近年新しいビジネスモデルとして流行している「サブスクリプション」。これからのビジネスを生き残るにあたって導入は必須ですが、注意点があります(写真:Graphs/PIXTA)

近年、新しいビジネスモデルとして流行している「サブスクリプション」。買い切りではなく、自社製品・サービスを「定額料金」で長く使ってもらうビジネスモデルだ。これからのビジネスを生き残るにあたって導入は必須だが、注意点がある。そう語るのは、ベンチャーキャピタリストであり『2025年を制覇する破壊的企業』を上梓した、山本康正氏。詳しく話を聞いた。

24時間顧客と接する時代に必須のビジネスモデル

これまでの顧客とのタッチポイントは、実店舗での接客であったり、もう一歩踏み込んだところで、顧客に何らかのロイヤルティーを付加するポイントカードの発行程度でした。インターネットの登場が、このようなこれまでのビジネスモデルを破壊しました。

スマートフォンのアプリやオンラインの店舗があれば、24時間いつでも顧客と接することが可能になったからです。そしてこれらのタッチポイントから顧客の情報を吸い上げ、それぞれの顧客にマッチした商品やサービスを紹介していく。つまり、顧客にとってよい体験をインターネットというタッチポイントでつながり続けることで、提供し続ける。これが、未来で成功する企業のモデルです。

そして、顧客とつねにつながり続けるための代表的なサービスが、サブスクリプションです。サブスクリプションの特徴は、一度あるサブスクリプションに入会したら、満足していれば顧客はなかなかほかのサービスに移らない点です。

つまりこれから企業が生き残るためには、サブスクリプションをいかに早く導入し、同業他社よりも先に顧客を囲い込むことができるかが重要です。ある意味、質のよいサブスクリプションを実行したものが勝つ、とも言えます。

逆の言い方をすれば、サブスクリプションを導入していない企業は顧客囲い込みの方法を1つ失うわけです。導入したいと考えてはいるけれど、テクノロジー的に難しい企業も同じです。このような状況にもかかわらず、日本の多くの企業を見ていると、いまだに旧態依然のビジネスモデルに固執しているところが多いと感じています。

小売りであれば、商品の良しあしにこだわっているところが依然として多い。質のよい商品を取りそろえることはもちろん大切です。しかしこれからの未来では商品の良しあしよりも、サービスの使い勝手、体験を重視する傾向にあります。ここがズレている企業は、確実に淘汰されていきます。いい品を大量に仕入れ、他社よりも安い価格で販売していれば必ず儲かる。そのような時代ではないのです。

向いている業界、向いていない業界

アマゾンがいい例です。なぜ顧客はアマゾンを支持するのか。質の高い商品が安く買えることもあるでしょう。ただそれはあくまで一部であり、アマゾンであれば自分の望む商品がそれなりに安い価格で、サッと買える。だからアマゾンで買い物をする。顧客の多くはアマゾンというブランドに価値を見いだしているから、ほかのeコマースではなく、アマゾンで買い物をするのです。多くの商品が配送料無料であったり、注文して翌日に届くアマゾンプライムサービスなども、当然含まれます。

そして使い勝手のよさ、ブランド力を高めるためにはデータが必要であり、そのデータを取得する王道の手段が、サブスクリプションなのです。

アメリカでもいまだに老舗大手スーパーで、サブスクリプションやデータを活用することなく、商品の品ぞろえや品質で勝負しているところがありますが、よほどとがった商品でも置かない限りこれから先、生き残っていくのは厳しいでしょう。

サブスクリプションは、顧客を1人追加したからといって、とくにコストが増えない業界に向いています。というよりも、この手の業界がサブスクリプションを導入すれば、大きく飛躍するチャンスです。具体的には、音楽、映像、ゲームなどのデジタルメディア、ソフトウェア業界など。マイクロソフトがゲーム会社を買収し続けていることやネットフリックス、アップルミュージック、スポティファイなどがいい例です。

サブスクリプションを導入すると、具体的に顧客にどのようないい体験を提供できるのか。特徴的なのは、レコメンデーションです。趣味嗜好というのは似ている人が多いですから。

ある顧客をA、そしてもう1人の顧客をBとします。BさんがAさんと同じような映画や音楽を好む傾向がデータから分析できたら、Aさんがこれまで見た映画や好んで聞く楽曲を、Bさんにすすめることができます。

レコメンデーションですごいのは、一般的にメジャーな人気作品以外、いわゆるニッチでロングテール的な作品やコンテンツの紹介もできることです。またレコメンデーションは、利用者が自ら検索しなくていいことも魅力です。

利用者はとくに何をすることなく、サービスを利用すればするほど、自分にフィットしたコンテンツやサービス、体験が提供されますから、ますます好んで使うようになっていきます。その結果、さらにレコメンデーション効果は高まります。ここまでくると、多くの人はほかのサービスに移ろうとは思いません。

顧客に最良の価値を提供し続けることが本質

サブスクリプションとリースの違いを理解していない報道を見かけるのですが、同じなのは年会費などの表面だけで、中身、サービスの本質は、まったく異なるものです。リースはただ貸しているだけ。一方、サブスクリプションは顧客に最良の価値を提供し続けることがサービスの本質ですから、データを取得することに重きが置かれています。

車におけるリースとサブスクリプションの違いで説明しましょう。リースであれば、車体そのものは新しくなっていきますが、サービスの質は変わりません。一方、サブスクリプションであれば、顧客は週末になると車を利用してキャンプに出かけ、釣りやスノーボードを楽しむことがわかった。そのような情報から、次からはアウトドアに向いたSUVを紹介する。コングロマリット的なサービスを提供している企業であれば、最新の釣り竿やボードの紹介も行えます。旅館の案内なども可能です。

このようにサブスクリプションはデータを徹底的に活用し、UX(顧客体験)を突き詰めていきます。逆に、データを活用しないサブスクリプションでは潜在性を生かせていません。

サブスクリプションサービスは一定期間の無料と有料のハイブリッド、つまり両方でやるのがよいと思っています。ただ明らかに自分たちのサービスやブランドに興味を持っている顧客が多い場合には、有料プランを導入しない手はありません。

ディズニーやUSJはサブスクか

ディズニーランドやUSJのようなテーマパーク、ホテルなども含めたいわゆるエンターテインメント業界で以前からある、年間パスやバケーションクラブといったサービスも、サブスクリプションと混同されがちなビジネスモデルです。

結論から言えば、もともとは違う目的で始まったものでした。年間パスの目的は、企業の利益につながったからです。年に何回来てもらえれば、これだけの利益が出る。だからこの金額にしよう。バケーションクラブも同様です。そのためバケーションクラブでは、顧客が大勢集まる繁忙期には利用できないなどの縛りがある場合が大半です。


ただこのようなサービスでは、顧客にそれ以上の価値や体験を提供できていません。つまり、サブスクリプションの定義には当てはまらないことになります。

一方で最近は、年間パスから得たデータを収集・分析し、顧客へのサービスの向上に利用する動きも見られます。新型コロナウイルスの影響で閉館していたテーマパークを再開する際に、USJが取った動きが参考になります。

USJは、年間パスを持っている、大阪府に暮らす人を優先して招きました。一方でディズニーランドは、USJのようなアクションを取りませんでした。そもそもディズニーランドがデータを取得しているのか、分析しているのか。このあたりは情報がないためわかりませんが、今後は間違いなくサブスクリプション的なサービスも含め、データを活用したさまざまな価値ある体験を提供してくると見ています。

例えば現在は利用者の申告制で得ることができる誕生日特典。データがあれば申告することなく受けることができますし、何のアトラクションに興味があるかがわかれば優先的に案内することも考えられます。

ほかのコンテンツとの連携も考えられます。すでにあるディズニーのサブスクリプション「Disney+(ディズニープラス)」で得たデータの活用です。その客が大好きなディズニーのキャラクターでお出迎えするといったサービスです。グッズ販売の際には、同じくその客が好むキャラクターやグッズを中心に置くような仕掛けをすることもできます。

このようにサブスクリプションはあのディズニーですら今後、変えうるものなのです。