【石弘之】邪魔者を生きたまま焼き殺した…インドの「砂マフィア」がヤバすぎる! 被害者は、少なくとも1年間で28人

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人間にとって、もはや砂は欠かせない資源になってきた。コンクリート、ガラス、半導体…どれも砂がなければ製造できない。資源としての希少価値が高まり世界各地で争奪戦が起こっている現在、邪魔なジャーナリストや環境活動家を殺してでも砂を手に入れる「砂マフィア」まで登場した。新刊『砂戦争』から、インドの恐ろしい砂マフィアの実態を紹介する。

1年間に28人が殺された…

砂マフィアはインドの犯罪組織の中でもとくに強大であり、大都市で建設工事や資材ビジネスを支配し、インド各地の川や海で傍若無人に砂を採取しヤミ取引をしている。組織には政治家や地元の有力者だけでなく、公務員、警察官、労働組合幹部なども取り込まれている。

彼らは反対するジャーナリストやNGOの活動家、ときには取り締まる役人や警察官らに対して暴力を振るい、殺害もいとわない。インドの環境NGO「ダム・川・人の南アジアネットワーク」(SANDRP)によると、2018年の1年間だけで、インドの16州で少なくとも28人のNGO活動家や警察官らがマフィアによって殺害された。この何倍かが重傷を負ったり行方不明になったりしているという。

インドで砂マフィアが横行している現実は、ムンバイの環境保護活動家のスミラ・アブドゥライが襲われた事件で世界に知られることになった。彼女は、公害反対や砂の違法採掘反対運動の先頭に立って戦ってきた。NGOの「アワーズ財団」の創設者で、数々の賞を受賞した世界の環境保護活動のリーダーのひとりである。

アブドゥライは砂マフィアを告発する目的で、他の活動家らとともに2010年にマハーラーシュトラ州ライガド地区で違法な砂採掘の現場を写真やビデオに収めた。

だが、彼女の車は砂マフィアの車に追いかけられ衝突され、間一髪逃れた。その後も砂問題をめぐって国連などで活発な活動をつづけている。2012年の国連生物多様性条約締約国会議では、「いたるところでマフィアが砂を強奪して、ゴア、ケララ州などの観光ビーチもその被害に遭っているのにもかかわらず、政府や警察は報復を恐れて口をつぐんでいる」と糾弾した。

2013年にはドキュメンタリー映画『サンド・ウォーズ 広がる砂の略奪』(『砂戦争』あとがき参照)の制作に協力して砂の奪い合いの現実を世界に訴えた。

インドの川で砂を採掘する労働者[Photo by gettyimages]

一方、報道の自由の擁護を目的にするジャーナリストの国際組織「国境なき記者団」(RWB)によると、インドでは1992〜2020年に48人のジャーナリストが殺害され、34人が殺害の標的にされた。その44人ほどが砂の紛争がらみだ。被害者は、新聞記者、カメラマン、ドキュメンタリー作家、テレビレポーターらだ。

危険にさらされているジャーナリストの保護活動をしている国際NGO「ジャーナリスト保護委員会」(CPJ)は、これらの事件で逮捕され有罪になったのは、1件だけだとして政府や警察のやる気のなさを糾弾している。

RWBのアジア太平洋支部長ダニエル・バスタードはこう語る。

「インドの砂産業は腐敗し、警察官や政治家など多くの公職者の汚職を生み出している。この問題を追及するジャーナリストは命の危険にさらされ、インドは殺傷されるジャーナリストの数がもっとも多い国のひとつである」

邪魔なジャーナリストを焼き殺す

手元に殺害された48人のインド人記者のリストがある。名前をたぐりながら、改めてその多さに衝撃を受ける。

リストのなかのこんな犠牲者に目が留まった。ジャゲンドラ・シンガ記者は2015年6月、ウッタルプラデーシュ州シャージャハーンプルの自宅で殺された。15年間新聞社で働いた後フリーランスに転じて、5000人近いフォロワーがついているSNSを通して、州政府の政治腐敗を追及していた。

とくに、砂マフィアと組んで違法な取引をつづけ、福祉施設で働く女性職員を強姦するなどやりたい放題だった同州の福祉大臣に狙いを定めていた。

インドの川で砂を採掘する労働者[Photo by gettyimages]

殺害された夜、警察官とマフィアの組員がシンガの家に押し入り、今後大臣に関する報道をしないように脅迫した。拒否すると、押さえつけられ灯油を浴びせられて火をつけられた。病院に運ばれたが、重度の火傷で苦しみながら1週間後に亡くなった。

インドの地方の小都市で起きた事件が全国的に報じられることはきわめて少ないが、CPJや同僚たちがこの事件を追及した。中央政府にも調査を要求した。しかし、大臣は関わりを一切否定し、警察の検視報告でも自殺として片づけられた。

中部のマディヤプラデーシュ州ビンド県を拠点に活動していたフリーランスのジャーナリストのサンデップ・シャルマは、2018年3月にバイクで帰宅途中に後ろからきたダンプカーに衝突され死亡した。砂マフィアの違法採掘のキャンペーン記事を書いていた。それまでも、マフィアに脅されて警察に保護を求めたことがあった。

彼は砂マフィアが国立シャンバル保護区から違法に採掘した砂を輸送するために、1万2500ルピー(約1万7500円)の賄賂を警察官にわたしている現場を密かに撮影していた。事件後、マフィアとつながりがある建設会社の運転手が逮捕されたが、本人は事故だったと主張して決定的な証拠がないままに釈放された。

2020年6月には、ウッタルプラデーシュ州のカンプ・メイル紙の記者、シュブハム・マニ・トリパチがバイクに乗っていたところを3人組に襲われ、6発の銃弾を浴び殺された。RWBは「彼が亡くなる数日前に身の危険が迫っていることをフェイスブックに投稿していた」と発表した。彼は砂マフィアが違法に土地を占拠して砂を採掘していた事実を暴いて恨みを買ったとみられる。

警察官も容赦なく殺害する

むろん、警察官にも犠牲者は多い。SANDRPが明らかにした28人の犠牲者のなかに、3人の警察官の名があった。インド中央部にあるマディヤプラデーシュ州で、警察官が砂マフィアのダンプカーを止めようとして轢き殺された。別の警察官は、マフィアのダンプカーを停止させて乗り込んだところを撃たれて殺害された。3番目の事件では警察官が取締中に数人のマフィアから集団暴行を受け、病院に運ばれたが死亡した。

インドの警察官[Photo by iStock]

8月には、ラジャスタン州警察がジャイプールで違法な砂採取をつづけていた砂マフィアの拠点を襲って25人を逮捕し、トラック40台とトラクター20台を押収した。しかし、銃撃戦になりマフィア側は2人が死亡、警察官2人が重軽傷を負った。同時に、マフィアから賄賂をもらっていた警察官4人も逮捕された。

農村の失業率は高いので、組員をリクルートするのは簡単だ。彼らは採掘や運搬要員だけでなく、暴力装置としても取り締まる役人や警察官、反対する市民を脅迫し、暴力を振るう。ウッタルプラデーシュ州とマハーラーシュトラ州では砂マフィアに雇われたヒットマンが、ひとり2万ルピー(約2万8000円)で殺害を請け負っていたことも明るみにでた。

しかも、ウッタルプラデーシュ州のある地域では、警察は裏でマフィアとつながり、毎月「手当」をもらって、マフィアの犯罪を見逃していた。逮捕されても警察の圧力で有罪判決を逃れるケースが多く、殺害されたあるジャーナリストの場合には、犯行現場で目撃者がいるのにもかかわらず自殺として処理された。

インドの警察官の数は人口10万人あたり約150人(日本は約220人)と少ないことに加えて、給与が低いために犯罪組織と癒着して手当をもらうものが少なくない。NGOの活動家によると、砂マフィアの犯罪を警察に通報しても、事前に情報が漏れて犯人が逃亡していることが多いという。

砂の採掘は大災害の原因に

ヒマラヤのふもとウッタラーカンド州で2013年、集中豪雨と融雪のために壊滅的な洪水と地滑りが発生し、推定約6000人が死亡し、11万人が軍の救援で避難した。現地を調査したアメリカ・ユタ大学の研究者チームは「急ごしらえの観光施設や道路やダム建設などのために大量に砂を取られて、水の流れが大きく変えられて災害を悪化させた」と報告書で結論づけた。

インド北部の中国チベット自治区に隣接するウッタラーカンド州デラドゥでは、2016年にトン川に架かる橋が砂トラックの重量に耐えかねて崩落し、2人が死亡した。同じ年にムンバイ郊外で橋の崩壊によって、2台のバスが川に転落して27人が死んだ。いずれも砂の採掘によって橋げたが露出していた。

2018年8月、モンスーンの集中豪雨で、南インドのケララ州に深刻な洪水が発生した。この地域ではほぼ100年ぶりの大規模な洪水だった。483人以上が死亡し14人が行方不明、数日間で約100万人が避難した。国際的自然保護組織の世界野生生物基金(WWF)は、大規模な砂の採掘によって川の流れが大きく変わり、また河原の砂がなくなって堤防が流れに直撃されて決壊した、と発表した。