季節ごとに日本酒はどのように飲むといいか紹介します(写真:jazzman/PIXTA)

今年も残り1カ月を切った。寒くなってくると、日本酒が飲みたくなるという人も多いだろう。「ビジネスに関わる食事、宴席の場で、日本酒を楽しみたいというニーズは確実に増えている」と、『ビジネスエリートが知っている 教養としての日本酒』の著者である友田晶子さんは言う。実際、ある企業のトップ営業マンは、会社で日本酒について学ぶ研修を受けているそうだ。季節に合わせた日本酒の楽しみ方について、友田さんに紹介してもらった。

季節ごとに楽しめる日本酒

日本には、春、夏、秋、冬と四季があることから、食材の特徴を活かす和食(日本料理)にも四季が密接に関わっています。四季折々の旬の食材を使い、季節感を演出した盛りつけから、「目で食べる」料理ともいわれています。同じように日本酒にも、四季ごとの楽しみ方があります。

四季を感じられるお酒というのは、世界的にも珍しいのではないでしょうか。もちろん、ワインにもボジョレー・ヌーヴォーやホイリゲに代表されるような新酒がありますし、焼酎にも秋に収穫したばかりのサツマイモを使って造る新焼酎もあります。

しかし、春には春の、夏には夏の、秋には秋の、そして冬には冬の、それぞれの季節ならではのお酒ができ、市場に出回り、それを手にする人が「ああ、もうこの季節がきたか」と強く実感できるのは日本酒だけかもしれません。

会食や接待といった場面では、料理やお部屋の設えのみならず、いただくお酒にも季節感を取り入れたセレクトをすることで、場も盛り上がり話題が広がり、相手にもよろこばれるでしょう。

「秋」 日本酒造りの始まりの季節

お酒の1年は秋に始まります。米を収穫し、仕込みを始めるのがこの季節だからです。酒造メーカーは、秋から冬にかけてもっとも忙しい時期になります。収穫した新米を寒い冬に仕込み(これを「寒仕込み」といいます)、早ければ年内にその年最初の「新酒」ができあがります。

秋から冬にかけては、火入れという加熱処理をしない「生酒(なまざけ)」が楽しめます。 新酒のうちでもとくに新鮮さが際立った、しぼりたてならではの香味を楽しめます。雑菌の繁殖が抑えられる気温が低い時期だからできるお酒です。

また、新酒とは対照的な、前の冬に造ったお酒を涼しい蔵内でひと夏寝かせ、そのまま火入れをしないで瓶詰めした「ひやおろし」も市場に出回ります。涼しい蔵で保存された冷たいお酒を市場に卸すから「ひやおろし」。ひと夏寝かしたお酒は、なめらかになり、旨味がのり、コクが出ます。

「ひや」という言葉がついているので冷酒だと思うかもしれませんが、むしろ、お燗で飲んでおいしい味わいでもあります。秋においしくなることから「秋あがり」とも呼ばれます。風味豊かなキノコや滋味たっぷりのジビエ、脂ののったサンマやサケなど、秋の食材とは最高の相性です。

会食でいただく料理の内容と合わせて日本酒を選ぶことで、より料理の味も引き立ちます。

季節感を演出することでお酒の味はさらに広がる

「冬」 日本酒本番はこの季節

日本酒が恋しくなるのはやっぱり冬、という方も多いのではないでしょうか。とくに、この時期はお燗酒がおいしいもの。秋からの「ひやおろし」「秋あがり」のぬる燗、すっきりと軽快な辛口「本醸造」の熱燗など。お燗のつくり方はさまざまですが、私はよく日本酒8、水を2の割合で混ぜてお燗にします。いいお酒は薄まることなく、やさしい味となります。

冬の冷酒も味わっておきたいものです。なぜなら、新酒の「しぼりたて」や最初にほとばしり出る一番搾りだけを瓶詰した「あらばしり」など、この時期にしか出回らないものもあるからです。たとえば、いつも飲んでいる銘柄の「しぼりたて」「あらばしり」で違った風味を楽しむのもオツです。

また、雪に埋めて冷やすなど、この季節らしい趣向を演出すると、南国からのインバウンドのお客様にはことのほか喜んでもらえます。ほかにも、雪を思わせるようなにごり酒、雪を見ながらお酒を飲む「雪見酒」など、冬ならではの楽しみ方はさまざまあります。

「春」 出会いと別れの季節

歓送迎会にはお酒は欠かせませんよね。昔からなんらかの契りを交わすときに御神酒はつきものでした。初対面の人同士が打ち解けるときに一献かわせば、緊張もほぐれ、心通わすことができます。

また、祈願する際にも、古来お酒を献上してきました。転勤や卒業していく仲間の成功と安全を祈ってお酒を酌み交わす。酒宴にはそういった意味合いもあるのです。

春の酒宴といえばなんといってもお花見でしょう。天下の大宴会とうたわれる「醍醐の花見」(慶長3年)は、豊臣秀吉の近親者や諸大名など約1300人が集結した、京のお花見の大イベントです。このとき、なんと今で換算すれば39億円もの経費がかかったといわれます。

花見をしながら飲む「花見酒」には、桜の花びらが舞い散っているように見える「うす濁り」(にごり酒のにごりが薄いもの)や「おりがらみ」(うっすらと濁っている酒)、また、 かすみで見え隠れする春のおぼろ月を愛でながらの「かすみ酒」などがいいでしょう。

最近、歓送迎会を省略する風潮もありますが、こうしたルーツを伝えるなどして、お酒によってつながれる縁も大事にしたいものです。

新しい楽しみ方で商談・会食も盛り上がる

「夏」 暑気払いにも日本酒を

蒸し暑い日本の夏には、ビールやサワーなど冷たくてシュワっとした飲み物が好まれ、日本酒は敬遠されがちですが、新酒を生のまま保存し、瓶詰のときに一度火入れした「生貯蔵酒」などは夏の酒宴にぴったりです。

最近はスパークリング日本酒が充実しています。できたての微炭酸のにごり酒、発酵途中のお酒を瓶詰にして瓶内でも発酵を続けたものなどのことです。開封する際は、しっかり冷やしてゆっくり丁寧に開けましょう。そうでないと泡があふれてしまうからです。


また、あまり知られていませんが、日本酒そのものを凍らせた「みぞれ酒」「氷酒」は夏においしいお酒です。日本酒はアルコールがあるためにカチカチには凍らず、しゃりっとしたシャーベット状になります。これをスプーンでいただくのです。これぞ大人のかき氷。最初に一口、もしくは締めの一口として提供すれば、お客様へのインパクト大です。夏の宴席は、日本酒の新たな楽しさを知っていただく機会として活用してください。

季節や旬の食材、料理に合わせて日本酒をセレクトできる、またイベント、行事などに合わせた日本酒の楽しみ方を提案・演出できることは、とても素敵です。教養があるからこそ、できることでもあります。世界中で日本酒がトレンドとなっている今だからこそ、自分の国のお酒である日本酒の魅力や知識を身につけておくとよさそうです。