激動の一年…鹿島が「絶不調」を脱して「復活」できたワケ

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J1の鹿島アントラーズにとって、今季は激動のシーズンだった。

新たにザーゴ監督を招聘した今季は、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)のプレーオフで敗退し、開幕からリーグ戦4連敗を喫して最下位に沈むなど、絶不調でスタートした。

そこから徐々に調子を上げて、13節の柏レイソル戦後に今季初のひと桁順位に入ると、最終的にリーグ戦を5位で終えるまで巻き返すことに成功した。

今回の当コラムでは今季の鹿島を総括し、シーズン中にあったトピックたちをテーマにこの1年間を振り返っていきたい。

ラスト5試合の基本形

上図がリーグ戦ラスト5試合での基本システムおよびメンバーだ。

守護神は今季途中から定位置を確保した沖悠哉で、最終ラインは右から小泉慶、DFリーダーの犬飼智也、町田浩樹または奈良竜樹、山本脩斗の4人。

ダブルボランチは攻守の支柱である三竿健斗とレオ・シルバで、サイドハーフは右がファン・アラーノ、左は土居聖真が主に起用された。

最前線はともにリーグ戦ふた桁得点を記録し、万能型であるエヴェラウドと上田綺世が2トップを組み、実績豊富な伊藤翔がベンチに控える。

常勝軍団が“絶不調”に陥った理由

冒頭で触れた通り、今季の鹿島は序盤にかなり苦しんだ。その最大の理由は、チーム戦術の大幅な変更にあった。

これまでの鹿島は絶対的な戦術を持たず、相手の動向に応じて試合の進め方を決めていくのが常であった。鋭いカウンターやセットプレーからの一発をしたたかに守り切る姿こそ、鹿島の真髄だった。

今季より指揮を執るザーゴ監督は、伝統のスタイルとは真逆の戦術をチームに植え付けた。

ゴールキーパーを含めた最終ラインからのビルドアップを徹底し、いかなる状況下においても自分たちが主導権を握るスタイルへの転換を図ったのだ。

これまでとは180度異なるスタイルの導入により、戦術が浸透していなかった序盤戦は特に苦しんだ。思うようなポゼッションができず、まだ選手間のイメージも共有できていなかったため、崩しの形が確立できなかったのである。

戦術変更の中で輝いたレフティーとストライカー

苦境の中でキーマンとなったのが、鹿島一筋を貫くベテラン・遠藤康だった。

トップ下の位置で起用され、3トップを操る役割を与えられると、持ち前の巧みなパスセンスをいかんなく発揮し、新戦術の中心的な役割を果たしたのだ。

プレービジョンに優れ、起点となれる遠藤が攻撃のタクトを振るうことで、攻撃が円滑に回りだし、徐々に崩しの形が構築されていった。

そして、中々フィットできずにいたエヴェラウドが5節以降に真価を示し始める。

フィニッシュワークはもちろん、ポストプレーやサイドに流れてのチャンスメイクもこなす背番号9は左ウイング/CFで躍動した。

最終的には2トップの一角に入り、チームトップのリーグ戦18ゴールをマーク。加入1年目でベストイレブンに輝く活躍を披露している。

新時代の到来へ、宿った希望の灯火

新戦術が浸透したチームが段々と調子を上げていく中で、クラブの次代を担うべき若手たちも成長を遂げた。

特に大きなサプライズとなったのが、新守護神に定着した沖だ。

沖悠哉

9節のサガン鳥栖戦でリーグ戦デビューを飾ると、12節のガンバ大阪戦からレギュラーに抜擢。落ち着いた振る舞いと正確なフィードで存在感を示し、一躍主力級へとステップアップした。

そして、今季より加入したルーキーの染野唯月、荒木遼太郎、松村優太も指揮官の積極的な起用に応え、1年目から少なくない出場機会を得た。

3名とも積極的な仕掛けが光り、プロの舞台でも堂々としたプレーぶりを見せるなど、才能の片鱗を見せた。特に荒木はリーグ戦26試合に出場して準レギュラー的な立ち位置を確立。3名とも来季以降の活躍を期待せずにはいられない。

荒木遼太郎

若手たちが次々に台頭する中、シーズン終了後の12月24日には、文字通り長きに渡って守護神を務め、クラブの象徴的なプレーヤーでもあった曽ケ端準が今季限りでの現役引退を発表した。

2018年シーズン終了後に小笠原満男が、今季途中には内田篤人が引退しているが、クラブの礎を築いたレジェンドがまたひとりピッチを去った。

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そのリリースに寂しさを覚える一方で、明るい未来を予感させる有望株の台頭は朗報だろう。序盤の苦境を乗り越え、最終的にリーグ戦を5位でフィニッシュした鹿島が、来季はタイトル獲得を実現することができるか。

ポゼッション戦術の更なる進化とともに注目していきたい。

written by ロッシ