東京都内の路線バスには細道をゆく路線がいくつか存在します。広い道から突如として細い道へ入っていく、ルートの読めなさもバスの醍醐味のひとつ。その運行にも工夫が見られます。

日本有数の繁華街をバスが行く!

 路線バスのなかで、とりわけ細い道をゆく路線は「狭隘(きょうあい)路線」と呼ばれ、高度な運転テクニックが見られることから、バスファンのあいだで注目される存在です。東京23区内にもいくつか、そのような区間が存在します。

 今回は東京23区内で大型車(全長10mから11.5m、車幅2.5m)あるいは中型車(全長8mから9m、車幅2.3m)が走る狭隘な区間を5つ紹介します。

渋谷センター街・東急百貨店本店付近(渋谷区)

●経由する主なバス
・京王バス/都営バス「渋66」:渋谷駅〜阿佐ヶ谷駅前

 渋谷駅と阿佐ヶ谷駅を結ぶ渋66系統は、渋谷駅周辺のルートが上下線で異なり、阿佐ヶ谷方面行きは渋谷センター街エリアを貫く井の頭通りを、渋谷駅行きは東急百貨店本店裏の細道を進みます。

 いずれも大部分が一方通行路ですが、日本有数の繁華街ということもあり、歩行者がバスの目の前を横断していくこともしばしば。とりわけ人出の多いハロウィンの時期には、ルートを変更し、京王バスの他路線が通る渋谷区役所に発着させるといった対策がとられます。


渋谷センター街を行く渋66系統の京王バス(乗りものニュース編集部撮影)。

雑色駅通り・六郷神社付近(大田区)

●経由する主なバス
・京浜急行バス「蒲73・74・75」:蒲田駅(東口)〜六郷神社〜大師橋下〜羽田車庫

 JR蒲田駅から、JR線と並行する京急線との間をまっすぐ南下するのが、京浜急行バス蒲73などです。蒲田駅からしばらくは片側2車線の広い道ですが、蒲田郵便局交差点から一気に狭まり、京急線 雑色駅の南側まで続く商店街を進みます。

 この商店街区間も歩行者や路上駐車のクルマが多いところですが、とりわけ狭くなるのは商店街を抜けた先。バスが左折し、京急線の高架をくぐり第一京浜(国道15号)に出るまでのあいだです。バス停でいうと変電所前〜六郷神社間ですが、この区間は上下線でルートが異なり、どちらも狭い一方通行路になっています。

狭く見通し悪い「誘導員常駐」区間も

 住宅街の狭隘区間を行く路線もあります。

榎〜仙川駅入口(世田谷区〜調布市)

●経由する主なバス
・小田急バス「成06」:成城学園前駅西口〜榎〜千歳烏山駅南口
・同「成02」:成城学園前駅西口〜榎〜千歳烏山駅北口
・同「歳20・21」:成城学園前駅西口〜榎〜千歳船橋駅
・同「成04・05」:成城学園前駅西口〜仙川駅入口〜調布駅南口・狛江駅北口

 小田急線の成城学園前駅から北へ向かう小田急バスの多くが経由する都道118号(調布経堂停車場線)には、道幅が極端に狭くなる区間があります。世田谷区の榎交差点から仙川を渡り、調布市に入って仙川駅付近までの区間で、アップダウンもあり乗用車でもすれ違いに苦労するほど。バスの運行にはドライバーどうし、あるいはバスと乗用車のドライバーとの譲り合いが欠かせません。

 なお、榎側は主に千歳烏山駅や千歳船橋駅に発着するバスが、仙川駅入口側は調布駅などに発着するバスが、それぞれ狭隘区間の一部を経由していますが、なかには狭隘区間を全て通る便もあります。


若葉町2丁目付近で行き違う小田急バス(乗りものニュース編集部撮影)。

下石神井1丁目付近(練馬区)

●経由する主なバス
・関東バス/西武バス「荻11」:荻窪駅北口〜井荻駅入口〜石神井公園駅
・関東バス「阿50」:阿佐ヶ谷駅〜下井草駅〜石神井公園駅
※西武バスのバス停名は一部異なる。

 環八通りから北西の石神井公園方面へ延びる都道25号「旧早稲田通り」は、閑静な住宅街のセンターラインもない細い道を、バスが行き交います。やはり乗用車でもすれ違いに難渋するほどですが、中でも下石神井1丁目バス停付近には見通しの悪いカーブが存在。ここには小さな詰所があり、常駐する誘導員がバスの行き違いなどをサポートしています。

 上記2系統のバスの狭隘区間はこれで終わりではありません。起終点である石神井公園駅南口近くの商店街も非常に狭隘で、やはり、直角カーブの箇所に誘導員が常駐しています。

目黒名物!?「境内突破バス」もちろん激セマ!

 狭隘路線というだけでなく、特殊ダイヤも存在する名物路線があります。

目黒不動尊付近(目黒区)

●経由する主なバス
・東急バス「渋72」:渋谷駅東口〜恵比寿駅〜目黒不動尊〜五反田駅

 渋谷駅と五反田駅のあいだで、山手線の内側と外側をジグザグに結ぶ渋72。狭隘区間が長いのみならず、やや特殊なルートを走ることから、バスファンにも比較的知られた存在かもしれません。

 バスは目黒通りと中原街道のあいだで、住宅街の細い道を経由します。この途中にあるのが目黒不動尊(瀧泉寺)で、目黒不動尊バス停はその境内に立っています。もちろん境内は公道ではなく、路線バスのみが通行を許された狭隘ルートです。

 しかし、毎月28日の縁日や正月などには、境内のバスルートにビッシリと出店が並びます。このため目黒不動尊バス停は休止され、路線が“分断”されるのです。これは「縁日ダイヤ」と呼ばれ、渋谷駅からのバスは林試の森入口で、五反田駅からのバスは不動尊門前でそれぞれ折り返し、両者のあいだは「徒歩連絡」となる旨が車体の表示器にも示されます。なお、通し利用を希望する乗客には乗り継ぎ券が配布されます。


縁日ダイヤのため、不動尊門前で何度も切り返しながら転回する東急バス(乗りものニュース編集部撮影)。

 不動尊前後の道路も狭く、転回場などは存在しません。渋谷駅および五反田駅から到着したバスは、誘導員がサポートするなか、狭い路地に車体を突っ込ませ、何度も切り返したのち、反対側のバス停に停車して復路の運行に就きます。

※ ※ ※

 今回紹介したバス路線は古くから運行され、また狭隘な区間も、周囲の幹線道路ができる以前から存在していた道路ばかりです。そうしたなかでバスを安全に利用できるのも、ドライバーの技量と、各エリアで営業するバス事業者が長年にわたり培ってきたノウハウに支えられているからといえるでしょう。