スポルティーバ厳選! Jリーグ月間MVP

 スポルティーバ編集部が発表している、独自選考のJリーグ月間MVP。リーグを取材している識者5人に、毎月候補を5人、順位をつけて選んでもらい、合計ポイントでMVPを決めている(1位5ポイント、2位4ポイント......5位1ポイント)。今回は11月のゲーム(12月1日の柏レイソル対ベガルタ仙台戦を含む)が対象だ。


月間4ゴールという結果だけでなく、プレー内容もすばらしかったエヴェラウド

 川崎フロンターレが優勝を決めた11月だったが、月の成績自体はよくなかったため、識者の評も割れた。しかし、そのなかでも多くの評を集めてMVPに輝いたのは、鹿島アントラーズのFWエヴェラウドだ。

 11月の5試合中4試合でゴールを挙げ、チームの順位アップに貢献。前線でのパワフルかつ質の高い、しかも多彩なプレーが評価されている。パートナーのFW上田綺世とのコンビネーションもよく、現在の鹿島の魅力になっている。その上田もエヴェラウドと同じく月間4ゴールを挙げ、2位に入った。

 上田と同ポイントで2位に入ったのは、月間6ゴールを挙げてベカルタ仙台の勝ち点獲得に大貢献したFW長沢駿。残り試合も活躍して、仙台は最下位脱出となるか。

 優勝した川崎勢からは、スーパープレーを見せている三笘薫、優勝決定試合でのハットトリックが目立った家長昭博、中盤の田中碧の3人がランクイン。また、11月を無敗で突き進んだサンフレッチェ広島からも3選手がランク入りした。


優勝を決めた川崎勢を抑え、鹿島のFWコンビが上位へランクインした

 それではここからは、各識者の選考順位と、その評価を紹介する。上位、下位に関係なく、活躍を見せている選手がたくさんいたことがわかる。

ビッグプレーの三笘。6ゴールの長沢
杉山茂樹氏(スポーツライター)

1位 長沢駿(ベガルタ仙台)
2位 三笘薫(川崎フロンターレ)
3位 マテウス(名古屋グランパス)
4位 上田綺世(鹿島アントラーズ)
5位 オルンガ(柏レイソル)

 今月のNo.1プレー、今季No.1かもと言いたくなるのは、三笘薫が川崎対横浜F・マリノス戦(11月18日)の終了間際に魅せた、距離にして100m近くに及んだドリブル&アシストだ。

 自軍深くからドリブルで、タッチライン沿いの大外まで膨らみながらボールを運び、そこから再度、内側に切れ込んで行くというルートだった。その間に、渡辺皓太とチアゴ・マルチンスを抜いているので、そのドリブルは言うならば「100mふたり抜き」だ。

 得点者こそ、三笘からラストパスを受けた小林悠だが、マイボールに転じた瞬間から、それ以外の選手はひとりも絡んでいない。三笘がシュート以外をひとりですべて演じ切ったという、滅多にお目にかかれない貴重なプレー。もっと騒がれていいスーパープレーである。

 そこで11月のMVPは三笘で決まりと言いたくなるが、ライバルは存在する。6ゴールをマークした長沢駿だ。Jリーグの多くのチームのストライカーは外国人選手で、1トップとなるとなおさらだ。貴重な存在である上に6ゴールも叩き出した。これは讃えないわけにはいかない。三笘か長沢か。先月のMVPを三笘にしたので、今月は長沢で行きたい。

 3番手は同様な理由から、4ゴールを挙げた上田綺世。ここに来て、本格化してきた印象だ。滞空時間の長い、腰がふわりと浮くようなヘディングを再三披露。総合力を高めている印象だ。

 4番手はマテウス。右でプレーすることもあるが、左利きの左ウイングだ。左ウイングは、三笘のような右利きが務めるのが一般的になりつつあるなかで、光る存在。左サイドを深々とえぐるプレーができている。

 だが、その分、中央へ切れ込んでのシュートは放ちにくい。左利きの左ウイングは、基本的に、得点力に問題を抱えるものだが、マテウスはそうではない。名古屋ではいちばんの稼ぎ頭になっている。今月も2ゴールをマーク。好調名古屋を語る時、欠かせない選手になる。横浜FMが低迷することになった要因でもある。

 5番手は3戦3発、今季通算26 ゴールをマークしたオルンガ。ペースはまったく鈍っていない。

エヴェラウドが圧巻のパフォーマンス
小宮良之氏(スポーツライター)

1位 エヴェラウド(鹿島アントラーズ)
2位 マテウス(名古屋グランパス)
3位 田中碧(川崎フロンターレ)
4位 キム・ジンヒョン(セレッソ大阪)
5位 ヤクブ・スウォビィク(ベガルタ仙台)

 エヴェラウドはセンターフォワード(CF)として、スケール感を漂わせている。突出した高さだけでなく、大きな体躯を生かしたポストプレーで起点となり、サイドに流れてボールを受けられる。総合力が高く、弱点がない。

 11月は4得点。クロスを呼び込み、叩きつけるプレーの強度と精度は群を抜いている。王者・川崎との一戦で、右クロスに対して相手ディフェンスをはじき飛ばすように飛び込み、豪快なヘディングでたたきつけ、GKに防がれるも、そのこぼれを押し込んだ。これが貴重な同点弾になった。

 仙台戦では、右クロスにタイミングよくDFの前に入り、スタンディングで流し込んでいる。その後、パートナーの上田へラストパスを送り、得点のお膳立てをする気前のよさも見せた。浦和戦でも、左に流れたあと、絶妙なクロスで上田にアシスト。周りの選手とホットラインを確立している点も特筆に値する。最後は自ら裏に抜け出し、GKとの1対1でダメ押し点を叩き込んだ。

 マテウスは、湘南戦のスーパーゴールが際立った。敵陣でボールを奪ったあと、30m以上のロングシュート。左足のひと振りで、サッカーの面白さを伝えていた。名古屋はマッシモ・フィッカデンティ監督によって守備戦術が根付いたことで、アタッカーがその才覚をいかんなく発揮できるようになった。ブラジル人レフティーはその象徴だ。FC東京戦での決勝点のPKも、その突破からのシュートが契機になっている。

 田中は、戦術的にチームを動かす仕事の質が高い。彼がいることで、川崎の攻守のバランスが保たれていた。絶対的なボール技術とビジョンのおかげで、ダイレクトプレーで打開できるだけでなく、相手の攻撃もいち早く潰せる。11月、王者を決めた川崎は2試合負けているが、どちらも田中が先発を外れていた。

 キム・ジンヒョンは、ミゲル・アンヘル・ロティーナ監督がつくり上げた堅守の最後の砦となった。大分戦では決定的なシュートを片手でかきだし、世界標準のパワーを見せた。横浜FC戦もFKから絶体絶命のシーンを右手一本で救っている。

 スウォビィクは今季不振の仙台にあって(11月は2勝3敗1分と健闘)、チームを救うセービングを連発した。パワーがあるだけでなく俊敏で、GKとしてオールマイティ。勝ち点を稼げる守護神であることを証明した。

優勝決定試合ハットトリックの家長こそMVPにふさわしい
原山裕平氏(サッカーライター)

1位 家長昭博(川崎フロンターレ)
2位 エヴェラウド(鹿島アントラーズ)
3位 長沢駿(ベガルタ仙台)
4位 上田綺世(鹿島アントラーズ)
5位 荒木隼人(サンフレッチェ広島)

 川崎の優勝決定試合となった、古巣のガンバ大阪戦で見せたパフォーマンスがすべてである。決して稼働率は高くなかったが、ケガを抱えながらもピッチに立ち、優勝を目前に停滞していたチームを勢いづけた。

 圧巻のハットトリックを達成し、川崎に三度目のタイトルをもたらした家長昭博こそ、11月の月間MVPにふさわしい。

 2位に推すエヴェラウドは、11月の5試合で4得点とゴールを量産。横浜FM戦では逆転劇への流れを生み出す同点弾を奪い、川崎戦でも優勝を阻止する一撃を見舞った。仙台戦では均衡を破る先制弾を決めるなど、ゴールの数だけでなく、勝負強さを高く評価した。11月は川崎を上回る3勝を挙げた鹿島において、この主砲の存在感は絶大だった。

 4位とした同じ鹿島の上田綺世も4ゴールをマーク。裏に抜け出し、巧みなトラップから右足を強振した横浜FM戦の一撃や、浦和戦での力強いミドルなど、印象的なゴールが多かった。今季は開幕から厳しい立場に置かれていたが、シーズン終盤にきて、圧巻のプレーを連発している。東京五輪世代のストライカーが、いよいよ覚醒の予感を漂わせている。

 17試合未勝利と泥沼にはまっていた仙台の救世主となったのは、長沢駿だ。27節のG大阪戦で、古巣相手にハットトリックを達成し、チームに18試合ぶりの勝利をもたらすと、つづくFC東京戦でもゴールを奪い、勝点1の確保に貢献。

 敗れたとはいえ鹿島戦でも意地の一撃を見舞い、鳥栖戦ではスコアレスで迎えた78分に決勝ゴールを奪った。じつに6ゴールを荒稼ぎし、最下位に沈むチームに希望の光を灯している。

 11月を無敗で終えた(2勝4分)広島からも、ひとり選びたい。光ったのは3バックの中央に君臨する荒木隼人だ。なによりの強みは、地上戦、空中戦を問わない対人プレー。主に外国籍選手が担う相手のCFに対し、パワフルなプレーで応戦し、仕事をさせなかった。

 とりわけ数的不利に陥りながらもクリーンシートを演じたC大阪戦でのパフォーマンスは秀逸で、大卒2年目の24歳は、すでに広島のディフェンスリーダーとしての貫禄を漂わせている。

◆「最強」川崎フロンターレにあって、一番活躍した選手は誰か?>>

11月負けなしの広島は、ふたりが活躍
中山 淳氏(サッカージャーナリスト)

1位 エヴェラウド(鹿島アントラーズ)
2位 三笘薫(川崎フロンターレ)
3位 パトリック(ガンバ大阪)
4位 レアンドロ・ペレイラ(サンフレッチェ広島)
5位 川辺駿(サンフレッチェ広島)

 11月の5試合で3勝1分1敗の成績を残し、4位に浮上した鹿島のなかで抜群の輝きを放っていたのが、4ゴール2アシストを記録したエヴェラウドだ。

 横浜FM戦や川崎戦では左サイドでセンスのよさを発揮したかと思えば、上田綺世と2トップコンビを組んだ仙台戦と浦和戦では抜群の存在感を示し、それぞれ1ゴール1アシスト。「エヴェラウドが得点すると負けない」ジンクスも継続中。文句なしの月間MVPと言える。

 12連勝でストップしたものの、歴代最速リーグ優勝を決めた川崎では、11月に白星を飾った2試合で活躍した三笘がインパクトを残した。横浜FM戦では後半開始から出場して1ゴール1アシスト。優勝を決めたG大阪戦では、家長のゴールをお膳立てして2アシストを記録した。何より毎試合コンスタントに活躍できている点が、10月につづく高評価の要因のひとつになった。来シーズンへも期待が膨らむばかりだ。

 G大阪からは、シーズン後半戦から好調をキープしているパトリックを選出した。11月は神戸戦と鳥栖戦で1ゴールずつを決めたほか、戦列を離れている同胞アデミウソンの不在を感じさせないパフォーマンスをキープしている。2013年に初来日したパトリックも現在33歳。ただ、今見られるようなフィットネスなら、まだまだゴールを量産しそうだ。

 10月28日から8試合負けなしの広島は、11月の6試合で2勝4分と勝ち点10ポイントを稼ぎ、気づけば順位を7位に浮上させた。その原動力となったのが、4ゴールをマークしたレアンドロ・ペレイラと、中盤の底で三面六臂の活躍を見せる川辺駿のふたりだった。

 レアンドロ・ペレイラは、目下15ゴールをマークして得点ランキングの3位に食い込むなどシーズンを通して活躍し、欠かせない得点源となっている。一方の川辺は、ここまでチーム最多の31試合に出場。11月も6試合すべてに出場し(うち5試合はスタメン)、湘南戦では同点ゴールも記録した。ボール奪取、パス供給などパフォーマンスは上々だ。

鹿島の2トップが高い決定力を発揮
浅田真樹氏(スポーツライター)

1位 上田綺世(鹿島アントラーズ)
2位 エヴェラウド(鹿島アントラーズ)
3位 レアンドロ・ペレイラ(サンフレッチェ広島)
4位 齊藤未月(湘南ベルマーレ)
5位 長沢駿(ベガルタ仙台)

 超過密日程の今季も終盤戦を迎え、さすがに疲労の蓄積があるのか、膠着したままスコアが動かなかったり、逆にどちらかの一方的な展開になったりと、やや低調な印象の試合も目にするようになった。

 独走のまま優勝を決めた川崎でさえ例外でなく、3試合で勝ち点を落とす(2敗1分け)など失速。どのチームも勝ったり負けたりで、11月だけを見れば混戦状態のJ1だった。

 11月は川崎の優勝が決まっただけに、横浜FM戦で圧巻のロングドリブルを見せた三笘薫や、優勝決定試合でハットトリックを決めた家長昭博なども加えたいところだったが、結果的に今回は5人全員川崎勢以外となった。

 まず推したいのは、揃って高い決定力を発揮した鹿島の2トップ、上田綺世とエヴェラウドである。全5試合でコンビを組んだ2トップは共に4ゴールを挙げ、チームの4位浮上に貢献。

 なかでも、上田が横浜FM戦でスプリント→トラップ→シュートを完璧に決めたゴールは、まさにワールドクラス。今季J1全体でもベストゴールと言ってもいいほどの華麗さで、そのインパクトと合わせて上田を最上位とした。

 同様に、チーム浮上の貴重なゴールが目立ったのは、11月を無敗で終えた広島のレアンドロ・ペレイラ。もう少し勝利数が多ければとは思うが、勝ち点獲得に直結するゴールを挙げる勝負強さが際立った。

 混戦の11月は、これまで下位で苦しんできたチームの巻き返しが目立った月でもある。そのなかで出色のプレーを見せたのが、湘南の齊藤未月だった。豊富な運動量を生かした黒子的な働きはもちろんだが、神戸戦での超ロングシュートは、速い判断と精度の高いキックが融合した見事なゴール。そのインパクトは上田のゴールにも負けず劣らずのものだった。

 また、最下位に沈む仙台で奮闘したのは、長沢駿だ。最下位脱出こそならなかった仙台も、11月だけなら五分の星。キャプテンマークも巻くエースストライカーは6ゴールを量産し、チームを奮い立たせた。