テレワークへの関心が高まり、改めて「我が家」を省みることが多くなった今日この頃。こだわりどころは人それぞれだが、不動産情報サイトを検索してみると、なかには「なんだこの間取りは!?」と思うような物件に出会うことも少なくない。

【画像】「ナゾの間取り」をすべてみる

 どうしてそんな「ナゾの間取り」が生まれてしまうのか。『事故物件vs特殊物件 こんな間取りはイヤだ⁉』(ダイアプレス)にも寄稿したジャンヤー宇都氏が紐解いた。

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「目的もなく地図を読むのが好きだ」という人がいる。地図には、そこに暮らす人の営みを俯瞰する楽しみがある。古地図だとか、軍隊の作戦図、鉄道の路線図を漠然と眺めるのも面白い。

 ところで読者の皆様は、不動産情報誌や住宅情報サイトを開き、ひたすら間取り図を眺めるという(ネクラな)趣味があることをご存知だろうか。

 実は筆者もその筋の一員で、今より家賃が安いアパートを探すつもりが、間取り図に見入って徹夜してしまうようなこともしばしばある。この趣味に関しても、「地図ファン」の道楽に似通ったものだと感じている。

 今回は、筆者が過去に住宅情報サイトなどで発見した「ナゾの間取り」のうち数点を紹介しつつ、そういった物件が生まれるに至った背景を追っていきたい。

トイレまで力士サイズ!究極の居抜き物件(@墨田区)


 

 店舗の入れ替わりの激しい地域では、「居抜き」の賃貸物件が好まれる。廃業したBARや焼鳥屋の跡地に、また別のBARや焼鳥屋が入るのだ。什器などの設備を流用できることから、開店費用の節約になる。業態が似通っていればいるほど、居抜きの効果を享受することができる。

 ところがある日、とんでもない「居抜き物件」が現れてインターネットで話題になった。なんと相撲部屋の居抜き物件で、1階には土俵が用意されている。これに限っては、他業種での使い道がまったく思いつかない。

 間取り図を見て「なるほどな」と思うのは、あらゆる部分が「力士仕様」になっていること。たとえばトイレは、すべて力士サイズの和式便器になっている。面積は通常サイズの2倍以上あり、常人が用を足そうとすると、すさまじいガニ股姿勢を取ることになりそうだ。用便中にズッコケて、便器に落ちるのも怖い。

 ちなみにこの物件は、賃料45万円でテナント募集されていた。所在は両国国技館まで約2kmの地点。安いと見るか高いと見るか、なかなか相場のつかみにくい居抜き物件である。

200人泊まっても大丈夫!?「あまりに広すぎる」6畳ワンルーム(@杉並区)

 大家というのは見栄っ張りなもので、「デザイナーズ」とか「アンティーク調」とか、雰囲気の良い言葉を使いたがる。賃貸住宅の情報サイトを眺めていると、かろうじて植木鉢を置ける程度の「専用庭」とか、徒歩25分でこじつけのような「2駅利用可」とか、そういう表現と出会うことが多い。

 上図は、とあるマンションの1部屋が貸し出されたときの間取り図を手直ししたものだ(洋室とベランダの畳数のバランスがおかしいのは原図のまま)。

これは「ベランダ」ではなく「屋上スペース」では……という疑問が頭をよぎるが、それにしても50畳という広さ。おそらく実際には専有部分ではなく、ビル全体の設備が設置された共有スペースだと想像される。

 持て余してしまいそうなものだが、よくよく考えてみよう。東京には依然としてベランダなしのワンルーム物件が数多く存在している。そういう部屋では洗濯物を乾かすのにも一苦労で、部屋干し臭に悩まされているシングルも多いことと思われる。

 一方、ベランダが50畳もあればそんな心配は無用。兵隊さんで言ったら、1個中隊(約200人)分の洗濯物が乾くほどだ。いくら洗濯物をため込んでも大丈夫! その意味ではじつに素晴らしいこの物件だが、それだけの洗濯物を一度に乾かす機会はなく、通常のワンルームに近い家賃で貸し出されている。

“玄関開けたら即トイレ”の物件(@杉並区)

 シングルの多い東京23区では、各デベロッパーとも、とにかく単身者向けの新築を建てようと試行錯誤を重ねている。そういうマンションでは、設備や住環境は二の次で、儲けを生むためにとにかく部屋数を稼ごうとする。

 その結果として誕生したのが、図のような「玄関=便所」の物件だ。帰宅早々出迎えるのが便器なのだから、まるで自分がトイレに住んでいるような感覚になってしまうのではないかと心配になる。どんなに高級な靴を買っても、この玄関に置いたら「便所サンダル」になってしまう気が……。

 なおこの物件以外にも、居間とトイレの間がアコーディオンカーテンで目隠しされているだけのワンルーム(一部では「オシャレ独房」と通称されることも)などが実際に存在する。東京の過密状態は江戸開府以来の難題で、住まう側としてもとにかく住居費を抑えたいところ。「家賃が安い」という理由で借り手が付いているのだという。

 それならば……と、この「玄関=便所」の家に暮らす自分をイメージしてみた。日々の暮らしでは慣れないこともあるだろうが、強烈な便意に苛まれながらどうにか家にたどり着いた日には、この間取りをありがたく思うかもしれない……。そんな「ピンチ」ができるだけ訪れないことを祈るばかりだ。

「家の主」は飼い主かネコか…“主人”のための贅沢な分譲住宅(@東京)

 そこに住まうことになる施主の希望に沿って設計されるのが、注文住宅である。リビングルームであったり書斎であったりと、重視されるものは施主によってさまざまだが、この頃では「ネコに優しい」戸建てを注文する家族も多いらしい。

 そんなネコノミクス時代を背景に、ついに分譲住宅でも「ネコと暮らす」ことを謳う物件が登場した。天井は高く、吹き抜けにはキャットウォーク(ネコ用通路)が通されているため、ネコは縦横無尽にこの家を駆け抜け、家族団らんの場に飛び降りることもできる。

 キャットウォークの先にはネコ専用の扉まであるのだから、2階に陣取る一番広い洋間は、もしかしたらネコ様専用の寝室なのかもしれない。これでは誰が主人かわからない。

 古代エジプト以来、人類はネコを愛する文化を育んできた。イスラム教の開祖ムハンマドにも、ネコを溺愛したという逸話がある。「ネコのための戸建て」というのは、現代における人類のネコ愛の象徴なのかもしれない。

番外編:野球場に出現した「ナゾの住宅街」!その正体は…(@大阪)

 注文住宅の「対極」となる建売住宅。その選ぶ決め手になるのがモデルハウスだ。実物の住宅に家具・調度品を備え、新生活の見本を示すための施設である。

 なんと1990年代には、用途を失った旧野球場のグラウンドにモデルハウスを並べて「モデルタウン」を作った例がある。「大阪球場住宅展示場」がそうだ。立地はなんば駅に直結するという一等地で、下って2003年には同地に「なんばパークス」がオープンした。

 有力なハウスメーカーがそれぞれに趣向を凝らしたモデルハウスを建てただけでなく、本物の道路や街灯まで造作されるという手の込みようだ。いっぽうスタンドやスコアボードなどの構造物は撤去されなかったため、その姿はまさしく「野球場の中の町」となっていた。

 この展示場の様子を、間取り図……ではなく「住宅地図」にすると上の図のようになる。図面製作にあたっては、空想地図作家の「地理人」氏にご協力をいただいた。

 この1枚の地図からは、いろいろなことがわかる。普段テレビで見慣れている野球のグラウンドに住宅地ができると、まさしく「回覧板2枚分(=50人から100人規模)」の町になるのだ。

 二塁手と遊撃手の定位置の間には、すっぽり2家族分の住まいが収まっている。また俊足の外野手たちは、はす向かいの家に飛び込むような快速飛球をキャッチしていることになる。

 プロ野球選手たちの「守備範囲」を身近なものに置き換えてみると、あらためて驚くほど広いことがわかる。テレビ中継を見る際もグラウンドを自分の近所に置き換えて打球を追ってみると面白いかもしれない。

日本でナゾの間取りが生まれる事情(@中央区)

 高度経済成長以来、日本の住宅は大きく形を変えた。寝室と食堂の分離、子ども部屋の個室化、和室から洋間へ……など、好まれる間取りにも多くの変化が生じてきた。その過渡期には、さまざまな挑戦と失敗があった。

 かたや東京は世界最大の都市であり、常に土地不足で、単身者が多く、住居費も高い。そんな極端な地域性と時代性の下では、必然的に「変なビル」や「変な家」、「変な間取り」が生まれるものだ。こうした物件はいわば、日本社会の持つダイナミズムの証である。

 黒川紀章のように、「変な家」を通じて都市への問いかけを行った建築家もいる。彼の代表作である「中銀カプセルタワービル」のユニットは、ご覧の通りの超・狭小住宅で、現代人が見ても驚く建築としてその姿を保っている。

 施主のこだわりや建築家の個性だけでなく、都市計画のひずみや資本のエゴによっても「ナゾの間取り」は増えていくだろう。そんな間取りを見つけては、そこで暮らす生活を妄想する……。こうして今日も、夜が更けていくのだ。

※本稿中の物件は、2018年にダイアプレスより刊行された『事故物件vs特殊物件 こんな間取りはイヤだ⁉』の第1章にて紹介したものです。間取りの図版は、同書に掲載したものと同一のデータを利用しています。

(ジャンヤー宇都)