自己破産以外に債務免除する方法とは?(写真:CORA/PIXTA)

新型コロナウイルス感染症の影響により、多くの飲食店が閉業に追い込まれています。

青森県で飲食店を5店舗営んでいたものの、それらを全店舗閉店して会社を清算し再出発を選んだ経営者の福井寿和氏が、『全店舗閉店して会社を清算することにしました。』を出版しました。決断の背景や倒産の具体的な方法、これからの人生の展望についてつづられています。本稿では前回、前々回に続き、同書から一部を抜粋しお届けします。

債務を免除する方法は自己破産だけではない

「守るべきものを守るために会社を清算する」。そう決断して行動してきたものの、現実問題として残る借金をどうするか。これが問題でした。

会社の借金には、代表者保証を付けていたため、会社がなくなれば代表者である私自身が借金を背負うことになります。 店舗の閉店を決めた時点では、9000万円の負債が残っていました。決断したときは、もう一度起業して返していくつもりでいました。

とはいえ、閉店に向けて動きながらも、頭の片隅には常に借金の心配がありました。仮に9000万円の借金が残れば、平均的な所得では返済も難しく、家族にも迷惑をかけることになります。返済していく覚悟はあったものの、気持ちの面では引っかかりはありました。

友人の経営者に話をしたら「ちょっといいマンションを買ったくらいだな!(笑)」なんて軽々しく言われましたが、当時は、店舗の閉店を進めながらのことだったため、とてもそんなふうに楽観的に考えられるような精神的余裕はありませんでした。

弁護士の先生とは、電話やメールで店舗の閉店状況を伝えながら、定期的に情報交換をしていました。出店先との調整が見えてくると、会社に残る現金も見えてきます。

それによると、1000万円超の現金が残る見込みでした。弁護士の先生からは、負債に対して5%以上も現金を残せるのであれば、代表者保証の解除も可能である「経営者保証に関するガイドライン」があることを聞きました。

「債務を免除できるなんて、そんな都合のいい話はあるんですか!?」 初めて聞いた時は半信半疑でした。債務を免除する方法は、自己破産しか知らなかったからです。

自己破産の場合、債務を免除できる一方で、信用情報機関に5〜10年間、自己破産したことが記録されます。事業用の借金ができなくなるのはもちろんのこと、個人のクレジットカードの審査も通りませんし、ローンも組めなくなります。身近なものでは、携帯電話の割賦購入もできなくなるため、日常生活が不便になると考えられました。

また、「自己破産した」という事実は一生ついてまわるため、経営者として信用を取り戻すことが大変だという話も聞いていました。そのため、私の中では「自己破産」という選択肢はありませんでした。

そんな中、初めて知ったのが「経営者保証に関するガイドライン」という施策です。このガイドラインの適用には、一定の条件はあるものの、信用情報に一切記録されることなく、経営者の債務免除(代表者保証の解除)を行うものです。金融庁が各金融機関に対して、積極的に活用を促しているガイドラインでもあり、負債を残して会社を清算する場合は、まずはこのガイドラインに沿って行うことが筋であると理解しました。

経営者保証に関するガイドラインとは

中小企業の経営者による個人保証には、資金調達の円滑化に寄与する面がある一方、経営者による思い切った事業展開や、保証後において経営が窮境に陥った場合における早期の事業再生を阻害する要因となっている等、中小企業の活力を阻害する面もあり、個人保証の契約時および保証債務の整理時等においてさまざまな課題が存在しています。この「経営者保証に関するガイドライン」は、それらの課題に対する解決策の方向性を取りまとめたものです。

<ガイドラインの対象者>
• 主債務者が中小企業である
• 保証人が個人であり、主債務者である中小企業の経営者等である
• 主債務者である中小企業と保証人であるその経営者等が、弁済に誠実で、債権者の請求に応じて負債の状況を含む財産状況等を適切に開示していること
• 主債務者と保証人が反社会勢力でなく、そのおそれもないこと

<ガイドラインでできること>
一定の経営状況をクリアすれば、経営者保証の解除や保証債務履行時に必要な生計費や自宅を手元に残せる可能性があります。

【新規借入時・既存保証契約見直し時】
• 経営者保証なしで新規融資を受けることができる可能性があります
• 経営者保証の解除ができる可能性があります

【新規借入時・既存保証契約見直し時】
• 必要な生計費や自宅を手元に残せる可能性があります
• 引き続き経営に携わったり、再起を図れる可能性があります

(引用:「あなたの挑戦を後押しする経営者保証に関するガイドライン」/経営者保証に関するガイドライン事務局)

経営者としての意地の部分では、「借りたお金は返すべきだ!」と思っていました。しかし、再度一から事業を立ち上げて、これだけの金額を返すことは、そう簡単ではありません。

どんなに新型コロナウイルスの影響で会社を清算したと言っても、「倒産した社長」であることに変わりはなく、再度事業を行う場合に、銀行が融資を実行してくれる可能性はゼロに等しい。そうであれば、国が促進している「経営者保証に関するガイドライン」を適用して、債務を免除した状態で再起するほうがいいはず。

とはいえ、これまで私を信用して融資を実行してくれた銀行、とりわけ担当者の方を裏切ってしまう形になるのは、心苦しくもありました。最後は、冷静に自分が置かれている状況を考え、「経営者保証に関するガイドライン」を適用する方向で会社の清算を進めることに決めました。


4月下旬、地方銀行2行、日本政策金融公庫には、会社を清算することを伝えました。 銀行とは、新型コロナウイルスの影響が出始めた頃からコミュニケーションをとっていて、返済延期や追加融資の話もいただいていました。 私にとって銀行は、お金を借りるための機関というだけではなく、私のことを信用して応援してくれるパートナーだと思っていました。応援の形が融資だったのだと。ですから、従業員に解雇通知を出す時と同じくらい、銀行に連絡を入れる時も、感情は揺れました。

1店舗目のカフェの改装費用を借りるために、事業計画書を握り締めて、初めて銀行に行ったときのことを思い出しました。 私の事業展開のために、融資を通してくれた担当の方の顔が何度も頭に浮かびました。 新店舗出店の度に事業計画を説明して、面談を重ねて店舗展開をしてきたときのことが、つい先日のように思い出されました。