新型コロナウイルスの1日の感染者が11月19日に2000人超、東京で500人超と過去最多となり、東京都では警戒レベルが最高のレベル4に引き上げられました。いわゆる「第3波」がやってきたといわれています。

【画像】中国でコロナ封じ込めに貢献した「健康コード」

デジタル化による政策に対して否定的な意見は少数

 フェイスシールドによる食事はどれだけ役に立つのか、日本のGoTo各政策が正しいのかなど、SNSを覗くとこれでもかと意見が入ってきます。肯定的な意見を見かける一方「意味はない」「やめろ」という意見を多数見かけますが、他方デジタル化による対策についてはあまり否定的な意見を見ないように思えます。

 例えば「新型コロナウイルス接触確認アプリのCOCOA」が2000万ダウンロードを記録したように、静かにやり方を支持する数が増えています。スマホのバッテリーのもちは悪くなるという愚痴を言いたくなるのもわかりますが、他の政策のように「こんなものは意味ない!」と高らかに声を上げている人はあまりみません。


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 また改めて新型コロナウイルスの感染拡大により、「Zoom」などを使ったオンラインミーティングやオンラインセミナーを積極的に活用する企業も出てきました。オンライン教育を取り入れる自治体や教育機関も出てきました。オンラインミーティング普及にあたり首をかしげたくなる謎マナーも出てきましたが、とはいえデジタルツールは感染を回避する手段として「あるにこしたことはない」「使える場面で使っていきたい」というもので、「密」を避ける存在そのものを否定する人は少数です。

中国でコロナ封じ込めに貢献したIT施策

 ITを活用した新型コロナウイルス拡散封じ込めについては、最初にパンデミックが発生した中国が徹底し、同国での新規感染者数は激減しました。

「健康コード」という信号機のように3色に変色するQRコードをキャッシュレスアプリ「アリペイ」やチャットアプリ「ウィーチャット」などに搭載し、交通期間や観光地を利用する際にチェックして「緑色であれば通ってよし」としました。スマートシティとの連動で、感染地域に縁のある人は黄色や赤が表示され隔離や治療措置となり、感染の疑いがなければ緑色が表示されて普段通りの生活ができるというものです。中国政府は今後、外国旅行の渡航にもこの健康コードを活用しようと提案しています。

AI、VR、ドローン、ブロックチェーン……中国で活用が進むIT技術

 中国で新型コロナウイルス感染が拡大した今年の年初は、一斉にオンライン授業化が進み、“ネット版ジャパネットたかた”ことライブコマースが普及しました。客のいないデパートから化粧品販売員が実況販売を行い、顧客に対してはオンラインでコンサルして化粧品を販売することが普通になったのです。医療現場では、新型コロナウイルス判定にはAIが、立ち入ると危険な病室での診断やお見舞いにはVRが、病院への迅速な医療機器の配送にはドローンが、病室への配給や病院内の消毒には自走ロボットが活躍しました。最近では、外国から輸入した冷凍食品を通じて感染者が発生したことから、どういう経路で食品が流通したのかが確認できるようブロックチェーンを利用したシステムが登場しています。

 中国では一歩、いや、何歩も進んだデジタル化により新型コロナウイルスに反撃し、感染拡大を防ぎました。ただし、中国の対策の成功の裏側では、相当の個人情報を政府に与えています。

自民党の目指すIT化した日本の未来図とは

 話を日本に戻します。菅政権のもと、デジタル庁の設置、はんこを極力政府内で撤廃すること、携帯電話の通信料金が下がるといったデジタル系の話題をよくテレビで聞くようになりました。DX(デジタルトランスメーション)を進めようとしているわけですが、自民党の目指すIT化した日本の未来図はすでに描かれています。平井デジタル改革担当大臣は、デジタル庁新設に向けた準備室のコンセプトを「Government as a Startup」、略してGaaS(ガースー)と呼んでいます。ガースー、トレンディですね。

 平井デジタル改革担当大臣のWEBページには、自民党政務調査会デジタル社会推進特別委員会による「デジタル・ニッポン2020〜コロナ時代のデジタル田園都市国家構想〜」というPDFファイルによる提言書があります。全部で200ページ近いボリュームで、専門用語の多さもあって、事前知識なしに「ちょっと読んでみるか」という軽い気持ちで開こうものならゴリゴリ読む気力がなくなります。簡単に言うと、「東京一極集中はよくなくて、様々な場所に人が住むようになり、東京だけでなく地方でも総オンライン化・デジタル化の恩恵を受けられるようにする」ネット環境をつくることを目的としています。

ふんだりけったりの日本を舞台にした理想像

 この20年間で2002年のSARS、2012年のMERS、今回のCOVID-19と、3つの新型コロナウイルスが猛威を振るったことから20年内にまた似たことがおきるだろうという前提で書かれています。そこで10年後にも再びパンデミックが発生し、おまけに天災もあり、ふんだりけったりの日本が舞台です。ざっと以下に書かれたことが実現できる国家像を目指すとしています。

●(理想像)緊急事態システムの発動
・2030年3月、COVID-30の国内感染拡大とともに緊急事態システムが即時稼働し、医療体制の拡大、医療資材の緊急増産、ワクチン/特効薬の開発等の特別プロジェクトが立ち上がる。
・検査数/感染者数はマイナンバーで、濃厚接触はスマホで、個人情報保護を維持しながら管理されている。
・医療現場では潜在資格者の現場復帰が進み、混乱する医療現場を支えている。
・工場の国内回帰が進み、物資不足は最低限に抑えられている。

●(理想像)COVID-30時の国民生活
・国民は、急遽「巣籠り生活」に入り、飲食店や観光業などは休業・廃業が相次ぐが、従業員シェアによりデリバリー、宅配等で巣籠り生活を支えている。
・イベント等のエンターテインメントは、リアルな場を失ったが、最新技術と新たなビジネスモデルで、発信を続けている。●(理想像)災害と感染症への対応
・2030年6月に発生した激甚災害では、その災害発生と同時に地域防災コミュニティが立ち上がり、リアルハザードマップ等最新のICT武装で災害状況と感染状況の双方を把握し、住民の避難を支援している。
・住民は最新情報と防災チャットボットで自らの避難行動を開始している。
・避難所では、避難者が即時に個人特定され、感染者及び濃厚接触者用は、専用避難所に隔離されてクラスター発生を回避している。
・避難所は自治体職員と地域防災コミュニティが管理し、不足物資は直ちに把握されて、ドローンや自動運転車等により補給されている。

自民党が中国のIT化を模倣

 これ、実は今年中国が行った新型コロナウイルス対策にそっくりなんですよね。世界のいろんな国が新型コロナ対策をしていますが、とりわけ中国にそっくりです。

 私は今夏、「中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか?」(星海社新書)という本を出版したのですが、まさか自民党が専門家会議を経て中国のIT化を模倣しようという路線を進んでいるとは思いもせず、これなら知人友人読者に日本が目指すIT化を紹介する上で私の本を勧めたくなります。

本来の用途以外で個人情報を使うことの是非

 中国で新型コロナウイルス拡散が防止できたのは、個人情報を政府に預けたからです。中国では役所の手続きのほとんどがスマホアプリでできてしまうのですが、それは個人情報を出しているからであり、日本でいうところのマイナンバーのような個人情報の一元管理がされているからなのです。

「中国」や「マイナンバー」と聞くと脊髄反射で関連話を悪だと決めつける方もおられますが、それぞれのメリットを理解し、冷静になって欲しいところです。中国の先進的なITサービスは便利なものが目立つ一方で、個人情報を活用したものも多くあります。中国は強い政府が民衆の意見は聞かずに新サービスを導入して運用しますが、日本は民主主義国家ですので、個人情報の扱いも含めていい点・悪い点を論議しながら参考にすべき事例は積極的に参考にすべきです。

 日本政府のシステム導入と運用で気になる例として「今市事件(栃木女児殺害事件)」があります。興味のある方は検索して詳しく読んで欲しいのですが、事件の犯人証拠として、検察が車の通過時刻とナンバープレートを撮影して記録する「Nシステム」の情報を使うという、本来の用途から逸脱した裏技・禁じ手を使ったことが裁判で話題になりました。つまりやむを得ないという理由で、本来の用途以外で個人情報が使われるケースもなくはないわけでして。

闇雲に真似るのではなく、日本の社会に合わせた変化を

 ネットの各種サービスは包丁と同じで、使えば便利、悪用すれば犯罪、あるいは不信が増す諸刃の剣ですが、便利な道具であるためもはやまったく導入しないというわけにもいきません。世界各国がIT化・DXで各国の社会環境をよくしようとする中で、中国を参考にしつつも中国を真似しすぎることなく、日本の社会に合わせた変革をしてほしい。

 私は20年近く中国のITに関する記事を書き、ときどき講演を行いますが、講演先のメーカーでよく言われるのが「我々はモノづくりのプロだ。事例を話してくれれば我々が解釈しモノづくりに役立てる」といわれたものです。プレゼンテーションからはガースー内部に中国のアイディアの話は多数来ているようなので、闇雲に真似たシステムを導入することなく、うまく中国などの先例を学び、黒さが光らないガースーになってほしいと思うところです。

(山谷 剛史)