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別れた元夫と離婚後も同居したら、不倫相手の女性に請求する慰謝料の金額は減らされてしまいますかーー。そんな相談が弁護士ドットコムに寄せられています。

相談者は、元夫の不倫が原因で離婚しました。不倫が発覚してすぐ、女性は家を出たものの、「経済的な理由で住む場所を確保できず、実家にも帰れないため、友人の家を転々としていました」と話します。

もっとも、そんな生活も長くは続くはずもなく、やむを得ず元夫と住んでいた家に一旦戻ることにしました。

とはいえ、元夫との同居を不倫相手に知られれば、今後おこなうつもりの慰謝料請求について「偽装離婚」などと言われて減額されてしまわないかが心配しています。

さまざまな事情で、離婚後も同居を続けるケースは少なからずあります。その場合は慰謝料請求などで不利な事情として扱われてしまうのでしょうか。長瀬佑志弁護士に聞きました。

●同居の事実だけでなく、経緯や事情なども加味して判断される

--不倫相手への慰謝料の金額は、どのように決まるのでしょうか。

不倫相手に対する慰謝料請求は、諸般の具体的事情を考慮に入れて算定されます(「判例による不貞慰謝料請求の実務」144頁以下)。

不貞慰謝料請求の算定で考慮される具体的事情の例として、配偶者相互の身分関係等(年齢、婚姻期間、子の年齢、学歴、職業・地位、収入など)、不貞行為の経緯・内容、不貞行為発覚後の経過などが挙げられます。

--離婚後も同居しているという事情はどのように判断されるのでしょうか。

今回のケースでは、不倫が原因で離婚に至ったものの、その後も不倫をした元配偶者と同居しているという事情が、不貞慰謝料請求の減額事由にあたるかどうかが問題となります。

この点、参考となる裁判例として、東京地裁令和元年10月18日判決があります。

この裁判は、原告の男性が、元妻と被告である不倫相手との不貞行為が原因で婚姻関係が破綻し、精神的苦痛を被ったとして慰謝料を請求したところ、不倫相手が、男性と元妻が離婚後も同居しており、離婚前後においてその居住実態に変更がないことから慰謝料の減額事由となる、と反論したという事案です。

裁判所は、男性が元妻と離婚後も同居を継続している理由について、子どもに対し離婚を知られないようにすることが目的であり、長女の中学受験が終わるまでに限るものであるなどの事情から、同居の事実があっても男性と元妻の婚姻関係は破綻していると判断しました。

この裁判例をみると、離婚後の元配偶者との同居は、不倫相手に対する慰謝料請求の減額事由とはなりうるものの、同居を継続していても元配偶者との関係が修復したとはいえない事情があると認められるのであれば、慰謝料の減額事由にはあたらないものと考えられます。

●「同居継続=関係修復」でないことを示すための備えを

--今回のケースでは、経済的な理由で住む場所が確保できなかったため、やむなく同居を再開したようです。

あくまで一時的な同居であり、住む場所が確保でき次第、すぐに同居を解消するつもりならば、元夫との関係が修復したとはいえない事情にあたるということは考えられます。ただし、裁判などでその主張が認められるとは限りません。

--相談者もその点を懸念しているようです。相手側から「偽装離婚」などと主張された場合、どう反論すればいいのでしょうか。

上記の裁判例では、離婚後同居していても婚姻関係が修復したとはいえないことの証拠として、「離婚後の男性と元妻とのLINEでのやり取りで、お互いにやり直す意思がないことを確認する旨のメッセージが交わされていること」が挙げられており、立証上の参考となります。

今回のケースでも、たとえば、やり直す意思がないことを示す文書を交わしておくなど、同居再開は元配偶者との関係を修復するものではないことを客観的に示すことができるように備えておくとよいのではないでしょうか。

【取材協力弁護士】
長瀬 佑志(ながせ・ゆうし)弁護士
弁護士法人「長瀬総合法律事務所」代表社員弁護士(茨城県弁護士会所属)。多数の企業の顧問に就任し、会社法関係、法人設立、労働問題、債権回収等、企業法務案件を担当するほか、交通事故、離婚問題等の個人法務を扱っている。著書『企業法務のための初動対応の実務』(共著)、『若手弁護士のための初動対応の実務』(単著)、『若手弁護士のための民事弁護 初動対応の実務』(共著)、『現役法務と顧問弁護士が書いた契約実務ハンドブック』(共著)、『現役法務と顧問弁護士が実践している ビジネス契約書の読み方・書き方・直し方』(共著)、『コンプライアンス実務ハンドブック』(共著)ほか
事務所名:弁護士法人長瀬総合法律事務所
事務所URL:https://nagasesogo.com