コロナでも賢く「住宅ローン」を組む3つの原則
住宅ローン破綻の報道が連日続いています。リスクを減らして住宅ローンを組むにはどうすればよいのでしょうか(写真: tomcat /PIXTA)
連日、住宅ローン破綻の報道を見聞きする一方で、そろそろ住宅購入をしたいという相談は後を絶ちません。買える人は買える、というのが現状です。
しかし、今、返済に困っている人は、借り入れ当初からそうだったわけではありません。新型コロナウイルスの影響で収入が減りこの冬のボーナスもなくなった人のほか、役職定年や配置転換で収入が下がった人、親の要介護状態が悪化し費用を捻出せざるをえない人など、やむをえない事情で家計が苦しくなった人が多いのです。
そこで、今回は、これから住宅購入する人に向けて、リスクの少ない住宅ローンの組み方として押さえておきたいポイントを3つ厳選してお伝えします。
例えば手元に1000万円の貯蓄があったとしても、住宅購入時の「頭金」に入れられるのは実は300万円程度といったことはよくあります。頭金は、住宅購入にあたり、物件価格のうち現金で支払うお金のことで、それ以外の額は住宅ローンで調達するのが一般的です。
貯蓄の全額は「頭金」に入れない。
「そんなに少ないの?」と思うかもしれませんが、まず、住宅購入時には諸費用が必要になります。諸費用の額は、新築マンションの場合は、物件価格の3〜5%程度、建売住宅や中古物件の場合は6〜8%程度のイメージで、どんな住宅購入でも現金払いが求められる位置づけのお金です。
引っ越し費用やカーテンなどを新調する費用も見込んで、購入しようとしている物件の価格の1割程度は予算取りしておきたいところです。
また、忘れてならないのは、手元資金を残しておくことです。目安は生活費の6カ月〜1年分。例えば、減給やリストラにあったり、子どもが塾に行くことになったり、親の介護資金がかかったり、将来的に住宅ローンの借り換えをすることになったり、と住宅ローン返済中にはさまざまな出費がよくあります。
対応するための費用を準備しておかないと、いざというときにあっという間に住宅ローン返済に行き詰まってしまうので、先に取り分けておくのが安心です。
仮に、4000万円の物件を購入するケースで、今の生活費が月々25万円、手元資金として取り分けておく資金を生活費の6カ月分とするケースで言えば450万円(=預貯金1000万円−諸費用400万円−手元資金150万円)、生活費の1年分を取り分けるケースでは300万円(=預貯金1000万円−諸費用400万円−手元資金300万円)が頭金に充当できる計算です。
なお、今は頭金を入れなくても買える時代ですが、頭金は1割、2割といった区切りで有利に働くことが多いです。例えば、フラット35では、頭金が1割未満か1割以上を用意できるかで適用利率が変わります。
下図の例では、あと100万円を加えて物件価格の1割以上の頭金とすると、その物件を購入するためにかかる総額は221万円(=5112万円−4891万円)少なくて済み、毎月返済額も8000円(=11.5万円−10.7万円)ほど軽くなり暮らしにゆとりが出ます。(外部配信先ではグラフや図表を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)
フラット35のローンシミュレーションサイトにて筆者試算。
手元資金を調整したり、親に相談して、借りたりもらったりするほか、物件の引き渡しまで時間がある新築マンションを購入するなら気合を入れて貯蓄に励むのも手です。
借りる額は「少ない」が基本
住宅ローンで借りる額は“少なく”が基本。住宅ローンの毎月返済額と維持費(マンションの管理費・修繕積立金など)が賃貸暮らしのときの家賃並みとなる借入額を目指せば、購入前後での生活水準が変わらなくて済みます。この水準であれば“身の丈”の購入と考えられます。
例えば、今の家賃が10万円であれば、購入予定のマンションの管理費+修繕積立金が2万円の場合、毎月返済額が8万円となる借入額を調べます。金利1.0%、35年返済の例では2834万円の住宅ローンが借りられるので、それに頭金を700万円用意できるなら3500万円の物件くらいが無理のない物件価格となるイメージです。
購入後は固定資産税・都市計画税という維持費もかかりますが、借り入れから10〜13年は住宅ローン控除を受けられるので、住宅ローン控除を固定資産税などに充当する形でしのぐ人が多いです。
面積が狭かったり築年数の経っていることが理由で住宅ローン控除を受けられないケースも少なくないため、もしも住宅ローン控除対象外の物件を購入する場合は、毎年のフローとして固定資産税を支払うためのお金を月1万円ほど取り分けておくと安心です。
ボーナスが突然ゼロになることもありえる時代のため、ボーナス返済は、できるだけ利用しないほうが賢明です。毎月返済額だけのプランでは手が届かない物件でも、簡単に借入可能額を増やせますが、ボーナスの支給額が減ると逃げ場がありません。
やむなくボーナス返済をする際には、一度、「年収負担率」を計算してみるのがおすすめです。年収負担率は年間返済額を年収で割って求めます。子育て世帯の場合は20%、それ以外は25%程度までが無理のない住宅ローンの目安です。
例えば、毎月返済額が8万円、ボーナス返済(年2回)が12万円というケースでは、年収600万円の人なら年収負担率は20%(=(8万円×12カ月+12万円×2回)÷600万円)ですが、年収500万円の人では24%となります。多くの金融機関では30〜35%程度まで貸してくれますが、当初はなんとか返済できても後々家計が行き詰まるご家庭が多いので、借りすぎは禁物です。
さて、老後2000万円問題が一時期話題になりましたが、あれは2017年のデータをもとにした一例でした。直近のデータ(2019年)をもとに同様の試算を行うと、不足額は約800万円圧縮されて、1200万円ほどという結果になっています。
総務省資料を基に筆者作成
とはいえ、公的年金だけでは足りないというのは、否定できなさそうです。そのうえ、気になるのは、このデータの内訳です。このデータの抽出対象となる高齢者(夫65歳以上、妻60歳以上)の世代は、退職金が潤沢で老後の年金額も今の現役世代より多いです。
そのため、退職金をもとに住宅ローンを完済した人が多く、データの内訳にある住居費(平均額)は、両年ともに、なんと2万円に満たない額となっています。
“退職まで”の完済が理想
ということは、この老後2000万円なり1200万円なりが老後に不足するという数字は、老後の住居費が2万円を切る水準を前提にした不足額をもとに算出したものなので、もしも、住宅ローン返済が退職後まで残るご家庭はもっと不足する額が増えることを意味しています。
年金生活に入るとただでさえ数万円貯蓄を取り崩して暮らすイメージのうえに、ローン返済がまるまる加わるわけなので、毎月の貯蓄の取り崩し額が恐ろしいことになります。退職金が減額傾向の企業も多いため、油断できません。
これから住宅ローンを組むなら、まずは退職までの完済を目標にしたほうが安心です。無理のない範囲で、1年でも2年でも返済期間を短めに設定してみてはいかがでしょうか。支払い利息も簡単に数十万円単位で節約できておトクです。
前述の4000万円の物件を頭金300万円で購入するケースでは、返済期間を1年短縮して34年返済にするだけで34万円も利息の支払いを節約できます。
借入時に退職後まで返済がずれこむプランとなっても、前向きに在職中に繰り上げ返済して期間を短縮する努力がおすすめです。子どもが独立して教育費がかからなくなってからでもいいので、貴重な退職金をできるだけ手付かずに残せるよう努めていただけたらと思います。