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プロ野球の日本シリーズ第4戦が2020年11月25日、ペイペイドームで行われ、ソフトバンクが巨人を4−1で下し日本一を決めた。ソフトバンクは第1戦目から圧倒的な強さで4連勝し4連続で日本シリーズを制した。王者ソフトバンクと巨人の差はどこにあったのか。J-CASTニュース編集部は、巨人で戦略コーチを務めた野球解説者の橋上秀樹氏(55)に今シリーズを分析してもらった。

「セの技をパのパワーが凌駕した」

第4戦は初回に巨人が1点を先制したものの、その裏の攻撃でソフトバンクに2点を許し逆転された。2回には甲斐拓也捕手(28)の2ランが飛び出し、ソフトバンクがさらに点差を広げた。3回以降、両チームの投手陣が好投しゼロ行進が続き、最後はソフトバンク守護神・森唯斗投手(28)が試合を締めくくった。

「巨人は初回に1点しか奪えず、あれが複数点入っていれば少しは展開が変わったかなと思います。ただ、3回でスパッと投手を代えることのできるソフトバンクの投手陣の層の厚さ。そこがはっきりした試合でした。スピードを含めたパワーの違い。セ・リーグの技をパ・リーグのパワーが凌駕したという感じです」(橋上氏)

今シリーズでは、ソフトバンクの強力打線とともに投手陣の個々の質の高さが見受けられた。西武、楽天でコーチの経験を持つ橋上氏は、DH制を導入しているパ・リーグはパワー系の投手が育ちやすい環境にあると指摘する。

「本格派の投手が育つことで打者も育つ」

「DHのあるパ・リーグは試合展開にそれほど影響されずに投手を長いイニング使える傾向にあります。セ・リーグの場合、負けていたり同点で投手の打席が回ってくれば代えるケースが見られますが、パ・リーグの場合、そのようなことがないのでセ・リーグの投手と比べると長いイニング、多くの球数を投げることが出来ます。スタミナ的なことも含めてパワー系の投手が育ちやすい土壌があります」(橋上氏)

また、橋上氏は近年のドラフト会議でパ・リーグにポテンシャルの高い投手が入団していることを指摘し、次のように言及した。

「私が楽天のコーチをやっていた2005年前後から毎年のようにドラフトで注目される投手がパ・リーグに入ってきている。ポテンシャルの高い投手がパ・リーグに集まり、なおかつそこでDHがあるので先発完投型の投手、パワー系の投手が増える。打者はその球を打ち返すためにどうするかということで練習する。本格派の投手が育つことで打者も育つ。それがパ・リーグの現状です」(橋上氏)

「セとパで求めるもの、魅力を感じるものが違う」

橋上氏によると、2019年のドラフト会議は、セ・リーグとパ・リーグの「色」がはっきり出たという。この年のドラフトの目玉となったのは、最速163キロ右腕・佐々木朗希投手(大船渡=現ロッテ)と奥川恭伸投手(星稜=現ヤクルト)だ。佐々木は1位指名で西武、ロッテ、日ハム、楽天の4球団が競合。奥川は巨人、阪神、ヤクルトの3球団が競合した。

「昨年のドラフト会議は象徴的でした。160キロを投げることが出来る未完成の投手に魅力を感じるのはパ・リーグのチーム。佐々木投手にはパ・リーグのチームしかいっていない。奥川投手は佐々木投手よりパワーは落ちるかもしれないが完成度が高い。そういうところに魅力を感じるのがセ・リーグ。セとパで求めるもの、魅力を感じるものが違うと感じました。どちらもいい投手だが、どちらに魅力を感じるかが両リーグの現状を表している」(橋上氏)

今後、セ・リーグとパ・リーグの差は縮まるのか。それとも広がっていくばかりなのか。橋上氏は「現実的には難しいと思いますが」と前置きした上で、セ・パ球団の力を均等化させる近道としてセ・パ球団をシャッフルさせることを提言した。

「野球の質が違うと痛感させられる日本シリーズでした」

「セ・リーグとパ・リーグの差をなんとかしたいと考えるのならば、セとパのチームを3球団ずつ入れ替えるのもひとつの方法だと思います。一度シャッフルするのがセとパの力を均等化させる一番の近道だと思います。色々と難しいところはあると思うが、近い将来、このようなことを視野に入れながらやっていかないと、なかなか差は埋まっていかないと思います」(橋上氏)

2019年に続いてソフトバンクの4連勝で幕を閉じた日本シリーズ。橋上氏は今シリーズを通して「セとパで野球の質が違うと痛感させられる日本シリーズでした」と振り返りつつ次のように締めくくった。

「巨人はセ・リーグ断トツで優勝したわけですから決して弱いわけではない。ソフトバンクが異次元の強さを見せたといっていいでしょう。日本シリーズで敗戦するとリーグ優勝したことが忘れられがちだが、あれだけの大差でリーグ優勝したのだからそこは一定の評価をするべきだと思います」