そしてネバダ州の開票所に彗星のように現れたあるおじさんが時の人となった。会見をいきなりジャックし「バイデンは票を盗んだ!犯罪一家だ!」と叫び、そそくさと去っていったこのおじさんは、着ていたそのタンクトップの文字からBBQBEERFREEDOMおじさんと呼ばれ、不正選挙デマを鵜呑みにする狂信者のアイコンとなった。爆発的に注目され、いじられ、このタンクトップは一時期、販売サイトでも売り切れが続出した。

 このBBFおじさんの存在が、不正選挙論者のイメージを一気に急落させていく。#BBQBEERFREEDOM は瞬く間に世界中にバズり、日本の不正選挙論者のツイートにも貼り付けられ、彼らのイメージは頓珍漢でポンコツな存在として失墜していった。ちなみに来年のハロウィンの仮装はこのおじさんがブームになるとの噂がある。

◆不正選挙開票所の異様な雰囲気
 しかし、笑ってばかりもいられなかった。私が滞在していたペンシルベニア州フィラデルフィアの開票結果がこの選挙の決着をつける場所となったことで、開票所前では「STOP THE COUNT !(票を数えるな)」と叫ぶトランプ派と、「COUNT EVERY VOTE!(すべての票を数えよ)」と叫ぶ人々の警察を挟んでの睨み合いが続いていた。
 苦々しく敵意剥きだしで「バイデンは共産主義者だ!」と叫び星条旗をふるトランプ派と、DJブースからごきげんな音楽を流し踊る開票派。この現場を見ただけでどちらが民主主義者なのかはおのずと理解できる構造になっていた。

 しかし5日の夜、その開票所から徒歩2分半の場所まで銃で武装したQアノンが迫り警察に拘束される事件があった。彼らもやはり「不正選挙」を主張し、開票所の襲撃を計画していたのだ。一寸先は闇。フェイクニュースが殺人にまで直結することを痛感する、現場にいる者として笑えない事件だった。

 7日昼にフィラデルフィアの結果が出て、バイデンの勝利は確定した。
 昼に開票結果を出したのも、夜に出すと混乱が起こる可能性があったためと言われている。フィラデルフィアの街は大騒ぎだった。誰もがこの4年間のストレスから解放されたことを祝っていた。「異常が正常に戻っただけさ」そんなクールだけれど確かな喜びが街に充満していた。
 そして威勢よく振る舞っていた投票所前のトランプ支持者たちも、この後、完全に無視され、4日ほどで誰もいなくなった。案外脆弱なものだ。

 あれから20日がたった。
 結果は両陣営とも最大の得票数だった。これを陰謀論に結びつける人もいるが、全米の人口がこの10年で2500万人増えていることを考えれば当然だろう。蓋を開けてみれば550万票の大差がついた。不正選挙を叫ぶトランプ弁護団の訴えは35件以上が裁判所に退けられ、責任者のジュリアーニは高級ホテルと間違えて似た名前の造園業者の前(ポルノショップと葬儀屋の間)で記者会見をしたり、脂汗で白髪染めが溶けて黒い汗を流したり、ポンコツじみた話題に事欠かなかった。60億円以上とされるこの弁護士費用をトランプは寄付によって集めているが、その用紙には小さく、半額を選挙費用の借金返済に当てることが書かれている。今のうちに支持者から搾れるだけ搾り取ってやろうという悲しき敗北者の姿がそこに垣間見える。信者と書いて儲かるなわけである。

◆そして日本だけが取り残される不正選挙デマ

 本国アメリカで下火になりつつある不正選挙デマだが、日本からはまだまだイキのいいものが届く。(11月25日や29日にも数寄屋橋トランプがんばれ!と冠したデモがあった)4年間フェイクニュースに抗うことをメインテーマとしてきた私としては、これらの存在を点ではなく線で捉える。するとわかってくるのがこの不正選挙デマに加担している人の多くが、その直前はPCR検査不要論を展開した層であり、常日頃、沖縄の基地建設反対運動に対して悪質なデマを広めてきた人々であった。

 しかしHANADAや虎ノ門ニュースなどのネトウヨ勢に、なぜか今回はリベラル、スピリチュアル系の人々が加わっていることも判明している。Qアノンとれいわ新選組支持者の相性が良いことは以前から注目していたが、これほどとは、、、ましてや今回の不正選挙陰謀論は、沖縄の基地反対運動に参加する人々にまで浸透していることもわかってきた。

 次回記事では、日本の不正選挙陰謀論を信奉する人々の類型を、筆者の観察をもとに分類していこうと思う。

<取材・文・撮影:大袈裟太郎/猪股東吾>【大袈裟太郎】
おおげさたろう●1982年生まれ。本名、猪股東吾。リアルタイムドキュメンタリスト/現代記録作家。ラッパー、人力車夫。2016年高江の安倍昭恵騒動を機に沖縄へ移住。やまとんちゅという加害側の視点から高江、辺野古の取材を続け、オスプレイ墜落現場や籠池家ルポで「規制線の中から発信する男」と呼ばれる。 2019年は台湾、香港、韓国、沖縄と極東の最前線を巡り「フェイクニュース」の時代にあらがう。2020年6月よりBLM取材のため渡米。
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