ルノーというと、日本では「カングー」や「トゥインゴ」が販売の主力。しかし欧州では、10月に我が国でも新型に切り替わった「ルーテシア」が主役だ。現地では乗用車のベストセラーになることもあるルーテシアの実力を、デザインを中心にチェックした。

ルノーが日本で11月に発売した新型「ルーテシア」


○「ゴルフ」より売れることも!

日本では現在、乗用車ベストセラーの座を軽自動車のホンダ「N-BOX」と小型車のトヨタ自動車「ヤリス」が争っている。では、ヨーロッパはどんな状況なのか、ご存知だろうか。

2016年から昨年まで、トップの座をキープし続けているのはフォルクスワーゲンの「ゴルフ」だ。これは想像どおりという読者が多いかもしれない。そして続く2位も、やはり4年連続で同じクルマがランクインしている。それが、ここで紹介するルノー「ルーテシア」(海外名はクリオ)だ。つまりルーテシアは、欧州では「Bセグメント」と呼ばれるコンパクトカーのクラスで、フォルクスワーゲン「ポロ」やプジョー「208」などよりも売れていることになる。

写真は左から「ルーテシア」「ポロ」「208」。ルーテシアは3グレード構成で価格は236.9万円〜276.9万円


欧州では2019年にモデルチェンジした通算5代目の新型ルーテシア。販売は好調で、今年に入ってからは、月別のランキングでゴルフ(同じ年にモデルチェンジ、日本では未発表)をすでに3回抑え、欧州ナンバーワンに輝いている。

「ルーテシアってそんなに売れているんだ!」。多くの読者は思ったことだろう。ではなぜ人気なのか。もっとも大きな理由はデザインだ。

○見た目は先代に似ているが…

先代ルーテシアは、現在ルノーのコーポレートデザイン担当上級副社長を務めているローレンス・ヴァン・デン・アッカー氏が、マツダからルノーに来て最初に送り出した市販車だった。当人にとっても入魂の1台だったはずだ。

前後のフェンダーを張り出し、キャビンを絞り込んだフォルムは躍動感にあふれていて、Bセグメントの実用的なハッチバックとは思えなかった。しかも、そこに軽さや子供っぽさはなく、大人っぽい雰囲気でまとめられていた。面の使い方などをかなり考え抜いた結果であることが理解できた。

これに続く新型ルーテシアは2019年秋の東京モーターショーでお披露目されたが、第一印象は、その先代に似ているというものだった。インポーターに聞くと、これは先代のスタイリングが好評だったことが大きいという。しかしよく見ると、先代との違いもいくつか発見できる。

フロントマスクはCシェイプのデイタイムランプとLEDヘッドランプ、開口部を増したグリルからなる「メガーヌ」に似た存在感のある顔つきになった。大きな三角形のヘッドランプを据えていた先代より、大人っぽい印象だ。

大人っぽくなったフロントマスク


ボディサイドはフェンダーの張り出しが控えめになるとともに、サイドウインドー下端のラインは水平に近づき、フロントドアにはシャープなアクセントが入った。ドア下のプロテクターも、キャビンの絞り込みを強調する山形からシンプルな一直線のモールになって、全体的に伸びやかになった。

フロントドアにシャープなアクセントが施されたボディサイド


リアドアのオープナーをピラーに埋め込んだ処理は先代と共通するものの、オープナーは縦に長くなっており、操作性が向上していることにも気づいた。リアはテールゲート下端のクロームのモール、バンパー下半分の黒塗装がなくなり、シンプルになった。だからこそシャープな造形になったコンビランプが目立つ。

コンビランプが目立つリア


特筆すべきは、ボディサイズが大きくなっていないことだ。全長4,075mm、全幅1,725mm、全高1,470mmで、先代より拡大したのは全高の25mmアップだけ。長さは20mm短く、幅は25mm狭い。これはもちろん、日本のユーザーにとっては嬉しい知らせになるだろう。

日本仕様は下から「ゼン」「インテンス」「インテンス・テックバック」の3グレード構成で、ゼンは受注生産になる。上位2グレードの外観は同じで、ゼンと比べるとアルミホイールのデザインが異なり、フロントフォグランプが装備され、フロントグリルやサイドウインドーにクロームの装飾が加わる。

インテリアは外観よりも変化が大きい。先代ではカード型だったキーは「ミニスマホ」と呼びたくなるような形に。ロックを解除してドアを開けると、まずはインテンス以上で選べるライトグレーとブラックの2トーンが目に入る。赤や青を大胆に使った先代とは対照的で、シックでドレッシーな空間だ。

シックでドレッシーな2トーンのインテリア


それとともに目立つのは細部の仕上げ。オートエアコンのダイヤルはもちろん、パワーウインドーのスイッチまでエッジをシルバーでカバーしていて、周囲が暗くなればセンターコンソールやドアトリムをイルミネーションが彩る。Bセグメントとは思えないような演出だ。

細部まで気が利いた室内


一方でメーターはシンプル。センターに大きなデジタルディスプレイを置くものの、表示はシンプルで見やすい。通常はアナログとデジタルの速度計、先進運転支援機構のアイコンが表示されるくらいで、タコメーターはスポーツモードを選んだときだけ出現する。ロングドライブでの疲れにくさを念頭に置いたのだろう。

○プラットフォームもエンジンも新設計

フロントシートはさすがルノー。腰を下ろした瞬間に座り心地の良さに感心するし、その後1時間連続してドライブしても疲れる気配さえない。ホイールベースは2,585mmと先代より15mm短くなったが、リアシートの広さ感は変わらず。身長170cmの筆者なら楽に過ごせる。

新型ルーテシアは走りも注目だ。ルノー・日産・三菱アライアンスが新開発したプラットフォームをルノーで初採用し、エンジンは同アライアンスとダイムラーグループが共同開発した新世代の1.3リッター直列4気筒ターボを積んでいる。

注目したいのは日常的なシーンの加速に影響するエンジンの最大トルクで、240Nmという数字はなんと、先代ベースのスポーツモデル「ルノースポール」(R.S.)と同一だ。さらに、デュアルクラッチ・トランスミッションも先代の6速から7速に進化し、車両重量も先代より20キロ軽い1,200キロに収まっている。

なので、加速は段違い。1.2リッター6速の先代が必要十分だったのに対し、こちらは明らかに力強い。それでいてデュアルクラッチ・トランスミッションは先代同様、唐突感が少なく滑らかなつながりで、ATやCVTとはあきらかに違うダイレクト感を味わえつつ、市街地での微妙な速度調節がしやすい。

先代の「ルノースポール」と同等のトルクを持つ新型「ルーテシア」


乗り心地は先代同様、とにかく揺れが少ない。ノイズや微振動も抑えられていて、滑るような走りはそれだけで気持ちいい。ハンドリングは素直な身のこなし、しっとりした接地感が印象的だ。乗った瞬間にわかるような個性はないが、レベルはかなり高い。ベストセラーの理由を教えられた。

しかも新型は、これまでルノーが弱かった先進運転支援機構がライバル並みにレベルアップした。

具体的には、アダプティブクルーズコントロール、アクティブエマージェンシーブレーキ、レーンデパーチャーワーニング、ブラインドスポットワーニングが全車標準装備となり、最上級のインテンス・テックパックにはレーンセンタリングアシストと360度カメラが追加となる。

アダプティブクルーズコントロールは、加速や乗り心地同様、唐突感のない滑らかな作動感で、こちらも完成度の高さが光った。世界初のフレッシュエアスピーカーを採用したボーズのサウンドシステムから届く音楽を味わい、高速道路を流しながら、欧州でゴルフに匹敵する人気車種であることに納得した。



















森口将之 1962年東京都出身。早稲田大学教育学部を卒業後、出版社編集部を経て、1993年にフリーランス・ジャーナリストとして独立。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。グッドデザイン賞審査委員を務める。著書に『これから始まる自動運転 社会はどうなる!?』『MaaS入門 まちづくりのためのスマートモビリティ戦略』など。 この著者の記事一覧はこちら