大学の医学部合格者は私立中高一貫校出身者が多い。中学受験のための塾費用は通常200万円以上、6年間の学費が約600万円、大学が私立なら4年間で3000万〜4000万円。医師になるまでには大金がかかるが、小学校からオール公立で国立大医学部に合格し、学費もアルバイトや県からの修学資金貸与で賄う親孝行な若者も実在する。いったい、いかなる人物でどのような家庭環境だったのか。小中高の教育費の全明細を公開しよう――。

※本稿は、『プレジデントFamily医学部進学大百科2021完全保存版』の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/NorGal
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■「公立小中高→群馬大学医学部」通ったのは月4000円そろばん教室だけ

母一人子一人の母子家庭で育ち、群馬大学医学部に現役で合格したGくん。習い事はほとんどやらせていなかったと、母は振り返る。

「通わせた習い事は小学校3年生から学童代わりにと、近所のそろばん教室くらいです。放課後の居場所にもなり、友達と和気あいあいと過ごしていたみたいです」

月謝は4000円。昇段が楽しみで、高校2年生まで通い続けたそうだ。学校は高校まで公立で学費はゼロ。塾には通わなかった。

「地元の中学は1学年30人ほどしかいませんでした。成績は上のほうでしたが、1番2番を争うような子ではありませんでした。負けず嫌いでもなく、おとなしいタイプでした」

高校は地元で進学校として知られる県立高校の理数系コースへ進学する。Gくんの入学当初の成績は“真ん中より少し上”あたりだったが、高校への進学をきっかけに、徐々に頭角を現すようになる。

「地元の中学にいた頃とは違い、似たようなレベルの子が集まっている中で、努力すれば順位が上がることがわかって、張り合いがでたようです。高校で良い先生方にもめぐりあえて、勉強が楽しくなったとも話していました」

特に成績の伸びが著しかったのは、国語と英語だ。英語は中学生の頃から洋楽に熱中し、高1で英検準1級を取得した。

他の科目もコツコツと努力をいとわない真面目な性格が手伝い、高1の終わりには総合成績が学年のトップクラスにまで上昇した。Gくんはそこで初めて「大学は医学部に行きたい」と口にするようになったのだそうだ。

■親孝行の息子「学校の先生に聞くから塾は行かなくていいよ」

「私が病院で医療事務をしているからか、医療の世界は身近に感じていたようで、幼少期は“将来は医療系に進みたい”と言っていました。高校で成績が上がったので、医学部も夢ではないと思ったのでしょう」

『プレジデントFamily医学部進学大百科2021完全保存版』

実はGくんは幼い頃、アトピーと喘息を患い、喘息では入院の経験もある。幸い、成長とともに症状は良くなり、中学ではバスケットボール、高校ではバドミントンと、運動系の部活で体力も付いたことで、今ではすっかり症状が治まったそうだ。

「幼少期は喘息の発作を抑えるための吸入器と吸入薬をどこに行くにも手放せませんでした。病気で辛かった時期があったので、息子にはとにかく健康に育ってくれたらと願うだけでした。医師になってほしいなんて一度も思ったことはありません。大学進学も、本人が強く希望すれば行かせてやりたいと思っていました。しかし、家庭の事情で家から通える地元の国公立大しか学費が払えないということは、息子に常々伝えていました」

Gくんはそんな母の懐事情を察してか、一度も自分から「塾に行きたい」と言ったことはなかったそうだ。

「医学部を目指すことになり、むしろ私から『苦手な科目だけでも塾に行ったほうがいいんじゃない?』と勧めたこともあったのですが、『わからないところは学校の先生か、塾に通っている友達に聞くから大丈夫』と言っていました。親に余計な負担をかけたくないと思っていたのではないでしょうか」

最終的に月額4000円のそろばん教室に小3から高2まで通ったほかには、塾や家庭教師、通信教材にも一切頼らず、Gくんは高校の勉強だけで受験勉強を進めた。

■小論文は学校の先生に“無料”で添削・指導してもらう

Gくんは参考書にも頼らず、教科書と問題集、学校で配られるプリントをひたすら解いていたという。

過去問も自分では購入せず、先輩が使った赤本を譲り受けて使った。医学部入試で必要になる小論文対策は、学校の先生に頼んで課題を出してもらい、添削・指導を受けていたそうだ。

「私が息子にしたことは、毎日のお弁当づくりと、車で通勤するついでに学校まで送ったくらい。高校の授業料も無料でしたし、お小遣いは必要なときに本や文房具、コンビニで友達とおやつを買うお金を渡す程度でした」

そろばん以外で大学入学までにかかった出費といえば、高1で学校主催の1泊2日の勉強合宿に参加したときの費用が数千円と、月々1万円ほど積み立てた沖縄への修学旅行代の十数万円程度だったそうだ。

■医学部入学後も親の経済的な負担はゼロなワケ

校内で優秀な成績をキープし、高校から推薦を受けて、群馬大学医学部を県からの修学資金貸与を希望する「地域医療枠」で受験したGくん。倍率約3倍の難関を突破し、合格を射止めた。

修学資金は、卒業後に県内の特定病院に勤務するなどの条件を満たせば、返還が全額免除される。同様に、所定の条件を満たせば返済免除になる全日本民主医療機関連合会(民医連)からの奨学金も受けており、週1、2回の塾講師のアルバイト代を加えれば、学費も含めてGくんの生活にかかる費用は、母の負担なくすべて賄える。

「合格した日は祖母も交えて、自宅で3人でお祝いをしました」

「相手の立場に立って考えられる人になるんだよ」――多くを求めなかった母が、唯一自分に言い続けてきたこの言葉を胸に、Gくんは患者の立場に立ち、心に寄り添える医師を目指している。

■小中高でかかったお金は392万円全明細

『プレジデントFamily医学部進学大百科2021完全保存版』
※1カ月あたりの金額には、入学金などの諸費用が含まれていないため、各項目の和と総額が異なる場合がある。また、塾代や学費などは当時の数字。 - 『プレジデントFamily医学部進学大百科2021完全保存版』

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加藤 紀子(かとう・のりこ)
フリーランスライター
京都市出身。東京大学経済学部卒業後、国際電信電話(現KDDI)に入社。法人営業、サービス企画等に携わった後、2007年に夫の留学を機に家族で渡米。帰国後、フリーランスライターとして、富士フイルム代表取締役会長CEOの古森重隆氏、聖路加国際病院名誉院長の故・日野原重明氏、政策研究大学院大学前学長の白石隆氏、灘・開成・麻布・武蔵・渋谷教育学園・豊島岡女子学園・女子学院各校の校長など、ビジネス、政治、アカデミア・教育のトップリーダーのインタビューを数多く手掛ける。一男一女の子育て経験を活かしつつ、現在は教育分野を中心に“プレジデントFamily”“Resemom(リセマム)”“ダイヤモンドオンライン”“NewsPicks”など様々なメディアで執筆活動を続けている。
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(フリーランスライター 加藤 紀子)