気づけばIT後進国に……(写真:barks/PIXTA)

経済大国だった日本が、なぜ中国に追い抜かれてしまったのか?

その秘密は「リープフロッグ」にある。遅れてきた者が、先行者をカエルが跳ぶように追い越すことだ。世界の覇権争いの歴史を振り返ると、リープフロッグ=逆転勝ちの連続だったといえる。「日本が世界で躍進したのに今に繋がってない訳」(2021年1月7日配信)に続いて、『リープフロッグ 逆転勝ちの経済学』より一部を抜粋、再構成してお届けする。

国際ランキングで、トップから34位に転落

さまざまな国際比較ランキングで、日本の地位は低下を続けています。スイスの国際経営開発研究所(IMD)の世界競争力ランキングで日本の順位をみると、ランキングの公表が開始された1989年から1992年まで、日本は1位を維持していました。その後、順位が下がったのですが、1996年までは5位以内でした。

しかし、1997年に17位となり、その後、低迷を続けました。そして、2019年では、過去最低の30位まで落ち込んだのです。ここで止まらず、2020年版では、日本は34位にまで低下しました。30年の間に、トップから34位という、大きな変化が生じたのです。

デジタル技術では、2020年に日本は62位でした。対象は63の国・地域ですから、最後から2番目ということになります。

日本がこのように凋落し、世界の中での地位を下げてきたことは、日本国内で、必ずしも明確に認識されたわけではありません。

それは、エレベーターに乗っている人の感覚のようなものです。扉が閉められて外界の様子が見えないと、下降しているにもかかわらず、室内の人々との相対的な位置は変わらないので、高度が下がっていることが認識できません。それと同じことです。先に述べたようなデータがあっても、抽象的な数字なので、あまり強い危機感を抱かなかった人が多かったのではないかと思います。

しかし、そう考えていた人々も、新型コロナウイルスへの対処でのデジタル化の遅れには、目を覚まされたと思います。日本政府はITでほとんど何もできないことが暴露されたのです。

定額給付金申請では、マイナンバーを使ったオンライン申請が可能とされました。しかし、市区町村の住民基本台帳と連携していなかったため、自治体の職員は照合のために膨大な手作業を強いられ、現場は大混乱に陥りました。その結果、100以上の自治体がオンラインの受け付けを停止し、郵便での申請を要請しました。「オンラインより郵送の方が早い」という、笑い話のような事態になったのです。

新型コロナウイルスの感染者数把握作業では、当初、FAXで情報を送り、手計算で集計していました。この作業が保健所に過大な負担をかけたので、新システムであるHER─SYSが5月末に稼働を始めました。しかし、このシステムが使いにくいことから、東京や大阪は利用せず、FAXに頼り続けました。

霞が関の省庁間では、システムの仕様の違いから、コロナ対策を協議するテレビ会議ができませんでした。やろうとすると、複数の端末が必要でした。

他方で中国は、最新技術を駆使して新型コロナウイルス感染拡大を阻止しました。台湾も、「デジタル担当大臣」のオードリー・タンの指導で、マスクの配布などを見事に処理。

コロナという異常事態に直面して始めて、日本がこうした国とは比較できないほど遅れていることが分かったのです。

中国にはない「レガシー問題」を引きずる日本

リープフロッグは更地に建物を建てるようなものです。古い建築物が残っていると、そこを更地にするために費用がかかります。解体費用だけではありません。人が住み、事業が行われていれば、立ち退きのために、厄介な交渉が必要になるでしょう。

実は、コンピュータシステムにおいても、「古いシステムが残って稼働し続けているために、新しいシステムに移行できない」という問題があるのです。これは「レガシー問題」と呼ばれるものです。

日本は、メインフレームコンピュータの時代において、世界のトップにいました。ところが、その当時の技術体系にうまく対応しすぎたために、その後に生じたコンピュータシステムの変化に対応することができなかったのです。

コンピュータに要請される機能はどんどん増えたので、1980年代の仕組みそのままで稼働しているわけではなく、その後の要請に対応しています。

ただし、全体を一新したのではなく、基本的な仕組みはそのままにして、それを部分的に修正したり、新しい機能を追加するなどの方法で対応しました。つまり、つぎはぎで対応してきたのです。

複雑になりすぎたコンピュータシステムを改善しようとしても、どこかをいじるとどんな影響がでるかが分からず、「怖くて手が出せない」という状態になってしまったからです。そのため、何とか古いシステムを使い続けるという状態が続いてきました。この結果、「コンピュータシステムの内容が複雑怪奇なものとなり、全体としてどうなっているのか、誰にも捕捉できない」という状態になってしまったのです。

こうしたシステムでは、プログラム言語も、1980年代に使われていたCOBOLという言語がそのまま使われています。プログラム言語は、その後変わったために、いまではCOBOLを理解できるエンジニアは高齢になってしまいました。そうした人々は、やがて退職していきます。そうすると、現在のコンピュータシステムの中身がどうなっているのかがまったく分からないという事態が生じかねないのです。

つぎはぎで作ったために、異常な入力があった時、反応してシステムが止まってしまうことなどが起こります。古い世代のエンジニアが2025年頃に退職することから、この問題は、「2025年の崖」と呼ばれています。

これは、2018年に経済産業省の研究会が警告を発したものです。このレポートのタイトルは「DXレポート」というものです。「DX」(デジタル・トランスフォーメーション)という言葉は、一般には、「デジタル化を進めて、生産性を上げる」という積極的な意味に使われることが多いのですが、「DXレポート」が指摘しているのは、日本が後ろ向きの意味においてきわめて深刻な問題に直面していることです。このレポートは、日本のデジタル化予算の大部分がレガシーシステムを維持するだけのために取られてしまうと警告しています。

問題は、1990年頃から、情報システムが大型コンピュータから分散化されたITに移行していった過程で、日本の組織がうまく対応することができなかったことです。なぜ対応できなかったのでしょうか?

ここでは、経営者の役割を考えましょう。

レガシー問題は原理的には対応できない問題ではないのですが、そのためには、経営者が問題の本質を的確に捉えていることが必要であり、さらに、決断とリーダーシップが必要です。

アメリカでは、こうした条件を満たす人々が経営者であると考えられています。経営者とは、専門的な職業であると考えられているのです。

経営危機に陥ったIBMを救うために、ルイス・ガースナーが全く畑違いの企業であるナビスコからIBMのCEOに招かれてIBMを再建したことは、よく知られています。

ところが、日本の場合には、経営者は経営を行う専門家ではなく、その組織の中で出世の階段を最後まで登ってきた人なのです。

日本は19世紀のイギリスと同じ

したがって、デジタル化について理解がある経営者はごく少数です。本来であれば、デジタル化に関する知識は、専門家としての経営者にとって必須の知識のはずです。しかし、日本では、必ずしも必要なこととは考えられていません。これは、深刻な問題です。


第2次産業革命が起きたとき、イギリスが立ち後れました。イギリス社会は、蒸気機関やガス灯などの技術に社会が適応してしまっていたために、第2次産業革命の主要な技術であった電気に対応できなかったのです。これと同じようなことが、いまの日本で起きています。コンピュータのレガシーシステムを引きずっているのです。

ところが、中国は、メインフレームコンピュータの時代をまったく経験していません。その当時の中国は社会主義経済であり、コンピュータの利用などおよそ考えられないような状態だったからです。

中国におけるITの進歩が著しいのは固定電話を経験していないからなのですが、メインフレームコンピュータの時代を経験していないことの意味は、これよりずっと大きいかもしれません。