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新型コロナウイルスの影響で、テレワークのための在宅時間が増えるなど、今までと違う暮らし方が浸透しつつありますが、それに伴って住まいや人を狙う犯罪も大きく変化しているといいます。今回は防犯ジャーナリストの梅本正行さんに、犯罪手口の変化と防犯対策を聞きました。

マスクの着用や在宅時間の増加を利用した犯罪が増加中

2020年、新型コロナウイルスの影響で、かつてないほど暮らしが変わりました。防犯ジャーナリストの梅本さんは、この変化と犯罪の影響について以下のように指摘します。

(1)マスクをしている人が増え、警戒が難しい

新型コロナウイルス対策で、マスクをしていることが当たり前になりました。犯罪の下見をしていても人相がばれにくく、周囲に怪しまれにくいため、犯罪を企てる人にとっては好都合なのだといいます。「現在、世界中で課題となっています」(梅本さん、以下同)

ただ、新型コロナウイルスの対策として、当面、マスクは手放せそうにありません。
「常日ごろから周囲をよく観察し、周辺に見たことのない人物はいないか警戒をしましょう。歩きながらのスマホはやめ、イヤホンははずし、バッグは道路の反対側に持つなど、『警戒しているぞ』という気配を出し、生活の仕方を工夫することで、犯罪に巻き込まれる可能性を下げられます」

家に帰宅するとき、また家を出るときにも同様の「警戒心」が大事になるそう。
「マンションでは、共用廊下のくぼみなどに潜んで待ち伏せし、出社時に玄関扉があいたスキを狙って、部屋に押し入った事件がありました。玄関扉を開閉するときは緊張感を忘れずにいたいですね」

マンションやアパートでは、玄関扉を開閉するときはいっそう注意したいところ(画像/PIXTA)

(2)在宅時間が増え、特殊詐欺・訪問盗も増加中

外出自粛で高齢者の在宅時間が増加し、高齢者が孤立したところに、特殊詐欺やなりすまし詐欺の電話が入ることが増えました。また、新型コロナウイルスに便乗した検査や還付金詐欺、ガスなどの点検を装って家を訪れる「訪問盗」も多発しています。

「高齢者だけで暮らしているのであれば、固定電話を【出ても良い。出ない方が良い。がランプの色で分かる】という防犯電話機能付きに機種変更しておきましょう。高齢者がその場で判断をしなくてよくなり、それだけ犯罪に巻き込まれずに済みます。また、自宅に点検が来たとしても、玄関の外で待ってもらい、会社・役所に電話をして本当に点検の予定があるか確認すると伝えたり、実際に電話をして確認するとよいでしょう。本物の業者なら必ず待っていてくれます。怪しいなと思ったら、とにかく施錠・ドアガードをかけた状態を徹底して、対応するようにしましょう」

昔ながらの物件の玄関では、互い違いの「引き戸」になっていることも多いはず。その場合は片方の扉に施錠し、施錠していない方の戸のレールに戸1枚分の横幅より少し短い棒を置いて「突っ張り棒」のような状態として、「ドアガード」を自作するのがおすすめだといいます。

引き戸は、突っ張り棒を使ってドアガードを自作することもできる(画像/PIXTA)

(3)宅配便やデリバリーサービスが当たり前に

買い物を避けるため、通販やデリバリーサービスを使う人が増加し、マンションでも一戸建てでも、配送業者が敷地に入っても怪しまれにくい状況が続いています。前述の通り、訪問盗も紛れ込みやすく、また、敷地内に置いた荷物(いわゆる置き配)を狙った犯罪も増えているそう。

「宅配ロッカーを利用するなどして、建物内に外部の人間が入れないようにするほか、荷物は配送時間の事前通知や写真による配送完了通知などの防犯対策を。対面で荷物を受け取りたくない人は、配達通知があったらすぐに荷物を受け取るなどすれば、盗難被害を防げます。デリバリーだからといって安心するのではなく、警戒心を持って、ドアガード越しに『そこに置いてください』といい、帰ったあとに食品や荷物を受け取る方法も有効です」

また、上記にあげた以外の変化として、感染を恐れてレンタカーやカーシェアリングで移動する人が増えた点をあげ、「今までレンタカーを利用する人は限定的でしたが、今では当たり前となりました。犯罪やその下見にレンタカーを使うケースは以前から多かったのですが、利用者が増えたことで、近くに「わ」ナンバーの車が停まっていても警戒しにくくなった、こうした変化も、犯罪の取締りを難しくしています」(梅本さん)

ちなみに、最近では交通系ICカードをお財布に入れている人が多いため、バッグの手に取りやすい場所にお財布があることが多く、スリの標的になっているとか。
「スマホやICカードで、決済する人が増えましたが、これもお財布と同じ機能を持つため狙われています。注意してほしいですね」

最近では、お財布やスマホ、ICカードなどがかばんのとりやすい場所にあるため、スリの標的になっている(画像/PIXTA)

在宅時間が増えたのは子どもも同じ。どうやって守る?

(4)子どもだけの在宅を狙った犯罪も

在宅時間が増えたのは、大人だけでなく子どもも同じです。また、「買い物は最少人数で」と呼びかけられていることもあり、子どもだけの「留守番」も増加しているため、その時間帯を狙った犯罪者もいるそう。

「子ども狙う犯罪は、家だけでなく周囲に大人がいる・大人の気配がするだけで防げるもの。子どもだけで留守番させるときは、『今、お母さん(お父さん)は、手が放せないのであとにしてください』と言わせましょう。よく『居留守』を使って、無視しなさいという人がいますが、すると犯罪者が留守だと思って侵入することも。そこで、インターホン越しで対応させ、『手が離せない』と言うことで、大人がいることを匂わせることができます」

最近では、スマホと自宅のインターホンを連動させる機能が付いた商品が登場しているので、外出先から親が対応するという手段もよいでしょう。実は、子どもを狙った犯罪を企てるのは、見知らぬ人ではなく、近所の人など顔を見知っている人が多いのです。

「昔、言われた『知らない人についていかない』では対策になりません。『家を一歩出たら、家族以外についていってはダメ』と言い聞かせましょう。また、被害にあっても、子どもは親に怒られると思って話をせずに、被害が拡大するケースも。日ごろから親子でなんでも話せるような親子の信頼関係が大切です」

子どもは被害を話すと親に怒られると思い、言い出せずにいることも。日ごろから何でも話せるような、親子の信頼関係が大切(画像/PIXTA)

(5)子どもがインターネットに接する時間が増えた

自宅で過ごすことが増えた子どもたちは、デジタルネイティブ世代で、ネットやネットゲームがあるのは当たり前です。そこで悪意を持った大人と接触し、事件や事故に巻き込まれることもあるといいます。

「子どもがスマホやタブレット端末、ゲーム端末で何をしているか、知らない…。残念ながらよく聞く話です。また、親が使っていたお古のスマホをアプリも入れたまま与える人もいるようです。さらに、携帯各社が用意するフィルタリング機能や利用制限などの見守り機能を活用できておらず、外部の人と接触してしまい、言葉たくみに連れ出されることも。親がITリテラシーを高めて、子どもが使えない環境にしておきましょう」

内閣府もフィルタリングについては、万能でないとしつつも「親子でフィルタリングの特徴や機能を正しく理解して、インターネットの利用ルールについて考えて」と推奨しています。機能だけでなく、ルールやマナーについて話し合っておく・話せる環境にしておくというのがよさそうです。

犯罪を企てる人は衝動的に行動するのではなく、意図を持って・念入りに準備し、油断したスキをたくみについてくるといいます。
「今回、解説した通り、現状としてマスクやレンタカーで素性を隠しやすい、SNSで犯罪仲間を募りやすいといった側面があります。社会の状況の変化に応じて、犯罪も変化しているのです。被害に遭う前に警戒を怠らず、賢く『防犯生活』を送ってください」(梅本さん)

これから何かと慌ただしくなる年末です。「昨日まで何もなかったから平気〜」ではなく、もう一度、気を引き締めて1年を締めくくりましょう。

時代にあわせて、家族全員で防犯対策をアップデートしていこう(画像/PIXTA)

●取材協力
防犯ジャーナリスト 梅本正行さん
一般社団法人 日本防犯学校学長。長年、警察署で署員特別教養講師を務めるなど、防犯対策のエキスパートとして知られる。防犯対策責任者の育成のため養成講座を開講。地域の防犯ボランティアや防犯住宅を造る工務店の育成を目指し全国で活躍中。近年、防犯アパート・マンションの普及に力を注いでいる。テレビ出演等を通じて予知防犯対策を提唱している
(嘉屋 恭子)