いつも以上に若手選手がピッチに立った2020年のJリーグ。そのなかで2021年、さらなる飛躍を見せてくれるのは誰か。試合をウォッチしてきた識者にイチ押しの選手を挙げてもらった。

従来の日本にいなかった大型FW
原大智(FC東京)

杉山茂樹(スポーツライター)

 日本は低身長国。平均身長178.8センチは、ロシアW杯に出場した32カ国の中で30番目だった。一般的に、選手の動きは平均身長を超えるほど緩慢になる。巧緻性が失われていくものだが、日本人選手はその限界のラインを、少しずつ更新している。大型選手の像は変わりつつある。

 とはいえ、190センチを越えるとさすがに厳しいのではないか――という常識に相変わらずとらわれていた。それだけに、原大智は眩しい存在として映った。2019年にFC東京U−23でJ3の得点王に輝き、2020年トップチームに昇格した21歳だ。


2020年にトップチーム入りした原大智(21歳、FC東京)

 身長191センチといえば、空中戦をはじめとするポストプレーを連想する。相手ゴール付近に立ち、目印の役目を果たそうとする。だが、原が起用された場所は4−3−3の右ウィングで、CFに比べて機動力が求められる。これまで長身選手には適さないとされてきたポジションだった。

 それは従来の長身選手の多くは、ドリブルという武器を持ち合わせていなかったからだ。もっと言えば、器用そうではなかったからだが、原はそうした意味で例外になる。膝から下の動きがしなやかで、小刻みなタッチができる。足も速い。俊敏で縦への推進力もある。

 真ん中もできれば、サイドもできるオールラウンダー。多機能性に富んだ長身FW。かつての日本代表である原博実、高木琢也というよりは、マルコ・ファン・バステン、ルート・ファン・ニステルローイ、最近でいえばロベルト・レバンドフスキ的だ。

 従来の日本サッカー界には存在しなかったタイプ。順調に成長することを誰よりも期待したくなる選手だ。

「最低でも日本代表」の器のサイドバック
中野伸哉(サガン鳥栖)

小宮良之(スポーツライター)

 2020年のサッカー界で、ルーキーとしては一番の衝撃だった。

 サガン鳥栖の左サイドバック、中野伸哉(17歳)は、「世界」の入り口にいる。そのサッカーセンスは非凡。Jリーグの歴代選手でも屈指だろう。たとえば鳥栖で言うなら、鎌田大地(現フランクフルト)以来の才能だ。

「とにかくスピードがある」と、鳥栖のチームメイトたちは口をそろえる。初速が速く、ステップも細かい。守るにも攻めるにも、それだけでアドバンテージだ。


2020年8月、クラブ史上最年少出場記録でデビューを果たした中野伸哉(17歳、サガン鳥栖)

 もっとも、単純な速さだけではない。初動が早い理由は、予測力にある。半歩だけで違う風景になるのがトップレベルのサッカーだが、彼は常にプレーを読み、適切なポジションを取ることができる。

 最終節の大分トリニータ戦でも、4回、5回とインターセプトに成功する一方、ボールを引き出す動きだけでマークに来た相手を置き去りにし、攻撃に転じていた。敵味方の動きを読み、スペースを認知し、何よりタイミングを心得ている。間合いが抜群で、居合斬りのように一瞬で相手と入れ替われるのが特徴だ。

 こうしたセンスはトレーニングで鍛えるのは限界がある。中野はそれを天分のように持ち合わせている。

 左利きでありながら、右足でも同じように蹴れるというのも、大きな利点と言えるだろう。相手は的を絞れない。自ずとプレーの選択肢が豊富になるのだ。

 2021年、中野はJリーグを代表する左サイドバックになっても不思議ではないだろう。コロナ禍で不透明とはいえ東京五輪代表のメンバー入りも不可能ではないし、日本代表も遠くはない。「最低でも代表になれる器」であり、その飛躍は日本サッカーの希望だ。

抜群の加速力を誇るサイドアタッカー
畑大雅(湘南ベルマーレ)

浅田真樹(スポーツライター)

 毎年のように主力を他クラブに引き抜かれながらも、新たな若手を代わりの主力に育てる。そんな育成型サイクルが、この10年ほどは滞ることなく続いている湘南ベルマーレにあって、2020年シーズンはまたひとり、楽しみな10代が台頭してきた。

 18歳のサイドアタッカー、畑大雅である。


2020年8月、プロデビューを果たした畑大雅(18歳、湘南ベルマーレ)

 2019年、畑はU−17日本代表の右サイドバックとしてU−17ワールドカップに出場。スピードを生かした攻撃力を武器に、日本のベスト16進出に貢献した実績を持っている。

 だが、当時の畑は「経験を積み重ねながら、周りの選手に技術や判断でも追いつこうと取り組み、だいぶ成長した」(森山佳郎U−17日本代表監督)とはいえ、まだまだ優れたポテンシャルを持て余している印象は否めなかった。

 今季J1でも、第21節までに出場した試合数はわずかに2。時間にして合計15分。秘めたる才能に疑いはなくとも、粗削りゆえ、プロの練習でもっと鍛える必要があるのだろうと想像できた。

 ところが、才能の発芽は急だった。

 畑は第23節で初めて先発起用されると、以降は最終節まで13試合連続先発出場。一瞬で相手DFを振り切る抜群の加速力で、たちまち主力の座を手にしてしまったのである。

 ポジションこそ、高校時代とは逆サイド(3−5−2の左アウトサイドMF)に移った。だが、本人によれば、「僕のよさを最大限生かせる配置にしてもらっている」という。

 高卒ルーキーながら、デビューシーズンで15試合1170分出場。ブレイク前夜の俊英は、課題が多いのは確かでも、だからこそ底知れぬ可能性を感じさせる。

複数のポジションをこなす「実戦派」
成瀬竣平(名古屋グランパス)

中山淳(サッカージャーナリスト)

 2019年はリーグ戦の出場がわずか1試合で出場時間は45分。ところが2020年のリーグ戦では25試合に出場し、スタメン18試合、出場時間は1682分に急増した。昨年は多くのティーンエージャーが台頭したが、18歳の成瀬峻平の成長速度はそのなかでも突出していた印象だ。


2000年、出場時間を大幅に増やした成瀬竣平(18歳、名古屋グランパス

 開幕当初、右SBのレギュラー宮原和也の負傷により、成瀬にとっては降って湧いたような出場機会といえたが、そのチャンスを逃さずに定位置を確保したこと自体が、いい意味で予想外だった。

 シーズン終盤こそ夏に加入した韓国代表オ・ジェソクにスタメンを譲ったが、試合を重ねるごとにレギュラー格の雰囲気を漂わせたことは驚きでもあった。気がつけば、「吉田豊、丸山祐市、中谷進之介、成瀬」の鉄板バック4が完成。アジアチャンピオンズリーグ(ACL)出場権獲得にも大きく貢献した。

 風間八宏前監督のもと、2018年に17歳でプロデビューを果たした成瀬は、決してテクニックのレベルが高いとはいえないが、スピード、スタミナ、ゲームセンスに優れているのが最大の特長。両SB、MF、ウィングと複数ポジションをこなす器用さも兼ね備え、左右両足を使えるという"売り"もある。技術に頼りがちな日本人の若手には数少ない"実戦的"な選手で、試合のなかで伸びていくタイプと言える。

 調子の波があるなど課題は多いが、この成長速度を持続できれば2021年に大ブレイクする可能性は十分にある。頭角を現した2020年もそうだったが、特に守備の指導に長けるマッシモ・フィッカデンティ監督の指導を受けられるということが大きなアドバンテージになるだろう。

日本代表の兄を超えるアタッカーに
浅野雄也(サンフレッチェ広島)

原山裕平(サッカーライター)

 32試合に出場し、5ゴールを記録したのだから、すでにブレイクしたと言えるかもしれない。しかし、そのポテンシャルを考えれば、こんなものではないという見方もできる。今季、サンフレッチェ広島で頭角を現した浅野雄也のことだ。


2000年、移籍するやすぐにチームの武器となった浅野雄也(23歳/サンフレッチェ広島)

 日本代表FWの浅野拓磨(パルチザン・ベオグラード)を兄に持つ23歳のレフティは、2000年、水戸ホーリーホックから広島に加入(契約上では2019年に加入するも、同年は期限付き移籍により水戸でプレーした)。当初はドリブルを武器としたサイドプレーヤーと目されていたが、シャドーの位置にポジションを移すと、ゴールに直結する仕事をこなすアタッカーとしての能力を開花させた。

 兄にもひけをとらないスピードを持ち、左利き特有のボールタッチの細かさは兄にも勝るだろう。ゴールを奪う能力こそ譲るものの、独力で局面を打開できるスキルの高さは、今季の広島の武器のひとつとなった。

 持ち味はやはり、果敢に仕掛けるドリブルだ。バイタルエリアでボールを受けると、迷うことなくゴールに向かって、フィニッシュに持ち込んでいく。力強く振り抜く左足の精度も高く、遠い距離からでも高い確率で枠を捉えていく。もちろん、スピードを生かした裏抜けも得意とし、ショートカウンターの急先鋒としての役割もこなす。

 年末にはU−23日本代表のトレーニングキャンプメンバーに選出されたように、評価は急上昇中。ゴール前での駆け引きと判断力に磨きがかかれば、J1の舞台で兄も成し遂げられなかった二桁得点も十分に狙えるだろう。