コロナ以前から店舗の削減など構造改革を進めてきたが、よりスピード感を求められることとなった(編集部撮影)

「今現在、非常に厳しい状況が続いている」「いろいろな意味で収益体質の強化をしていきたい」――。旅行会社大手、エイチ・アイ・エス(HIS)の澤田秀雄会長兼社長は12月11日の決算説明会で、コロナ影響の甚大さをにじませた。

HISの2020年10月期決算は売上高が4302億円(前年同期比46%減)、営業利益は311億円の赤字(前年同期は175億円の黒字)となった。当期純利益も250億円の赤字。最終赤字転落は2002年の上場以来、初めてのことだ。

主力の旅行事業は売上高が3596億円(前年同期は7224億円)とほぼ半減。営業利益も211億円の赤字(同137億円の黒字)となった。海外旅行の取扱高は2〜4月に前年同月比38.6%に激減。5〜7月は同1.3%、8〜10月に至っては0.8%だ。各国で入国制限や渡航制限の措置がとられ、企業として需要喚起に向けた取り組みすらできない状況だった。

ハウステンボスも「変なホテル」も赤字

海外旅行の激減を受けて国内旅行事業を育成してきたが、売上高は230億円と小規模にとどまった。ハウステンボスなどのテーマーパーク事業も休園や入場者数の減少で33.9億円の赤字となり、「変なホテル」などを運営するホテル事業も同様に35.6億円の赤字。バスや不動産事業の九州産交グループも21.3億円の赤字だった。

電力小売り「HISでんき」を展開するエネルギー事業は契約数の増加で売上高を伸ばしたが、発電所の開業コストを計上し、営業利益は1.6億円(前年同期は9.7億円)と減益に終わった。

続く2021年10月期も厳しい状況となる見通しだ。業績予想は2020年11月〜2021年1月期のみ公表。売上高は360億円(前年同期比82%減)、営業益は100億円の赤字(前年同期は37.9億円の黒字)としている。

海外旅行事業で最も回復が早いと見ている地域は主力のハワイ。次に台湾やシンガポールなどのアジア、そしてグアムの順に回復するシナリオで、これら3地域が大きなボリュームを占めるという。ただ、ワクチン接種や各国の渡航制限などで需要が変化することもあり、明確な数値目標は公表しなかった。


澤田会長は旅行事業について、「2022年に2019年水準まで回復する」との見通しを語った(記者撮影)

注力するのは引き続き国内旅行だ。前期の売上高230億円から3倍への成長を目指す。海外旅行の人員を国内に振り向けており、GoToトラベルの活用、商品の拡充を進める。2023年には売上高1600億円とする目標もぶち上げた。「海外の減少を受けて国内でしのぐ」のではなく、国内需要を成長領域として取り込む考えだ。

同時にネットシフトも急ぐ。国内店舗の統廃合を進め、11月〜2021年1月に58店舗を閉店し、154店とする。ウェブ上での接客など商品販売のデジタル化の取り組みは2021年1月からテストを始める。

資金繰り次第でハウステンボス売却も

そのほか、ホテルは夏場以降の改善、ハウステンボスは通期で黒字化を見込む。九州産交グループも回復基調だ。エネルギー事業も順調に契約を積み上げている。前期途中から実施してきた人件費や宣伝費削減の通期化などコスト削減も進め、「下半期からの連結黒字化は見えている」(澤田会長)。

投資計画の見直しや財務の路線変更も発表された。拡大基調だったホテルの開業計画は、契約済みや延期している物件は継続するが、2023年以降の開業は停止。コロナ影響が長期化すれば、契約済み物件もキャンセルする可能性がある。賃貸ビルなどの不動産も投資を取りやめ、売却を進める。

当面の資金繰りについてはコミットメントラインを330億円、当座借越枠も30億円確保していることから「今期、来期の流動性の問題はない」(財務担当の中谷茂取締役)とする。ただ、「ハウステンボスを売却すると700億〜800億円になる」(澤田会長)、「本社も資産なので考えていく可能性はある」(中谷取締役)と、キャッシュの充当へ主要な資産の売却をにおわせる発言もあった。

さらに、業況がコロナ以前まで回復したとしても、有利子負債を圧縮する方針を明らかにした。2014年頃から借り入れを活用してホテル事業などの設備投資を進めてきたが、「今回、いろいろと感じることがあったので、また無借金にしてもいいかなと思っている」(澤田会長)、「旅行事業のモデルを再構築して(負債を)減らし、長期的には無借金にもっていく」(中谷取締役)とし、借り入れを伴う拡大路線から転換する考えを示した。

HISに限らず、店舗型の大手旅行会社は未曽有の需要減とビジネスモデル転換の狭間でもがいている。JTBは4〜9月期に782億円の最終赤字に転落。グループ人員6500人の削減や店舗の統廃合、営業のデジタル化を進める構造改革に乗り出した。

近畿日本ツーリストを擁するKNT-CTホールディングスも、2024年度までに従業員の3分の1を削減するなど大ナタを振るう。HISの澤田会長も「よほどじゃない限りリストラはしない」とする一方、「もしもの場合は思いきってリストラしますけど」と語っている。

課題はコロナ以前から明確だった。台頭するネット専業の旅行会社(OTA)との競争だ。ネット販売は店頭販売のように人手がかからず、生産性が高い。客も便利なネットでの予約に急速にシフトしており、店舗型の旅行会社は変革を迫られていた。コロナによって需要減と店舗での対面を避ける動きが重なり、課題が一層浮き彫りになったと言える。

先行するOTAはシェア拡大で大手を振り切る

ただし、ビジネスモデルの転換も容易ではなさそうだ。航空券予約サイト「エアトリ」を運営するOTAのエアトリ・柴田裕亮社長は大手旅行会社のネットシフトに対し、「優位性を生かしてシェアを拡大することが防御策になる」と語る。

優位性とは、システム投資を重ねて客の購入率を引き上げてきたことや、広告宣伝投資でブランド認知度を高めてきたことなどだ。同じ旅行会社でも、ネットに適したコスト構造や販売体制は一朝一夕に組めるものではない。

さらに、12月14日にはGoToトラベルの全国一斉停止が決まった。期間は12月28日から2021年1月11日まで。強化を打ち出したばかりの国内旅行事業でも、「第2波」が到来した7月頃のように年末年始の予約キャンセルと、急速な観光マインドの落ち込みが懸念される。コロナの感染動向次第とはいえ、2021年は出足から予約獲得に苦労することになりそうだ。

ビジネスモデルの転換という課題をどう解決していくのか。コロナ禍の出口が見えず、GoToの停止で頼みの国内旅行需要も冷え込む中、HISをはじめとする大手旅行会社の苦闘はまだまだ続きそうだ。