2030年代半ばに販売される新車のすべてを「電動車」にするという(写真:Vega / PIXTA)

−2030年前半、ガソリン車販売禁止−

日本人にとって衝撃的なニュースが、2020年12月3日に流れた。これは、政府が進める「2050年カーボンニュートラル」の一環だ。

しかし、これは政府が正式に発表したものではなく、先に開催された第5回成長戦略会議を受けて、経済産業省を中心とした自動車産業変革の施策の一部がメディアに漏れたというのが事実のようだ。

2030年前半ではなく「半ば」をめどとするとの情報もあり、それについて小泉進次郎環境大臣が閣議後の会見で「2035年と明記するべき」という持論を述べている。


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どちらにしても、日本が世界の潮流に乗って、自動車の電動化に関する規制強化を加速させていくことに間違いはないだろう。

海外での電動車関連の規定では、1990年施行のアメリカ・カリフォルニア州ZEV法(ゼロ・エミッション・ヴィークル規制法)における「2035年までにICE(内燃機関車)新車販売禁止」を筆頭に、中国のNEV(新エネルギー車)政策、そしてCO2規制を念頭としたヨーロッパ各国でも電動車シフト政策がある。

「達成目標」から「義務」へ

日本の電動車を含む次世代車の普及目標については、経済産業省が2018年に産学官の有識者による自動車新時代戦略会議として取りまとめている。

それによると、2030年は従来車(ガソリン車、ディーゼル車)が市場全体の30〜50%。残りの50〜70%が次世代車となっている。

次世代車の内訳は、市場全体の30〜40%がHV(ハイブリッド車)、20〜30%がEV(電気自動車)とPHEV(プラグインハイブリッド車)、FCV(燃料電池車)が3%程度、そしてクリーンディーゼル車が5〜10%とみる。


外部給電の利便性も強調するプリウスPHV(筆者撮影)

ただし、未達の場合でも自動車メーカーにペナルティを課すような規制ではなく、あくまでも達成目標にすぎない。

これに対して、今回進める2035年までのガソリン車廃止を規制として義務化すれば、従来車が完全になくなるため、次世代車の普及台数は一気に倍増する計算だ。

一連の報道では「ガソリン車禁止」という表現が多いが、これはディーセル車を含む内燃機関車を指す可能性が高い。2020年9月にカリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事の発言での「インターナルコンバッションエンジン(ICE:内燃機関)」を多くのメディアが日本語で「ガソリン車」と訳したからだ。

では、2018年の達成目標設定を、なぜ今になって規制化する必要があるのか。背景にあるのは、世界的なESG(環境、社会性、ガバナンス)投資の急激な拡大だ。

従来、多くの自動車開発者が描いてきたクルマの電動化の将来像は、ガソリン車やディーゼル車からHV、PHEV、EV……と、搭載する駆動用バッテリーの大きさが徐々に増えていき、最終的には長距離移動向けの究極の次世代車として、FCVに到達するというイメージを描いてきた。

日本政府が電動化対応をしてこなかった訳

その中で、EVの普及を前倒ししたのが、日産だ。2010年市場導入の「リーフ」は、自動車産業史において大手メーカーによる初めての大量生産型EVとなった。

また、フォルクスワーゲングループは、2016年に発表した中期経営計画「トゥギャザー・ストラテジー2025」で、大々的なEVシフトを掲げた。前年に発覚したディーゼル車制御装置の違法によって失墜したブランドイメージを、V字回復させるための事業戦略である。


中期経営計画で大規模なEVシフトを進めるフォルクスワーゲン。2019年フランクフルトモーターショーにて(筆者撮影)

このほか、世界各国の富裕層に対して、テスラがプレミアムEV市場を拡大していった。こうした各社の電動化戦略に対して、一喜一憂するような対応を日本政府はこれまでとってこなかった。

なぜならば、前述の自動車新時代戦略会議での議論でも、電動化の基盤となるHVの普及比率は、2017年時点で日本が31.6%と、アメリカの4.0%、ドイツの3.0%、フランスの4.8%、タイの2.7%、インドの0.03%と比べて圧倒的に高かったからだ。

ところが、この2年間ほどの間に、ESG投資という文脈で電動化に関する潮流が一気に変わり、そこに各国政府の施策として規制強化につながった。急激な市場変化について警戒する声もある。

スズキの鈴木俊宏社長は新型「ソリオ」のオンライン会見で、筆者からの電動化戦略の現状と今後の方針に関する質問に対して「(ソリオに搭載の)マイルドハイブリッド、プラグインハイブリッド、そしてEVへとステップを踏むべきだが、昨今のEV化(の潮流)については、スピードが加速気味かと思う」と答えている。


ソリオの発表会はオンラインで行われた(写真:スズキ)

そのうえで、将来的にはEV化は当然であり、現行車と比べてのコスト上昇、充電インフラ整備や電池の再利用など、社会全体として考えるべき課題として、スズキ社内で冷静な姿勢で協議を進めるべきだとの考えを示した。

さらには、コストメリットを考えて「トヨタから電動化部品の供給を受けて、スズキ独自の電動車開発をする可能性もある」という発言もあった。

また、マツダの丸本明社長にもオンライン会見で、筆者が電動化戦略の今後を聞いたが「国や地域によってエネルギー供給体制など社会背景は大きく違う。それぞれの社会環境にあったソリューションを提供していく」として、マツダが進める各種SKYACTIVユニットの仕向け地別の最適化を強調した。

トヨタの舵取りはいかに?

前出の“従来車”の実情を考えると、スズキのほか、スバルとマツダの電動車比率が低い。これら各社はトヨタとの各領域で協業をすでに行っており、今後はトヨタと電動化における関係が一気に深まりそうだ。

そのトヨタも、2017年12月に「電動車普及のマイルストーン」としてグラフ化しているが、その後に「計画(2017年12月)を上回るペースで電動化が加速」として、計画を前倒ししている。今回の政府による「2030年代での規制強化」に合わせて、同計画のさらなる大幅な前倒しは必須だ。


ホンダは独自に小型EV「ホンダe」を開発。公道試乗会にて(筆者撮影)

周知の通り、日本の自動車産業界におけるトヨタの発言力と実行力が他メーカーを大きく凌ぐというのが実情である。

トヨタが今期末の決算発表あたりに、大胆な電動車シフト戦略を公表する可能性は十分にあり、それにより日本自動車産業界が全体として大きく電動化シフトに舵を取ることになるのではないだろうか。