巨人・菅野智之【写真提供:読売巨人軍】

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単年8億円で契約更改、桑田コーチに聞きたいことも明かす

 巨人・菅野智之投手が14日、日本球界歴代最高となる年俸8億円の1年契約で更改した。リモート取材に応じ、チームや同僚への思い、野球を楽しむ子供たちのこと、そして自分の目指すところ……。“球界トップ”になった金額が取り立たされるが、だからこその責任と自覚があり、伝えられることもある。会見で語った言葉には強い思いが滲んでいた。(金額は推定)

 席に着き、まずは2020年シーズンのことを振り返った。新型コロナウイルス感染拡大で開幕は延期するなど、スケジュールは例年と大きく異なった。そんな中でも、昨季はプロ野球新記録となる開幕13連勝をマークし、エースとして大車輪の活躍。20登板で14勝2敗、防御率1.97の好成績。最多勝と最高勝率のタイトルを獲得した。

「自分自身、パフォーマンスを見ても、まだまだできるなと思う部分がありますし、去年は去年で難しいシーズンでした。ただ、その中でタイトルも取れましたし、残念ながら日本シリーズは負けてしまいましたけど、また日本一になれるチャンスをもらえたので、全て、前向きに捉えています。(今は)目の前の日本一しか考えていないです」

 エースの残留により、投手陣はより厚みを増す。若く、潜在能力の高い投手たちが巨人にはいる。菅野の存在で力が引き上げられる投手も出てくるだろう。日本一に必要なことは自分自身のパフォーマンスを上げるだけではいけないとも感じている。

「(日本一へは)1人1人のレベルアップ。それにつきると思います。戦うのはチーム単位ではありますが、やっぱり、個人個人の差はあるように感じます。個の集結がチームになる。僕はまだ体を動かせてないですけど、このキャンプの時から個人がレベルアップを図って、最終的に束でかかるというのが一番、大事じゃないかなと思っています」

 2月1日のキャンプインまであと少し。メジャー球団との交渉で帰国したばかりとあり、まだ体を動かせてはいない。ただ、過密日程で11月終盤までエースとして投げ続けていた。休息も必要だ。

「ここから徐々に動き始めて、昨年出た課題であったり、強化のポイントはわかっているので、トレーナーさんやトレーニングコーチとメニューを決めてやっていきたいと思います。フォーム的な部分、昨年は平均球速も上がりますしたし、突き詰めていけばもっともっと上がると思う」

 課題をあげるとするならば、シーズン終盤の「疲れ」だという。

「9月の終盤から10月に入るとき、どうしても疲れがあった。根本的な体力なのか、コンディションなのか、そこは難しいですが、そういうところも、突き詰めていきたいです。ただ、徐々にやっていかないと体が壊れてしまうので、徐々に上げて、より厳しく、ハードにやっていきたいです」

背番号18の大先輩、桑田真澄投手チーフコーチ補佐が就任「すごくワクワクしています」

 今季から首脳陣の1人として球団レジェンドOBである桑田真澄氏が投手チーフコーチ補佐に就任した。大先輩の背番号18を子供の頃、ずっと見ていた。黙々とチームのために投げる姿、熱心に勉強した理論、技術は、若手だけでなく、経験豊富な菅野にも好影響をもたらしてくれる。

「本当に尊敬できる大投手ですし、ジャイアンツの18番を長く入団時から引退するまで背負ってこられた方なので、そういう方しかわからない、苦しみや悩みがあると思う。そういうところを聞いてみたいですし、早くお会いしてお話ししてみたいです。すごくワクワクしています」

 桑田氏も巨人退団後、メジャーリーグのパイレーツで08年春までプレーした。アメリカの環境で、野球の楽しさと喜びをまた知った。契約社会の難しさも知った。新しい野球の学びが米国にはある。

 今回、菅野の渡米後、米メディアでは多くの情報が錯綜した。巨人側からの提示内容や契約についてのものだった。この件に関しても、選手として思うことがあった。

「そういう金額というのは、何も根の葉もない情報だったと思いますし、僕が初めて見た情報でもありました」

 年俸に固執したわけではない。自分が憧れ続けたメジャーの舞台で、最高のパフォーマンスを見せられるのかをしっかりと自分の中で判断し、総合的に見た結果だった。移籍を見送った決断の後、様々な意見が飛び交ったが、全てを受け入れる覚悟も菅野にはあった。

「(意見を言う)その人が思っていることも正解だと思いますし、その意見も、もちろんわかります。判断するのは僕であって、僕の人生なので、いろんなことを加味してのこと。契約内容に関しては言えない部分もあるので……。とにかく自覚を持ってやるだけだと思っています」

菅野が背負うものは、どんな時も大きい。伝わる強い信念

 昨年は11月末までシーズンを戦い、12月、1月と多忙な時期を過ごした。巨人に残留することが決まった今、日本一奪回に向けて、気持ちは切り替わっている。この期間にDeNAから梶谷、井納がFAで加入。心強いメンバーが仲間となった。

「頼もしいですし、井納さんとはよく投げ合って、勝たせてもらったので、いなくなってしまうのは寂しいです。梶谷さんはよく打たれているイメージがあります。来てくれてよかったです」

 同僚たちは自主トレを進め、菅野の残留をそれぞれが心強く感じている。それはファンも同じだろう。球界最高年俸選手となった今、この数字に夢を抱く野球少年も多いはず。菅野が背負うものは、どんな時も大きい。それでも、それを力に変えてきた。

「プレッシャーもありますし、その金額に見合った活躍をしないといけない身が引き締まる思いです。野球離れが加速している中で、少しでも野球選手になりたいなと(思ってもらえたら)……しっかりと自覚のある責任のあるピッチングであったり、そういうものをしていけたらなと思います」

 どんな決断をしたとしても、自分が選んだ道で全力を尽くせばいい。帰国後の会見では個人の目標を「20勝」としている。まずはキャンプ、それから開幕投手の座を目指して、進んでいく。

「もっともっと、パフォーマンスも上がると思っていますし、年齢的な部分もありますけど、上を目指せる体だと思っています。若干、昨年の今頃は多少なりとも腰に不安はあったので、あまり攻めて(練習を)できなかったですが、今に関しては体は万全ですし、そういうことも突き詰めながらやっていきたいです。今年が終わったオフにメジャーリーグに挑戦できるチャンスがあれば、そこでチャレンジしたいなと思います」

 まだまだ上手くなりたい。「道半ばです」と何一つ、現状に満足はしていない。野球界の未来のためにもやるべきことはある。そんな強い思いが言葉から伝わってきた。(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)