のシンデレラ」と称された華原だったが、小室と破局すると、度重なる奇行が原因で事務所から契約を解除されるなど、一時は再起不能と言われた。愛する人と別れてから転落する華原に、多くの妻たちの心が揺さぶられたのは、“昔のカレと、輝いていた私”を思い出すからだろう。

 彼女にエールを送る妻たちは、結婚生活で満たされない自分自身の心情を重ねているのだ。

 すらりとした長身に、肩までかかる艶やかなヘア。清楚な装いの主婦・真由美さん(45)=仮名=は、フェイスブックで元カレと繋がったことにうきうきしている。大学時代に付き合っていた有村さん(47)=仮名=からメッセンジャー(フェイスブックのメール)が届いたのだ。

 彼と知り合ったのは25年前。都内の女子大に在学中の真由美さんが、同級生に誘われて遊びに出かけた有名私大の学祭で出会い、グループ交際から、次第に二人きりでデートする関係になった。

 映画観賞や読書が趣味でインドア派の真由美さんとは正反対に、有村さんはダイビングやスキーが好きなアウトドア派。彼の影響でダイビング教室に通った真由美さんは、ライセンスを取得すると夏休みには沖縄で一緒に楽しむようになったという。

「でも、彼が、実家の家業が傾いたことで卒業と同時に地元に戻ったんです。最初の頃は遠距離恋愛をしていましたが、私が都内の企業に就職すると自然消滅してしまいました」

 彼のことは、大学時代の思い出として心の中に大切にしまっておこうとした真由美さん。27歳で外資系企業に転職したが、成果主義の企業体質に疲れて体調を崩し、退職してしまう。

「知人の紹介で7歳年上の経営者とお見合いしました。31歳で結婚してからは目黒区に住んで、夫の会社の事務を手伝うように。でも、長男を出産した頃に夫の浮気がわかり、いまだに複数の女性と関係があります。そのせいで精神のバランスが崩れて心理カウンセラーのもとに通うようになり、5年前からは寝室を別々にしています」

女友達の名前で登録

 夫の浮気に悩まされてから約10年。子育てに専念したが、長男の海外留学が決まると、結婚生活に対する虚しさがどっと噴き出してきたという。

「そんな時に有村くんからメッセンジャーが届いたんです。家業をたたんでサラリーマンになった彼が、出張で上京することになって23年ぶりにランチを楽しみました。彼には妻子がいますが、相変わらず快活な彼に、昔に戻ったような“デジャブ”を感じて、ときめきました。彼と一緒にいると、当時の自分を思い出して新しいことにチャレンジしたくなるんです」

 それから、彼の出張のたびにランチをするようになり、一夜を共にしたのは再会してから半年後のことだった。夫が愛人同伴でゴルフの一泊旅行をした際、彼がたまたま上京したのだ。

「ところが、緊張のせいか彼は私を抱けませんでした。しかも、“君はとても大事な人なのに”と言って、ホテルに誘ったことを謝るのです。それからぎくしゃくして音信不通となりました」

 落胆した真由美さんだったが、1年後に勇気を振り絞って元カレに再会を促した。ひとり息子が留学して夫婦だけで暮らすようになると、夫は真由美さんの前でも構わず、食事中に愛人からかかってきた電話をとるようになったのだ。

「元カレにラインで“助けて”とSOSを出したんです。“私を一人の女だと認めてくれるだけでいいの”とお願いしました」

 ほどなくして、真由美さんは元カレと男女の関係になったという。

「いまもラインでやりとりを続けています。もちろん、フェイスブックでは“友達”にしていません」

 元カレとの恋はひっそりと継続している。

 SNSがもたらす秘密の恋――。それを守るため、妻たちはさほど努力していないようだ。なぜなら、夫が妻の変化に疎いからだ。

「ヘアスタイルを変えても、流行の装いをしても、夫は気づかないんです」

 夫の無関心と鈍感さをこれ幸いと不倫する妻も多い。だがなかには用意周到な妻もいる。

「夫が家にいるときは着信音をオフにして、電源を切る。彼との写真も消去するし、スマホのパスコードは分かりにくく設定して定期的に変更します。彼に大事な用件を伝える際は、ラインではなく、夫がいないときに直接電話する。彼の電話番号は女友達の名前で登録していますが、通話履歴もすぐに消去しますね」

 という念の入れようだ。

 それでも、妻の不倫がバレることはある。まさに夫婦の正念場といえるだろう。

 埼玉県在住で金融機関に勤務する柿崎さん(50)=仮名=は、妻で公務員の恵美さん(49)=仮名=の帰宅が遅いことが気になっていた。土曜日出勤も続き、アルコールの匂いをぷんぷんさせて帰宅するので問い詰めた。すると、「異動先で仕事が溜まっている」「新しい同僚との親睦を兼ねて、土曜は仕事帰りに飲んでいる」との返事だった。

「そのときは納得しましたが、以降も遅い帰宅が続いて、化粧っ気のなかった妻が念入りに化粧をするようになった。これはおかしいと思って、妻が風呂に入っているすきにスマホを覗いたんです。そうしたら、ある男性とのラインのやりとりを発見した。そこには、まるでエロ小説まがいの表現や、ピンクのハートマーク、絵文字が溢れていました。思わずかっとなって妻を問い詰めてしまった」

 すると、妻は逆ギレして不倫を“認めた”という。

 相手は同窓会で一緒に幹事を担った会社員。ラインで打ち合わせをするうちに、いつの間にか意気投合してしまったという。

「“毎日が恋愛気分”という妻に、“オバサンのくせにどの面下げて言えるんだ”と怒鳴ったら、妻も言い返してきて大げんかになりました」

 お見合い結婚から20年。高校生の長男に、中学生の長女の1男1女に恵まれ、妻の両親と同居する“マスオさん”だった柿崎さんは、結婚後、初めて妻に歯向かったという。だが、妻も負けていなかった。

「自分の不倫を棚に上げて、私のキャンプの趣味をけなし始めました。“あなたがキャンプにお金をかけすぎるから、子供たちの教育費は私が払った”と文句を言う始末です」

 夜が更けてもけんかは続いたが、最後は妻の年老いた両親が止めに入ったそうだ。怒りが収まらない柿崎さんは、その日から予定通り1週間のキャンプに出掛けた。そして、自宅に戻らないまま職場に着くと、妻からの郵便物が届いていたという。開封すると、そこには離婚届が入っていた。

「不倫した妻が悪いのに“なぜだ!”と怒りが増して、そのまま離婚に応じてしまいました……」

 離婚から3年。柿崎さんはいまだに子供たちと会えていない。

年下の「王子様」

 妻たちがスマホ不倫に走るのは、「夫から女として認められなくなったのが寂しい」という理由が多い。こうした傾向は、特に、子育てが一段落した女ざかりの40代妻に顕著に見られる。

 都内近郊に住むロングヘアで色白のかおりさん(45)=仮名=は、大人の色気を漂わせるが、メーカーで営業部長を務める夫(50)とは5年前からセックスレスだ。夫は接待や飲み会で連日のように帰宅が遅い。かおりさんは高校生と中学生の2女の子育てをしながら派遣で医療事務の仕事に就いている。寂しさを感じるときもあるが、女友達に恵まれ、女子会では夫の悪口や子育ての悩みを打ち明けあってきた。とはいえ、夫とのセックスレスについて話すことはなかった。

 ところが、

「ある日の女子会で、酔った勢いも手伝ってか友達の一人が、“出会い系アプリで出会った男性とデートをしている”と告白したんです。女子会メンバーは一様に驚きましたが、別の一人も“私もやっている”と。二人とも性的な関係は持たず、食事をしながら話すだけと言っていましたが、とても信じられませんでした」

 かおりさんは友情を重んじて、それ以上、追及することはなかった。ただ、

「そのうちの一人と帰宅する方向が一緒だったので、電車で恐る恐る“アプリ”のことを尋ねたんです。彼女は“ワクワクメール”と“ハッピーメール”を使っていると話していました」

 出会い系アプリのプロフィール写真は、ほとんどが後ろ姿なので身元がバレないという。また、会員登録には身分証明書が必要だが、プロフィール欄に若くサバを読んだ年齢を掲載しても、アプリの運営側から警告などは一切ない。

「サバを読んだほうが男性からの申し込みが多いけど、でも、嘘をつき通すのが面倒くさくなる」と、女友達はひそひそ囁いた。

 かおりさんはその夜、眠れなかった。スマホのアプリには、新しい出会いと未知の世界が待ち受けているような気がした。夫が隣のベッドでうっすらとアルコール臭を漂わせて寝ていた。最近は洗濯物のワイシャツに香水の残り香が染みついていることも増えた。明日も明後日も、飲み会が入っている夫。妻の気持ちなど知りもせず、自分から知りたいとも思わないだろう。

 その瞬間、かおりさんのスイッチが入った。

「翌日、仕事が終わってから、ワクワクメールとハッピーメールに登録しました。ひとつは女友達がいう“年齢サバ読み”、もう片方は実年齢で勝負です」

 5歳若く設定したところ20通以上の申し込みがあったが、夫よりも年上の50代以上の男性が多く、なかには70代の男性もいた。

 一方、実年齢で「大人のお付き合いをしたい」と条件に記すと、意外にも、年下男性から30通以上の申し込みがあった。

「実年齢で登録したアプリに申し込んでくれた男性のうち5人と食事をしました。実際に会うまで、相手がどんな関係を望んでいるのか全くわかりませんでした」

 だが、そこで出会った7歳年下の内科医の男性に、彼女は「王子様みたい」とときめきを覚えたという。

「彼は韓流ドラマに出てくるような切れ長の目のイケメン。年上女性が大好きだけど、結婚相手は年下に決めているそうです。でも、“年下はわがままだからうまくいかないんです”と哀しそうで。そんな姿を見て愛おしくなりました」

 彼とはワインと温泉巡りという趣味が一致。性の相性もぴったりだ。夫から無視されてきた日々を、アプリで知り合った“王子様”が埋め合わせている。

コロナ禍で「ラブホ合コン」

 一方、富裕層の妻もSNSを駆使して不倫をしている。ただし、不特定多数が利用するアプリはリスクが高いため決して使わない。“秘密結社”のように、限られた人たちだけとシークレットな時間と空間を共有するのだ。

 東京・港区に住む貴子さん(48)=仮名=は栗色に染めたショートカットで、くびれたウエストとシャープな小顔が目を引く美人。3歳年上の夫は、外資系企業に勤務して年収は5千万円を超える。エスカレーター式のお嬢様学校に進学し、卒業後に見合いで結婚。ヨーロッパのブランド服と、高級な宝飾品を身に着ける貴子さんは、セレブ妻特有のオーラで周囲を圧倒し、「女ボス」の風格が漂う。

 彼女のやり方はこうだ。

「まず、毎日通うスポーツクラブで不倫願望のある男女とお友達になるんです。そして不倫グループを作って、都内のホテルや高級料理店で合コンをするの。そこで出会った男女がそれぞれの場所(ホテル)に移って、情事にふけるってことよ」

 貴子さんは自ら選んだメンバーでグループラインを作り、不倫中の彼氏を必ず入れる。メンバーは4人から最大8人程度。男女半々の時もあれば、女性が少ない場合もある。グループラインのやりとりは集合場所と時間を確認しあうだけ。単なる食事会を装うためで、「もし配偶者にスマホを覗かれてもバレることはない」と用意周到だ。だが、

「一度、夫から“どうして毎日スポーツクラブに通うの?”と尋ねられた時はヒヤッとしましたね」

 貴子さんはとっさに、ひとり息子が独立して家を出たので寂しくなった、健康と美容のために体を鍛えていると嘘をついた。夫は簡単に納得したという。

「料理の腕前はプロ級。家事は完璧にこなしています」という貴子さんは、コロナ禍でも「ラブホ合コン」という新境地を切り開いた。

「“ステイホーム”期間が終わると、男女8人ぐらいで都内近郊のラブホで合コンしました。大きな部屋と、普通サイズの部屋を三つ、6時間のステイプランで予約します。初めに大きな部屋に全員が集まり、飲食やカラオケを楽しんでから、あらかじめ意向を確認しておいたカップルに分かれて、別々の部屋に向かってもらう。ラブホ合コンがコロナのストレスを発散する場になりました」

 だが、“女ボス”の貴子さんは常に虚しいと呟く。

「若い頃、親の反対で好きな人と結婚できなくて、息子が独立するとやることがなくなってしまった。だから、老いがやってくるまでエロスに溺れるのが私の生きがいです」

 スマホ不倫に走る妻たちの事情はそれぞれだ。

 では、もし妻の不倫を知ってしまった時、夫はどう対処すればよいのか。

 まず大事なのは問い詰めないことである。前述の柿崎さんのように、感情的になって詰問すると妻が逆ギレする場合が多い。

 そして、「離婚しない」、「別居か離婚する」、「どちらともいえない」という三つの選択肢を熟考して、事前に専門家に相談することをお勧めする。もし関係修復を望むのなら、妻の友達などに情報を提供してもらい、妻との話し合いに臨むのもよいだろう。また、「前向きな別居」を選ぶのも冷静さを取り戻す方法である。

 スマホの登場で出会いの場は一層増えた。だがその分、事件・事故に巻き込まれるリスクや、家庭崩壊の危機も激増しているということを忘れてはならない。

夏目かをる(なつめかをる)
秋田県生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。小説家、コラムニスト、ライター。女性の恋愛、婚活、結婚、夫婦問題など幅広く取材。書籍「英語でリッチ!」で第12回ライターズネットワーク大賞受賞。恋愛小説「「眠れない夜」(https://wome.jp/articles/1578)など。10万人に一人の難病を克服。

「週刊新潮」2021年1月14日号 掲載