衛生的な市場環境がアダになったという指摘も

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 東京の台所・豊洲市場のコロナ感染が不気味に広がっている。『週刊ポスト』(11月27日発売号)では、すでに140人もの感染者が出ているにもかかわらず、閉鎖や休業といった措置を取らず、「クラスターではない」と強調する東京都の姿勢に疑問を呈した。改めて豊洲市場の現状を取材した。

【写真2枚】市場は観光客の姿もまばらで静かな日々が続くが、関係者の顔は一様に険しかった

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 東京都は豊洲の感染拡大を、できるだけ小さな出来事に見せようとしているのではないか。小池百合子・知事も、「クラスターではない」と強調している。クラスターと認定されるのは、同一箇所で因果関係のある5人以上が感染したケースとされているが、東京都の説明では、同じ店の感染者は「最大でも4人」だからクラスターではないというのだ。

 いかにも苦しい説明だ。小規模な店舗が「密」にひしめき合う市場で、例えば隣同士の店舗で8人が感染したとして、「A店が4人、B店が4人だからクラスターではない」と言われて、「そうですか、それなら安全ですね」となるのだろうか。そもそも、小規模な店舗では従業員が4人以下というところも多いはずだ。

 元中央卸売市場次長で『築地と豊洲』の著者、澤章氏はこんな話を明かす。

「ある都議が市場当局に、どの店で感染者が出ているのか問い合わせたところ、『個人情報だから答えられない』と言われたそうです。病院や介護施設で集団感染が起きたケースは、すぐに詳細が公表されるのに、豊洲の場合はクラスターではない、個人情報だから公表しないというのは首を傾げざるを得ない」

 もちろん情報を広めたくないという気持ちは東京都だけではなく市場関係者全体に強い。市場内に出店する業者がこう話す。

「市場関係者にPCR検査をするっていうけど、自主的にというから応じない人もいますよ。もし陽性反応が出たら、その店は消毒したり休業したりして大変なことになりますから。仲卸さんたちは、東京都に施設の使用料を払っているんだけど、それだって最初は都から『家賃ではないから(コロナ対策の)家賃補助は出せない』なんて言われてたんです。今は出るようになったみたいだけど、検査して休業しても補償されないんじゃないかって疑心暗鬼もあるでしょう」

 補助だけでなく、都の対策はあちこちで後手に回っている印象が強い。市場で働くある男性は、「豊洲はもともと衛生管理のために密閉型の市場にするという方針で、シャッターもずっと閉めていた。それがコロナではアダになったのでしょうね。早く開けて換気すりゃいいのにと現場では話してたけど、ようやく最近になって開けるようになった」と明かした。また、ある店主は、「豊洲はどんなに感染者が出ても閉鎖できないでしょう。食の流通を止めるわけにはいかないし、市場っていうのは卸売市場法という法律に基づいて運営されているから、簡単には開けたり閉めたりできないんです。我々だって好き勝手には休めなくて、事前に東京都に届け出ないと休業すらできない」と話す。お役所仕事で対応が遅れているのではないかという疑念が拭えない。

 仕入れのためにほぼ毎日、市場に出向くという老舗日本料理店店主は、今のやり方では感染拡大は止められないだろうと嘆息した。

「小池さんがどんなに『クラスターではない』と言っても、市場関係者も私たちも信じていません。だって、一部の店舗じゃないんですから。あちこちで誰それが感染したとか、今度はこっちの店から出た、なんて話してます。だけど、この問題が大きくなったら豊洲ブランドが傷つくということで、市場の人たちは私たちに対しても『感染の話は外でしないでくれ』と言ってきます。だけど、私だって市場に行けばいくつもの店を回るし、そういうお客さんが毎日どの店にも何百人も来るわけだから、1か所で出れば市場全体に広がるのは当たり前ですよ。それだって皆わかっているから、『市場にいるのは30分以内にしてくれ』なんて私たちにお願いがきているんです。それじゃあ感染は止まりませんよ」

 市場内の飲食店店員は「お客さんがいなくて暇ですね」と肩を落として、こんな言葉を残した。「市場の人間の何分の一かが感染して、もはや関係者の命が守れないってとこまでいかないと、市場の機能を止めることはないでしょうね」――食の安全と市場関係者の安全を第一に考えた対策が急務だ。