骨折から2週間程度経過した状態。押さえつけられた部分が青あざとなり、むくんでいる

「配偶者や恋人などからの暴力、『ドメスティック・バイオレンス(DV)』事案の相談件数が年々増えています。2020年はコロナ禍による外出自粛のストレスもあり、例年を大きく上回るペースです」

 そう語るのは、大阪在住の弁護士・宮崎聡子さん(40代・仮名)。DVやモラハラ問題を専門とし、多くの相談を受けてきた。

「じつは私も、夫から10年以上、DVを受けつづけてきたんです。だから、同じようなDV被害で悩んでいる依頼者には、肩入れしたくなるんですよね」(聡子さん、以下同)

 そう振り返る聡子さんだが、受けてきた暴力は壮絶だ。夫の宮崎和雄弁護士(50代・仮名)とは、司法修習の同期として知り合い、1997年に結婚。2人の子供をもうけている。

「次男が生まれたころから、夫のDVを受けるようになりました。もともと暴言を吐く人でしたが、加えてすぐ手が出るようになって。私の腕をねじりあげ、子供の前で壁にのど輪で押しつける。さらに、子供にも手を上げるようになり、夫婦仲は最悪で、喧嘩が絶えませんでした」

 夫の DVを矯正すべく、カップルカウンセリングを受けたこともあったという。

「DVやモラハラの相談をしに、夫婦で2回だけ通いました。夫が『こんなんムダや!』と言い張り、行かなくなったあとも、私はひとりで定期的に通っていました」

 2017年1月、それでも20年間連れ添ってきた夫婦に、修復不可能な事件が起こった。

「当時、長男の進学問題で、私と夫が口論になったんです。夫は教育に無頓着で、言いがかりをつけてきました。まともな対話ができないので、その場を離れるため階段を下りようとした瞬間、彼が私の右腕を強く掴んで引っ張り、バランスを崩した私は、階段に引き倒されたんです」

 このとき、全身に強い痛みを感じたが、もがいても、夫が力を緩めることはなかった。

「その後も耳元で、『お前が悪いんやろうが!』と罵声を浴びせかけられ、背中を押さえつけられました。痛みと恐怖で、はっきりした記憶がありませんが、子供たちによると、夫は私を押さえつけて、わけのわからないことを怒鳴り散らしていたそうです。

 引き倒されたときに強打した左足は、翌日病院で『左第3中足骨骨折』と診断されました。その場で警察や救急車を呼ぶべきでしたが、子供たちが近所や学校で肩身が狭くなるのを危惧し、ためらってしまいました」(同前)

 この事件を機に、聡子さんは自宅に内鍵をかけ、夫とは強制的に別居。傷害の被害届を出したのは、事件から2年後の2019年。「被害届をすぐ出さなかったのは、とにかく夫が怖かったから」(聡子さん)という聡子さんは現在、子供たちと3人暮らしだ。

「離婚協議は、私たち母子が暮らす家を買い取ることなど、夫にいろんな条件をつけられて、なかなか進みません。下の子は、まだ義務教育中で校区は簡単に変えられないし、子供たちが独立してから、考えるしかありませんね」

長男が生まれた直後の家族写真。このころはまだ、夫のDV気質は表われていなかった。次男が生まれて、妻子に “手が出る” ようになった

 2020年に入り、傷害罪で夫の刑事告訴に踏み切った。しかし、夫は反撃に打って出た。

「私が当時、精神的に不安定で、『暴れていたのを長男と制止した……』というのが夫の言い分です。長男は、そんなことはなかったと、検事に証言しています。私が骨を折ったのも、『暴れてドアを蹴ったせいだ』と、夫は主張しているようです」

 事件当時、夫の和雄氏は、骨折の痛みに泣いている聡子さんを横目に、室内の状況を撮影していたという。聡子さんの代理人を務める、DV問題に詳しい「あおば法律事務所」の橋本智子弁護士は、こう指摘する。

「加害者である和雄氏は、刑事弁護の取扱件数も多いベテラン弁護士です。DV夫に典型的な『話をそらす』話術に加え、法律知識も豊富です。荒れた部屋の写真は、聡子さんが暴れた証拠として使えるよう、撮っておいたのでしょう。

 また、感情的になった聡子さんの音声も録音しており、さも暴れていたように印象づけるよう編集した音声を検察に提出するなど、じつに用意周到です。弁護士である加害者の責任逃れの巧妙さ、卑劣さは甚だしく、この種の問題の理不尽さを痛感します」

 和雄氏は、どう弁明するのか。11月中旬に事務所に問い合わせると、「刑事事件、懲戒請求事案にもなっていますので、回答は差し控えさせていただきます」と回答があった。その1週間後、大阪地検は和雄氏に不起訴処分を下した。聡子さんが今の思いを明かす。

「正直、悔しいです。夫が私の腕を引っ張って倒した瞬間は、子供もはっきり見ていないので、証人もいません。刑事で立件するには、民事より証拠を固めないといけないので、難しいんです」

 だが、泣き寝入りはしない。

「不起訴を不当として、検察審査会に持ちこむつもりです。それに、ほかの弁護士にはない経験をして、私には依頼者の思いや、近しい人が加害者に変わる恐ろしさがわかります。この経験を弁護活動に生かしたいです」(同前)

 弱者に寄り添い、支えていくべき弁護士が、家族を苦しめていた。どんなに輝かしいバッジをつけていても、人は加害者になってしまうのだ。

橋本智子(はしもとともこ)弁護士
あおば法律事務所(大阪市)所属。DV、性暴力などハラスメント案件を多数手がける

(週刊FLASH 2020年12月15日号)