ほとんどの洗濯物は自宅で洗える。『日本一の洗濯屋が教える 間違いだらけの洗濯術』(アスコム)を出した「洗濯ブラザーズ」の茂木康之氏は「クリーニングに出すべき衣類は、皮革、レーヨン、キュプラなどの水に弱いものだけだ。ポイントをおさえれば、カシミヤやシルク、スーツ、制服も自宅で洗える」という――。

※本稿は、洗濯ブラザーズ『日本一の洗濯屋が教える 間違いだらけの洗濯術』(アスコム)の一部を再編集したものです。

■「家では絶対に洗えないもの」はそれほど多くない

ほとんどのものは家で洗えます。クリーニング屋のボクたちが言うのだから本当です。それで年間10万円節約した人がいるのも、事実です。では、なんのためにクリーニング屋が存在するのか。

それは、「クリーニングに出すべきもの」と「クリーニングに出したいもの」があるからです。クリーニングに出すべきもの、つまり家では絶対に洗えないものは、次の通りです。

・皮革、毛皮……水に濡れると固くなる。
・レーヨン、キュプラ……水に濡れると縮む。
・半合成繊維……アセテートなど。水で洗うと白っぽく風合いが変化する。
・光沢・シワ加工のもの……水洗いしたあと、素材感を再現するのが難しい。

これ以外は“自分が”クリーニングに出したいのか、出さずに家で洗うのかを、決めていいものなのです。たとえば、カシミヤ、アンゴラ、シルク、ダウンジャケットやウールのコート、ゴアテックスなども家で洗えます。

■シミ抜きはプロに任せるのがいい

取れないシミがついたものは、プロに任せるのがいいでしょう。シミ抜きは特殊な技術で、プロでないと扱いにくい薬品や特別な道具を使ってキレイにしていきます。自分で対応すると、余計にシミをひどくして服をダメにしないとも限りません。

そのリスクをとって自分で対処するか、プロに任せるか。予算と手間と、服に対する愛着を天秤にかけて決めましょう。要するに、家でも洗えるけれど、めんどうに感じるものや、ダメにしたくない大切な服は、「クリーニングに出そう」と自分の中で線引きすればいいのです。

そうではなく、家で洗えないと思い込んでやみくもにクリーニングに出すのは、クリーニング屋が言うのもなんですが、お金がもったいないと思います。「でも、服の洗濯表示のタグに“ドライ”とあるから」という方がいます。

これは「ドライクリーニングできます」という意味で、「ドライクリーニングじゃないといけません」という表示ではありません。ドライクリーニングに出すか、家で洗うか、自分で決めてください、という意味です。

洗濯表示は、各アパレルメーカーが最も慎重な基準を示していて、この通りに扱えばトラブルにならない、というリスクヘッジなのです。だから、かなり制限がきつくなっています。店員さんに聞くと、「私は家で洗っていますよ」と教えてくれたりします。

■ドライクリーニングは、服を傷めないが汚れは残っている

クリーニングに出すべきもの。皮革、レーヨン、キュプラ、アセテートなど。すべてに共通するのはなんでしょう? 水に弱いことです。水で洗えないものは、ドライクリーニングをしなければなりません。ところで、このドライクリーニングとはなんなのか、ご存じですか?

写真=iStock.com/recep-bg
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/recep-bg

ドライという名称どおり、水を使わずに洗う技術です。水の代わりに、石油系の溶剤を使います。生地をなるべく傷めたくない服にも、ドライクリーニングは適しています。

なぜかというと、水で洗うと、多かれ少なかれ繊維にダメージを与えるからです。石油系の溶剤というと刺激が強そうですが、じつは水のほうが生地に対する影響が大きいのです。

じゃあ、やっぱりドライクリーニングのほうがいいのかというと、そうとも言えません。ちょっと専門的な話になりますが、石油系の溶剤は油(油性)の汚れは落とせますが、水(水溶性)の汚れは落とせません。水の汚れとは、たとえば汗です。汗の汚れは、ドライクリーニングでは落ちないのです。

最近は、ドライクリーニングでは汚れが落ちないことを知って、クリーニング屋に水洗いをお願いする人が増えています。でも、やっていることは家庭と同じです。業務用の大きな洗濯機を使うだけの違いです。

洗濯物によってはドライクリーニングで油の汚れを取ってから、水洗いで汗の汚れを落とすケースもあります。

ドライクリーニング後の服の重さと、そのあとに水洗いした服の重さを測ってみたことがあります。水洗いしたほうが軽くなっていて、それが結構な違いで、びっくりしました。つまり、ドライクリーニングをしても、汗などの汚れがたくさん残っているということなのです。

■クリーニング屋の洗濯は家でもほとんどできる

繰り返しになりますが、クリーニング屋で水洗いできるものは、家の洗濯機でも洗えます。意外かもしれませんが、クリーニング屋には家庭用の普通の洗濯機も置いてあります。家庭用とまったく同じウォッシュタブ(洗い桶)もあって、手洗いもしています。つまり、ドライクリーニング以外は、家庭と同じことをしているのです。

写真=iStock.com/kzenon
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kzenon

クリーニング屋じゃないとできないことというのは、みなさんが思っているより少なくて、要するに水に弱い衣類を洗う場合だけなのです。汗の汚れのついた学生服や、ワイシャツ、ダウンジャケット、セーターなどは、積極的に家で洗ってみてください。それで服をダメにしないのか、本当にキレイになるのか、心配ですか?

大丈夫です。その方法を、これから詳しくお教えします。

洗濯機でおしゃれ着を洗うコツ

洗濯と洋服を愛するボクたちとしては、デリケートなおしゃれ着は本来なら手洗いをおすすめしたいです。けれど、なかなか難しい事情もわかります。「家庭での洗濯禁止」の洗濯表示があるもの以外なら、洗濯機で洗っても構いません。

衣類にもっとも刺激のない、中性の液体洗剤を用意してください。

洗濯機の設定は、各メーカーで「おしゃれ着」「デリケート」「手洗い」「クリーニング」など、いろいろな呼び方がありますが、どれも通常コースと水の流れ方が違います。これらのコースは、水をかすかにゆり動かして衣類をやさしく泳がせる洗い方で、衣類が傷むのを防ぎます。ぜひ、活用してください。

脱水は「低速回転」を選べる機種は、それを選びましょう。それが選べなくても、洗いと脱水の時間は手動で以下の通り設定します。

洗い3分→脱水1分→すすぎ1回→脱水1分

タテ型洗濯機もドラム式も同じ。これがおしゃれ着洗いの理想です。すすぎ時間に関しては、どのメーカーも選べないのが普通です。だいたい5〜7分の設定になっています。色落ちを避けたい色ものは裏返しにして、必ず洗濯ネットに入れて洗ってください。

■洗濯ネットの空きスペースは、結んで衣類が動かないようにする

スカスカもギュウギュウもNGです!

シルク、ウール、カシミヤ、アンゴラなどの動物性繊維のものは、必ず洗濯ネットに入れてください。こんな単純なことで、縮みを防止できます。

シャツやブラウスなど、シワをつけたくないものも洗濯ネットへ。女性の下着など、型崩れを避けたいものも洗濯ネットに入れます。色ものも同様です。

本来なら、すべての服を洗濯ネットに入れて洗ってほしいくらいです。クリーニング屋では、一枚一枚、すべて洗濯ネットに入れています。家庭用と同じ洗濯ネットです。ただ、家庭ですべての服を洗濯ネットに入れるとなると、何枚ネットがいるのかという話になりますので、大切にしたい服だけでも、ぜひネットを使いましょう。

ただし、ネットの使い方にもコツがあります。大きいネットに服を入れてスカスカした状態では、結局、ネットの中で繊維がこすれてしまうので、意味がありません。シワや型崩れを防ぐことができなくなってしまいます。それを防ぐために、洗濯ネットに服を入れたら、余っている部分は縛って、ネットの中で服が動かないようにしてください。

反対に、小さいネットにギュウギュウに詰め込むのは逆効果。洗剤液が衣類に浸透しにくいため、汚れが落ちにくいばかりか、かえってシワになってしまいます。

シャツやズボンなどは、めんどうでもキレイに折りたたんでから洗濯ネットに入れましょう。洗い上がりのシワや縮みが防止できます。あとでアイロンをかける手間に比べたら、こちらのほうがラクですよ。

■手洗いするときも洗濯機で脱水する

ここまで洗濯機を使った洗い方を紹介してきましたが、大切なおしゃれ着を、長く、美しく着続けるためには、手洗いしてほしい、というのがボクらの本音です。

写真=iStock.com/kurmyshov
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kurmyshov

たとえばニット1枚、シルクシャツ1枚、下着くらいなら、洗濯機でふだん洗いとおしゃれ着洗いの二度に分けて洗うより、手洗いしたほうがラクではないか、と思うのです。一度やってみると、わかっていただけると思います。

手洗いというとハードルが高そうですが、ウォッシュタブの中で押して沈めるだけです。でも、みなさん、「キレイに洗えていない気がする」「絞るのが大変」と言って手洗いを嫌がります。ここにも誤解があります。手洗いしても、絞るのは洗濯機に任せます。要するに、脱水にかけるのです。

■スーツや学生服も家で洗えばキレイになる

このやり方を知っていれば、どんなものも自分で洗えます。皮革、レーヨン、キュプラなど水に弱いもの以外は、家で洗ってみましょう。

洗濯ブラザーズ『日本一の洗濯屋が教える 間違いだらけの洗濯術』(アスコム)

たとえば、スーツや学生服。汗の汚れにまみれています。いままでドライクリーニングに出していた人も、家で洗ってみてください。汗の汚れも臭いもすっきり取れて、気持ちよく仕事や学校に行けます。

汗の汚れは裏面にたまるので、必ず裏返して洗いましょう。ズボンは縫い目(割り)をそろえて三つ折りにたたみ、ネットに入れます。スカートのプリーツは、洗濯機で回すと、どうしてもぐちゃくちゃになるので、手洗いをおすすめします。

ほとんどの洗濯物は家で洗えます。「家で洗えるもの」でも、大切な服を自分で洗うのは心配という方は、今回ご紹介した洗濯術で、ふだん着を使って洗い方のコツをつかんでから、ウールやシルクなどの服に挑んでみてください。

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洗濯ブラザーズ(せんたくぶらざーず)
茂木貴史(長男)、茂木康之(次男)、今井良(三男)の3人で結成し、毎日の洗濯を楽しくハッピーにするための活動をするプロ集団。横浜でクリーニング店「LIVRER YOKOHAMA(リブレ ヨコハマ)」を経営するかたわら、劇団四季、シルク・ドゥ・ソレイユ、クレイジーケンバンドなど国内外の有名アーティストの衣装クリーニングを行う。キレイに洗えるだけではなく、同時に服を傷めず長持ちさせられるのが、洗濯ブラザーズ式・洗濯術の特徴。全国の百貨店、セレクトショップなどでイベントやセミナー、講演を行うなど、毎日の洗濯が、「嫌いな家事」から「好きな家事」になるように、洗濯の楽しさを伝える活動をしている。初の著書『日本一の洗濯屋が教える 間違いだらけの洗濯術』(アスコム刊)は6万部突破のベストセラー。公式サイト、オリジナル洗剤オンラインショップ
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(洗濯ブラザーズ)