プログラミングのスキルを身に付ければ在宅で稼げる可能性が広がる(写真:kazuma seki/iStock)

新型コロナウイルスが猛威をふるう中、テレワークの広がりとともに高まっているのが、在宅で稼ぐニーズである。コロナ前と比べ通勤時間が減り、在宅時間が増えたという背景以外に、コロナ禍による本業の収入の落ち込みの補填を目的に、本業以外の仕事を始める人が増えている。こうした状況は『週刊東洋経済』(2020年12月5日号)の特集「在宅仕事図鑑」でリポートしたとおりだ。

メンターと出会えるサービスを起案

在宅ワークで需要も多く、単価も高いのがWebサービス開発などのIT系の仕事。プログラミングのスキルを身につければ、そうした仕事を受注して、本業以外の収入を得る道も開かれる。


一方、プログラミングを身につけると、企業などの開発案件を請け負う以外に、自身でWebサービスを企画・開発するという選択肢も増える。ただし、企業が開発するWebサービスがひしめく中、個人の開発によるマネタイズのハードルは高い。実践者3人にそのコツを聞いた。

「自分が使いたいサービスを作ると、ヒットの確率は高まる」。そう語るのは入江慎吾さん(38歳)。プログラミング学習者とエンジニアをつなぐWebサービス「MENTA」(メンタ)を開発した。

入江さんはもともと、フリーランスのエンジニアとして受託開発を手がけていたが、「自分のサービスを開発したい」と一念発起。受託開発を止め、自前でMENTAを開発し、2018年春にリリースした。


プログラミング学習者とエンジニアのメンターをマッチングする「MENTA」(写真:MENTAウェブサイト)

きっかけは自身の経験だった。プログラミングを身につけるのは難しかったが、かつて開発会社で先輩に教わり、習得することができた。同じように自分が学びたい分野で、ネット上で教えてくれる人(メンター)と出会えるサービスを起案した。

個人でサービスを作り、リリースできても、いかに使ってもらえるかが課題となる。MENTAの場合、ユーザーに加えてメンターも集める必要があった。考えたのはツイッターの活用だ。オープン前にツイッターで利用希望者を呼びかけると、テストユーザー、メンターともに200人近くが集まった。「満を持してオープンし、それからユーザーを集めるより、事前に集めて反応を探るほうがいい」と振り返る。


MENTAを個人で開発した入江慎吾さん。現在はランサーズ傘下で事業運営する(写真は本人提供)

サービス開始時は順調にユーザーが集まったが、2カ月目以降に伸び悩んだ。そこでジャンルをプログラミングに特化。「ニッチ分野に特化したら、結果的に利用されやすくなった」(入江さん)。

その後もユーザーは拡大し、開発やデザイン、顧客対応などの業務を外注化。売り上げは年間4000万円を超え、2020年10月にランサーズに事業を売却。自身も同社に参画し、事業責任者に就いた。

「稼ごうとして作ったのではなく、自分がほしいサービスにこだわったことが、結果的に収益化につながった」と振り返る入江さん。個人のWebサービス開発で重要なのは、「小さく始めること」だと強調する。

「マスを狙うのではなく、1人でも2人でも熱狂的に使ってくれるコアユーザーを探すこと。その人が100円でも払ってくれたら、その周囲にも潜在的なユーザーがいるはず」(入江さん)

機能を広げすぎない

外出先でパソコンの電源やWi-Fi環境のあるカフェや図書館の情報を教えてくれる。そんな電源検索サイト「モバイラーズオアシス」を10年以上運営しているのが、古川大輔さん(45歳)だ。

古川さんはフリーランスのエンジニア。サイトを立ち上げたきっかけは、カフェで仕事する機会が多く、電源やWi-Fi環境を検索できれば便利だと感じたことだった。自分でサイトを開発し、苦手な画面デザインは外注した。

課題は掲載するカフェや図書館の情報をどうやって集めるか。当初は自身でネット検索して掲載したが、その後は「スクレイピング」という、ネット上から自動で情報を取得する技術を導入。情報を提供してくれる人も増え、ユーザー増加につながった。


電源やWi-Fi環境の情報を教えてくれるサイトを起案した古川大輔さん(写真は本人提供)

次第に、自分が知らないうちに、カフェの情報が掲載されるケースが増えていったという。「サービスが開発者の手を離れ、一人歩きした感覚で嬉しかった」と振り返る。

サイトの広告収入を伸ばすことを狙ったが、限界があった。そこで目をつけたのが地図会社。地図会社はユーザーに地図に関連する役立つ情報を提供しており、電源やWi-Fi環境の情報を毎月定額で販売する契約を結んだ。ただ広告と地図会社からの収入では生活には不十分だといい、今も受託開発を続ける。

古川さんは、以前にくらべて個人によるWeb開発はしやすい環境になったと指摘する。「課金や広告を実装する開発ツールが以前より増えたほか、ユーザーがオンラインでお金を払うことにも抵抗感が薄れてきた。ただ競合サービスも増えやすくなっており、どこまで無料にして、どこから課金するかなどバランス感覚が求められる」という。

また、個人開発の際に重要なことは「機能を広げすぎないこと」だともアドバイスする。モバイラーズオアシスも、会員登録機能などはあえて搭載していない。「個人でWebサービスを開発すると、運営も収益管理も全部1人でやらねばならず、リソースが足りない。いかに余計なことを省いたうえで、ユーザーに価値を届け続けるかが問われる」。


「モバイラーズオアシス」は駅名や住所から電源やWi-Fi環境を検索できる(記者撮影)

顔が見えるサービスを作りたい

前出の入江さんも古川さんもプロのエンジニアだが、イチからプログラミングを学んでWebサービスを開発し、マネタイズを果たした人もいる。かしいさん(仮名、29歳)だ。

もともと外資系ITコンサルティング会社で働いていたが、業務用システムを扱う仕事で、Webサービス開発は未経験。プログラミングのスキルもなかった。「もっと使っている人の顔が見えるサービスを作りたい」とWebサービス開発に興味を抱いていたころ、趣味だったお笑いライブの検索サイトが突然閉鎖。「それならプログラミングを学び、自分で同じようなサービスを開発してみよう」と考えた。

思い切って会社を休職し、オンラインのプログラミングスクールに入学。1カ月の受講で「HTML」や「CSS」「Ruby on Rails」といったプログラミング言語を一通り学んだ。しかし、「いくらスクールでコードの書き方を学んでも、いざ自分で書いてみるとエラーが続出。どう解決すればいいかわからなかった」と語る。

そこで思いついたのが、プログラミングに詳しい人と知り合い、疑問をぶつけること。プログラミング関連のイベント情報を調べ、エンジニアが集まる会合に頻繁に顔を出し、エラーの原因などを根気強く尋ねた。「1人だと1つエラーが出ただけで1週間くらい開発が止まったが、詳しい人に聞くことですぐ解決できた。どんな機能を載せたらいいかなど、お笑いファン同士のコミュニティでは得られなかった知識も教わった」。

そうしてお笑いライブの検索サービス「ワラリー!」を完成させ、2018年11月にリリース。ツイッターで頻繁にライブ情報などを発信することでユーザーを増やし、月間30万PVほどを集め、広告費も稼げるようになった。ワラリーは2020年夏、エンタメのデジタル化支援を行うplaygroundに事業譲渡。個人が開発したWebサービスを法人に事業譲渡する例は少なく、それだけ収益拡大のポテンシャルを評価されたといえる。

素人だったからこその強み

かしいさんは現在、フリーのエンジニアとして活動している。プログラミング未経験の立場から開発、事業譲渡に至った経緯を振り返り、「技術を知らない素人だったことが強みになった」という。「プロのエンジニアは使える技術を優先してサービスを作るなど、技術志向になってしまいがち。私の場合、プログラミングの知識が乏しかったことで、技術より自分がほしいサービスにこだわることができた。シンプルなサービスでも、ニッチな市場で先行者になればマネタイズの道は開ける」と語る。

3人に共通するのは、大手が目をつけないニッチ市場で「自分がほしい」と思うサービスにこだわったこと。個人によるWebサービス開発はそこがスタートといえそうだ。

バックナンバーとなる『週刊東洋経済』2020年12月5日号の特集は「在宅仕事図鑑」です。