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 避妊に失敗してしまったときや性暴力の被害に遭ってしまったとき――。予期せぬ妊娠を“事後”に防ぐことができるのが緊急避妊薬(アフターピル)。現在は原則、医師の診察や処方が必要ですが、今後、薬局などで処方箋なしで購入できるようになりそうです。

 改めて、緊急避妊薬とはどういうものなのか? 市販されることの意味について、産婦人科医で赤羽駅前女性クリニック院長の深沢瞳子先生に話を聞きました。

◆一刻も早く服用できれば、高い確率で妊娠を防げる

「アフターピルは性行為から72時間以内に飲むと、妊娠の可能性を80%程度低下させることができます。ただ、80%といっても72時間の平均であって、時間の経過とともに妊娠を回避できる確率は下がります。服用はできれば24時間以内、早ければ早いほどいいです。その意味で、市販される意味は大きいと思います。手に入れられる機会が増えれば、処方してくれる病院を探す手間も、その間の不安も減らすことができます」(深沢先生、以下同)

 たとえば、金曜日の夜にアフターピルが必要になったとき。土日は病院がお休みで、週が明けてからでは72時間ギリギリ。でも、ドラッグストアなら深夜や週末に開いている店は多く、一刻も早く服用できれば、高い確率で予期せぬ妊娠を防ぐことができます。

「性暴力の被害にあった場合ですと、警察に行けば24時間受診できる病院に連絡をとってもらえ、緊急避妊薬の費用もかかりません。でも、実際のところ、警察に相談する人はたったの2.8%という報告もあります。性暴力は顔見知りからの被害が多く、警察に相談しても『同意があったのでは』『痴情のもつれでは』と取り合ってもらえないかもしれないと考えてしまい、警察に相談することを躊躇(ちゅうちょ)される方も多くいます。混乱状態にある中、被害者が自分で病院を探すのは難しい。数日後に病院に行く、警察に行く、ということができたとしても、緊急避妊薬は数日後では意味がありません」

◆市販化に反対する人に“考えて欲しい観点”とは

 緊急避妊薬を女性が必要としたとき、すぐにアクセスできるものに! という声は高まり、政府も検討をはじめたわけですが、一方で市販薬化には根強い反対意見も。いわく、『悪用されるのではないか』『男性がコンドームをしなくなる』などなど。

 しかし、深沢先生は、「今でも非合法で入手することはできるので悪用しようと思えば悪用できます。また、コンドームだけではそもそも完全な避妊をすることはできませんし、性感染症予防のためにもコンドームは必ず使用した方がいいものです。正しい性教育の必要性はもちろんありますが、さまざまな懸念があるからといって市販化をしない理由にはなりません」と言います。

「反対される方の中には、『性暴力の被害にあった人の受診機会を失わせる』と言う方もいますが、性暴力被害者で医療関係者に相談している人は現状でも2.1%しかありません。WHOは意図しない妊娠のリスクを抱えたすべての人に、緊急避妊にアクセスする権利、『リプロダクティブ・ヘルスライツ』があると宣言しています。予期せぬ妊娠を防ぐ権利は医者や警察にあるのではなく、その女性にある。女性の権利をちゃんと女性に返してあげる。その観点で考えるべきです」

「リプロダクティブ・ヘルスライツ」とは日本語では「性と生殖に関する健康と権利」と訳されます。簡単に言うと、自分の身体に関することを自分自身で決められる権利のこと。「妊娠する、妊娠しないを選択できるのはあくまで女性本人。中絶を選択するのも権利だし、避妊薬を選ぶのも女性の権利なのです。薬局で緊急避妊薬を買えるようになれば、性暴力の被害にあった人が、警察や病院などに相談できなくても、せめて緊急避妊だけでも自分で行うことができるようになります」