両親自殺で0歳児にのしかかった借金の不条理
半年前に出産した女性の自殺。残された子どもたちには、あまりに大きすぎる荷がのしかかっていました(写真:プラナ/PIXTA)
今年8月、コロナ禍真っただ中の暑い日に1本の電話がありました。
「かよちゃん(仮名)が自殺した。高校生の次女が帰宅して発見したみたい。今、通夜に行ってきたんだけど、まだ生後半年の三女が元気に動いてたよ……」マキちゃん(仮名)からの連絡でした。
この頃といえば、コロナ離婚、コロナうつ、芸能人の自死などのニュースが連日続き、筆者のもとへも最も相談が多かった時期でした。そこへ飛び込んできた不幸の連絡に筆者もすっかり肩を落としてしまいました。
相手は「家庭持ち」だった
かよちゃんは高校3年生になってすぐに学校を中退し、19歳で長女を出産。長女の妊娠を期に結婚し、産後は専業主婦をしていましたが、次女を産んでしばらくしてから離婚していました。その後は女手ひとつで、養育費の仕送りと、昼と夜働きながら生計を立てていたそうです。
筆者はもう20年近く会っていなかったのですが、友人からは幸せそうにしていると聞いていましたので、まさか……という思いでした。
半年前にマキちゃんがたまたまかよちゃんとばったり会った際には男性と仲良く歩いていて、「半年後に私たち結婚するの!」と幸せそうだったと言います。しかしふたを開けてみると、妊娠出産しても籍は入れておらず、相手の男性は家庭持ちだったとか。かよちゃんが亡くなる前に離婚はしたものの、元家族への仕送りのみで、かよちゃんとの子どもへの仕送りがなかったそうです。
かよちゃんは産後すぐに仕事ができる環境でもなく、経済的な圧迫と、コロナ禍でなかなか人に会って相談できるような状況でなかったので育児ノイローゼになっていたのかもしれません。
かよちゃんが死ぬ間際に殴り書きした遺書には「(お相手の男性に対し)これでせいせいするでしょ。あんたの子どもはあんたにくれてやる。長女と次女は自分たちの好きなように自由に生きなさい」と書き記してあったといいます。
果たして男性との間に何があったのか、推測するにすぎませんが、憎悪にあふれた言葉とは裏腹に、何も知らない生後半年の娘は無邪気に笑顔で手足をバタバタと動かしていたといいますから、話を聞いているだけでとても胸が痛みました。
かよちゃんの長女も10代で妊娠、結婚し、まだ20代前半の長女が自分の子ども同様に妹である三女を引き取って育てているといいますが、この長女も先日自身の次女を出産したばかり。同じ年の娘と妹、3人になった子どもを抱えて、日々を戦っています。
幸いなことに、長女のご主人とそのご両親がとても親切だそうで、ご両親もかよちゃんの三女を自分の孫のようにかわいがってくれているそうです。
筆者はマキちゃんら有志たちでお金を出し合い、ミルクやおむつなどの支援を時々送るばかりで、すぐに駆け付けられないジレンマでいっぱいでしたが、これを聞いて少しほっとしていました。
自分の母の死を目の当たりにした次女は、父親と暮らすようになったそうですが、家出を繰り返し、補導されたりと、心のケアが最も必要な状況です。どれだけショックだったか、どれだけ悲しい思いでいるか、どれだけ悔しい思いでいるか、思春期の少女にとって計り知れない心の傷ができてしまったのは間違いありません。
0歳児が借金の「債務者」に
その後も様子が気になっては、長女のところに時々顔を出してくれているマキちゃんに連絡を取るも、今度は驚くべき相談が飛び込んできました。
「かよちゃんの例の男、かよちゃんが亡くなって少しして、後追い自殺したみたい……。それだけじゃなくて、その男、クレジット会社やらサラ金やらあっちこっちに借金作っていて負債がすごいみたいで、それが今、0歳児の三女のところに取り立てに来ているようで、どうしたらいいんだろう……」
これにはさすがに絶句してしまいました。筆者はすぐに知人の弁護士へ連絡を入れ、知恵を借りることに。
認知をしていなければ親子関係が生じていないことになるので債務は生じませんが、戸籍謄本を確認する限り認知がされている状況ですから、0歳といえど債務者ということになってしまいます。
相続放棄の有効期間は最後の親、つまり父親が死んだことを知ってから3カ月以内に手続きが必要です。
0歳児には口頭ですら相続放棄なんてできるわけもありませんし、親が死亡時に親権者を指定しているわけもなかったので、親権者がいなくなった今、民法840条に基づき、家庭裁判所で未成年後見人を選任してもらうことが必要になり、選任された未成年後見人がすぐに相続放棄手続きを取る必要があるとのこと。
筆者はすぐにこの旨をマキちゃんに連絡し、長女に明日にでもすぐに家庭裁判所、または弁護士へ相談するように伝えました。
翌日、早速長女は弁護士へ相談し、手続きを行ったといいます。
長女が面倒をみる三女だけに債務が生じるのはおかしな話で、亡くなった三女の父親の元家族との相続配分も不平等ということで、配分も再手続になり、正の財産がある場合はそこから負の財産を清算していくという手続きに入ると連絡がありました。果たして正の財産があるのかはわかりませんが、最悪は三女の父親の両親とも裁判で戦うことも覚悟してくださいと伝えられたそうで、若干20代前半の肩にはあまりにも大きすぎる荷です。
突然母がこの世を去り、自分の子ども2人に加えて生まれたばかりの妹の面倒も見ることになったうえに、裁判所で大人数名相手に戦う長女の心中を考えると、今すぐ自死した2人を引っ張り戻して説教したい気持ちでいっぱいになります。
「死ねば終わり」ではない
これから死のうという人の心には、将来の明るい未来や、先々のことを考えられる余裕などない状況です。
1年の中でも年末は、電車への飛び込みや自宅での自死が増える時期です。今年はとくに、コロナで経営不安やうつ症状、心の不調を訴える方が増えました。
しかし、今まさにその不穏の渦にいらっしゃる方がおられたら、もし、その方々にお子さまがおられるのならばなおさら、「子どもたちにこのような思いをさせては死ねない」となんとか思いとどまってほしい思いでいっぱいです。
「死ねば終わり、今の苦しみから解放される」と思って自死へ向かっても、残された家族や大切な仲間たちというのは、この先の長い人生を、大きな悲しみや苦しみと戦って生きていかなければならないのですから。