持続化給付金打ち切りで「ゾンビ企業淘汰」…政府、戦慄の思惑

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コロナ禍にあえぐ中小企業を助けるため、政府が急遽用意した「持続化給付金」制度。息をつないだ企業も多いと思われますが、残念なことに時限措置であり、2021年1月には終了します。しかし、じつはそこに「赤字を垂れ流すゾンビ企業を廃業させよう」という政府の思惑が透けて見えます。もしもゾンビ企業を淘汰したら、日本経済にどんな影響が出るのでしょうか。経済評論家・塚崎公義氏が解説します。

持続化給付金は時限措置、2021年1月には終了予定

「持続化給付金」という制度があります。売上が前年同月比で50%以上減少している事業者を対象に、中小法人等の法人は200万円、フリーランスを含む個人事業者は100万円を上限に、現金を給付するものです。さまざまな業種、会社以外の法人など、幅広く対象としています。

これは「新型コロナ不況による中小企業の苦境をなんとかしよう」という目的のもとに実施されていますが、時限措置であり、来年1月には終了してしまうことになっているのです。

「景気が回復してきたから予定通り終了しよう」というのであればすばらしいのですが、観光業や飲食店等々の売り上げは十分に回復しているとはいいがたいでしょう。

「さすがに財政赤字が膨らみすぎたから、もう金は出せない」というのであれば、「財政赤字より景気対策を」と考えている筆者は賛同しませんが、それなりにひとつの考え方ではあります。しかし、今回はそうでもなさそうです。

反対に「国民全員に5万円を配ろう」という話も聞こえてきますが、これは収入の減っている人をピンポイントで助ける制度を終了しておいて、収入の減っていない人も含めて全員に現金を配布する、ということでしょうから、愚策です。

給付を打ち切り「生産性の高い企業」へシフト!?

筆者が本稿で問題としたいのは、本件を中小企業の新陳代謝を図るという意図で推進しようとしている人がいることです。これを機に「ゾンビ企業」を淘汰して、労働力等々を生産性の高い企業にシフトしよう、という発想のようです。

森林の枯れそうな古木を焼き払えば下から新しく元気な芽が育って来る、というイメージなのでしょう。新しい芽としては、新興の成長企業をイメージしていると思われますが、本稿では広く効率的な経営をしている企業について考えます。

ちなみに本稿でいうゾンビ企業とは、非効率な経営で新型コロナ前から赤字であり、景気が回復しても赤字が続いていつかは倒産する運命にある中小企業、というイメージで考えています。

筆者は、新陳代謝を図るために給付金を打ち切るという見解には反対です。打ち切りで困るのはゾンビ企業だけではないこと、景気が悪化すれば効率企業も困ること、効率企業は雇いたければ失業者を雇えばいいこと、景気が回復すれば自然と新陳代謝が進むこと、といった理由からです。

苦しんでいるのは「ゾンビ企業」だけとは限らない

今次新型コロナ不況で苦しんでいるのは、ゾンビ企業だけとは限りません。観光地の旅館で、効率的に経営しているけれども客が来ないので倒産しそうだ、というところも多いはずです。給付金を打ち切れば、本来助けるべき「効率旅館」も倒産してしまうかもしれません。

それにより旅館は取り壊され、家財道具は二束三文で叩き売られ、接客ノウハウや知名度や評判といった「見えない資産」は雲散霧消してしまうでしょう。新型コロナの収束後に旅館を再建しようとしても、大変な時間とコストがかかるはずです。これは日本経済にとって巨大な損失でしょう。

「給付金制度は残すが、ゾンビ企業には支給せずに効率企業にだけ給付する」という選択肢はあり得るでしょうが、申請者がゾンビ企業であるか効率企業であるかを判定するのに長い時間と大きなコストがかかりそうです。

ゾンビ企業の倒産が、さらなる景気悪化のリスクに

ゾンビ企業が倒産すると、従業員が失業して所得が得られなくなるので、消費をしなくなります。そうなると、ほかの企業の売り上げが落ち込み、リストラや賞与カット、あるいは倒産に至るところも出てくるかもしれません。そうなれば、一層消費は落ち込みます。

景気が悪化すれば、設備投資を計画する企業も減るでしょうから、設備機械の売り上げは落ち込むでしょう。地方自治体は税収が落ち込むので公共投資の予算を削らざるを得ないかもしれません。悪くすれば、銀行の自己資本が減って自己資本比率規制の影響による貸し渋りが発生するかもしれません。

このように、ゾンビ企業の倒産によって景気悪化のスパイラルが加速されてしまい、景気が奈落の底に転落してしまう可能性もあるわけです。つまり、不況期にはゾンビ企業も「従業員を雇用して給料を支払う」という経済に対する絶大な貢献をしているわけです。

景気が悪化すると、肝心な効率企業の需要も落ち込みます。「消費者の財布は一定だから、ゾンビ企業の需要が減った分が効率企業の需要の増加になる」というような「ゼロサムゲーム」の世界であれば、ゾンビ企業の淘汰にも意味があるのでしょうが、そうではないのです。

需要に関しては上記のように、景気悪化のスパイラルでどちらの需要も落ち込んで行くメカニズムが働きますから、ゼロサムゲームとは真逆の世界なのです。

ゾンビ企業を淘汰しなくても、労働者は確保できる

労働力に関しても、ゾンビ企業が労働力を解放した分だけ効率企業が労働力を確保できる、というわけではありません。不況期には失業者が大勢いるので、わざわざゾンビ企業を淘汰しなくても効率企業は好きなだけ労働者を確保できるからです。

経済学者のなかには、頭でものを考えて現実を見ない人が大勢いるので、失業者の存在を無視するような人が少なくありません。理屈上は「失業しているよりも給料の安い仕事に就いたほうがいいのだから、いつまでも失業をしている人が存在するはずがない。したがって、失業のことは気にしなくていい」ということのようです。

しかし筆者は、現実を見つめることで景気を予想することを心がけているので、世の中には失業している人が大勢いるのを知っていますし、それを重視しています。そこで、失業者が大勢いる不況期にはゾンビ企業を淘汰する必要がないことを知っているわけです。

中小企業の新陳代謝は景気が回復してから

筆者も、中小企業の新陳代謝が必要であることは当然認めていますが、わざわざ不況期にそれを推進する必要はないと考えています。景気が回復して失業問題が解消して「ゾンビ企業を淘汰しないと効率企業が労働力を確保できない」という状況になった時点でゆっくり進めればいいでしょう。

しかも、それは政府が進めなくても自然に進むのです。景気が回復すると労働力が不足するので、賃金が上がります。そのときに、高い賃金を払えないゾンビ企業から労働力が抜け、高い賃金の払える効率企業に移っていくのです。

つまり、景気の回復が新陳代謝を達成するわけです。経済学者の大好きな「価格メカニズム」「市場原理」が問題を解決する、というわけですね。これはすばらしいことです。

したがって、もしも景気が回復してからも政府がゾンビ企業の延命措置を続けるとすれば、筆者も経済学者と一緒に反対の大合唱をしようと思います。状況が変化すれば採るべき政策が変わることは当然ですので。

今回は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織等々の見解ではありません。また、理解しやすさを優先しましたので、厳密には正確でない部分もありえます。ご了承いただければ幸いです。

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塚崎 公義

経済評論家