人材育成や子育てに役立つ「褒める」と「叱る」のベストバランスをご存じでしょうか(写真:shimi/PIXTA)

日本を代表する一部上場企業の社長や企業幹部、政治家など、「トップエリートを対象としたプレゼン・スピーチなどのプライベートコーチング」に携わり、これまでに1000人の話し方を変えてきた岡本純子氏。

たった2時間のコーチングで、「棒読み・棒立ち」のエグゼクティブを、会場を「総立ち」にさせるほどの堂々とした話し手に変える「劇的な話し方の改善ぶり」と実績から「伝説の家庭教師」と呼ばれ、好評を博している。

その岡本氏が、全メソッドを初公開した『世界最高の話し方:1000人以上の社長・企業幹部の話し方を変えた!「伝説の家庭教師」が教える門外不出の50のルール』は発売後、たちまち9万部を突破するベストセラーになっている。コミュニケーション戦略研究家でもある岡本氏が「やる気が爆上がりする世界最高の叱り方」について解説する。

現代人は「正しく叱る力」が著しく低下している

新年早々の「子供も部下も育つ『一流のほめ方』、超簡単7秘訣」で「世界最高の褒め方」のコツについて紹介しました。


たった7つの簡単テクニックで、部下や子どものやる気スイッチを自在に押すことができるわけですが、実際には「ただ褒めてばかり」とはいきません

人を育成するためには、「褒める」ばかりではなく、きちんと「叱り」、「間違いを正してもらう」ことも必要です。しかし、現代人の「正しく叱る力」は著しく低下しているようにも感じます。

口を開けば、「うざい」「〇〇ハラ」などと責められかねないとおびえ、「コミュレス」化する上司。地域や祖父母のサポートなどない子育て環境で、ついついイライラを子どもにぶつけ、怒ってしまう親……。

それもこれも、日本には「正しく叱る技術」が確立・普及していないことも一因かもしれません。

日本人は「なんとなく」「周りがやっているように」「その場の気分で」叱りがちですが、欧米では、コミュニケーションは「科学」で、多くの学者が研究し、その「解」を示している「学問」であり、一生を通じて学び続けるものです。日本では、コミュニケーションがまだまだ「前例」を通して学ぶ「慣習」でしかないのとは対照的です。

今回は、世界のエリートが実践する「世界最高の叱り方」について解説していきましょう。

子育てや人材育成に欠かせない「褒め方」「叱り方」なども、実は多くの研究論文があり、その効果が実証されています。例えば、「褒める」と「叱る」のベストバランスがあるのをご存じでしょうか。

【1】1回叱ったら、6回は褒める

アメリカのコンサルティング会社の研究では、「ポジティブのフィードバックが6」に対して、「ネガティブが1」という割合がベストという結論でした。

つまり、「1回叱ったら、6回は褒めろ」ということ。大切なのは「褒める」と「叱る」のベストミックスというわけです。

「褒める→叱る→褒める」は、実は時代遅れ

【2】「褒めるとき」と「叱るとき」は、きっちり分ける

「褒め方」だけではなく、「叱り方」についても、科学的に検証されています。例えば、日本で最近、人気の「叱るときは、『褒める→叱る→褒める』の順にするサンドイッチ話法」も、実は「時代遅れ」という説が有力です。

気鋭の組織心理学者であるペンシルベニア大学ウォートン校のアダム・グラント教授は「『サンドイッチ話法』は、話し手はいい気分になるかもしれないが、聞き手にとっては何の役にも立たない」とバッサリ。

この「サンドイッチ話法」について詳細に分析した論文によれば、効果を発揮しないのには次のような理由があるそうです。

人は「ネガティビティバイアス」といって、心理的にネガティブワードに引っ張られてしまいがちで、結局、「褒めワードの無駄遣い」になる。

逆に、「叱るべき内容」がポジティブワードの陰に隠れてしまい、きっちりと伝わらない。

このパターンに慣れてしまうと、聞き手は「褒められた後には、何か叱られるのでは?」と思い込み、ただ褒められるべき場面でも、素直に受け入れられなくなってしまう

つまり、「パンの味ばかりで肝心の中身の味がぼやけてしまい、まずいサンドイッチになってしまう可能性が高い」ということです。

ですので、ミックスするよりは、「『叱るとき』と『褒めるとき』は、きっちり分けたほうがいい」というのが最先端の考え方になります。

では、実際に「どんな叱り方」が最も効果的なのでしょうか

まずは、やってはいけない「叱り方のNGパターン」は次の5つです。

【3】「叱り方5大NG」をやめる
.瀬畚个:何に対してもとにかく否定ばかりする
押しつけ:自分の意見を押しつける
7茲瓩弔:根拠なく、思い込む
つ后垢箸靴神盒
ゴ蕎霤に怒りをぶつける

「ダメ出し」「押しつけ」「決めつけ」あるいは「長々とした説教」……。どれも叱るときに、ついやりがちですが、一方的に自らの考えを押しつけ攻撃する行為は、相手を防御に追い込み、かたくなにさせてしまいます

「感情的に怒りをぶつける」というのも、私自身、ティーンエージャーの息子に時々、やってしまうのですが、「自分のむしゃくしゃやうさを晴らそうとしているだけだろう」とよく言われてしまいます。

「叱っている本人のため」ではなく、「叱られている当人のため」であることが、きっちりと伝わっていない限り、うまくはいきません

「その人のために叱っている」ことをきちんと伝える

【4】「あなたを信じ、あなたのことを思っている」ことを伝える

叱るときに大切なのは、相手に「『攻撃されている』という気持ちを抱かせない」こと。グラント教授によれば、次の「セリフ」を述べてから要件を伝えると、40%も効果が上がったそうです。

「今から言うことは、君に対しては非常に高い期待を持っているからだ。そして、君ならその期待に応えられると、私は信じている」

つまり、叱る相手に「あなたを信じ、あなたのことを思っている」ということをしっかりと理解してもらうことが大切だということです。

そもそも、人は自ら考え、自ら「気づき」を得なければ、本質的に変わることはできないもの。あなたがどんな正論を唱え、相手を攻撃したところで、あまり意味はありません。

それよりは上手に「質問」をしながら、相手に「問題」も「解決策」も自分で発見させるように仕向けるほうが、よほど効果的です。

では「5大NG」を避けたうえで、どのように叱ればいいのか。

相手の心にしっかりと届く、「建設的なネガティブフィードバック」(批判的な評価を伝え、改善を促す)には、次の「4つの要素」が盛り込まれていなければなりません。

【5】叱り方に「4大要素」を入れる
叱るべき事実
なぜ、それがダメなのか(理由)
それについて自分はどう思うか(主観)
げ魴荳を提示させる

叱るときは「事実」「理由」を盛り込み、「解決策」を提示させる。「主観」というのは、相手を主語に「だから、お前は●●なんだ」と非難するのではなく、自分を主語に、「私は非常に残念に思った」というように「思い」を伝えるようにするのです。

【ダメな叱り方】

上司:「報告をしなくちゃダメじゃないか! 忘れるとはどういうことだ!! 無責任だ! そういうところがダメなんだ!(激怒)
部下:「すみません……」

【グローバルエリートの4要素を入れた叱り方】

上司:「今日、大切な報告がなかったね(事実)。これがないと、全体の業務が大きく遅れてしまうんだよ(理由)。僕としては非常に残念だね(主観)
部下:「忙しくて、忘れてしまいました。すみません」
上司:「時々あるようなんだが、どのような形にすると、忘れないだろうか(解決策を提示させる)
部下:「では、これからはスケジュールでリマインダーが出るようにセットしておきます。以後、気をつけます。申し訳ありませんでした」

これは「子どもの叱り方」にも使えるテクニックですね。

例えば「子どもの叱り方」だと、このように応用できます。

【ダメな叱り方】

:「なんで片付けないの!だらしない!何度言ったらわかるの!!いい加減にしなさ〜い!!(激怒)
:「うるさいな、もう!」【4要素を入れた叱り方】

:「部屋、汚いよね(事実)。ごみを捨てないと、ゴキブリが来るよ。昨日、ベランダで見かけたから、このままだとまずいよ(理由)。お客さんが来るから明日までに片付けてもらえると、とってもうれしいな(主観)。何から先に片付ける?(解決策を提示させる)
:「うーん。じゃあ、机から」

「正しい叱り方」を身に付けたコミュニケーションを

ギャラップ社の調査では、例えば「ネガティブでも、フィードバックがあった人」のエンゲージメント(やる気、コミットメント)は、「まったくフィードバックを受けない人」の20倍にものぼったそうです。

最悪なのは、ポジもネガも、何のコミュニケーションもないことです。

「褒める」ことはもちろん大切ですが、上手に叱ることで、相手のやる気も、あなたの人望も、ぐんと高めることができます。

コミュニケーションは「なんとなく」「周りがやっているように」では、実はなかなか効果を発揮しません。「間違った常識」に縛られるのではなく、「世界標準の方程式」を知ることで、「話し方」「褒め方」「叱り方」、すべて、うんとラクに、楽しくできるようになります。

「正しく褒めて」「正しく叱る」――。「正しいスキル」を身に付け、世界のトップエリートのような「モチベーションの魔術師」に、ぜひなってみてください。