今から2年前、静岡県の山あいをドライブしていた日のこと。“酷道”として名高い国道152号を、私は浜松市から北上していた。

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 一般的に国道といえば、整備されて走りやすい、快適な道を想像するが、道幅がギリギリ車1台分しかなく、路面に落石がゴロゴロ転がっているような国道も実は少なくない。そんな国道のことを“酷道”と呼び、私のようにわざわざそれ目当てで車を走らせる愛好家も存在する。静岡県浜松市と長野県上田市を結ぶ国道152号も、そんな酷道の1つだ。


“悲劇”の始まりだった国道152号

夜の峠越えを回避するために……

 その日は朝から走り続けていたものの、2つの峠を越えて長野県飯田市に入ると、すっかり日も傾きはじめていた。このまま152号を北上すると、暗闇で次の峠を越える羽目になる。カーブが連続する狭い峠道は、明るい時間帯でも運転に慎重さを求められる。対向車が来ようものなら、手に汗握るドライブだ。

 そんな峠道に、暗闇のなか突入するのはやめておこう――。そこでいい抜け道はないかと、私はスマホの地図アプリを眺めた。すると、飯田市上村から進路を西に変えて国道256号に入れば、その先の飯田市街から高速道路に乗れることがわかった。

 国道256号へ向かうには、上村から一旦県道に入る。その道を3キロほど北に進むと、256号に左折できるようだ。早速県道に入り、北上する。……だが、明らかに3キロを過ぎても、一向に左折できそうな道が現れない。地図アプリを確認すると、既に256号への分岐点はとうに越えている。

どれだけ走っても見つからない道

「スマホの電波状態が悪いから、きっと現在地が正確に表示されてないのだろう」。そう思い、Uターンして分岐点付近に戻ってみたが、やはり道が無い。さらにUターンして行ったり来たりを繰り返したが、結果は同じだった。

「そんなバカな……」

 スマホの地図を拡大してみるが、変化はない。しかし、さらに拡大してみると、おかしなことに気付いた。県道と国道256号との間に、わずかなすき間が現れたのだ。……そう、県道と国道256号は、あと数十メートルというところで、微妙に繋がっていないのだ。

 こんなことがあるのか……。しばし呆然としたが、ここで立ち止まっている訳にもいかない。国道152号に戻って北上し、真っ暗になった酷道をひたすら走る。峠を越え、ようやく街の灯りが見えた時には、心底ほっとした。

なぜ繋がっていなかったのか?

 あの微妙に繋がっていない道は何だったのか。深夜に帰宅して早速調べたところ、意外な事実が分かった。国道256号と県道は、やはり繋がってはいた。だが、車道としては12キロも分断されていたのだ。

 それは一体どういうことなのか。私が見つけられなかった“左折する道”は、なんと登山道だったのだ。そこから12キロ、ひたすら山道が続き、その険しい道程を踏破するとようやく車道が現れる。だが、最も驚くべきは、車で走ることなど絶対に不可能なその登山道も、実は国道256号である、ということだった。これぞまさに“酷道”だ。

 地図アプリで見た県道との微妙な“すき間”は、その登山道の一部が廃れてしまい、もはや道として認識されていなかった、ということらしい。繋がっているとか繋がっていないとか、そんなレベルの話ではなかったのだ。

 道も十分酷いが、それ以上に登山道をあたかも車で通行できるかのように表記する地図アプリも酷い。そこで改めて色々な地図を見比べてみると、それぞれに違いがあることに気付いた。分断区間の12キロを全く表示していない地図もあれば、県道に繋がっている歩道として表記している地図もあった。

車で通行できない国道に行ってみた!

 国道なのに車で通行できない道。それはいったいどんな道なのか――。居ても立ってもいられないぐらい気になってしまい、次の週末に私は再び長野県飯田市に向かうことにした。

 せっかくなので、今度は国道256号の起点である岐阜市の繁華街からスタートした。目指すゴールはあの県道との分岐点。すなわち、私が見つけられなかった登山道への入り口にたどり着くことになる。

 市街地から郊外、そして山間部を走り、下呂市までは快走路が続く。その後は酷道もあるが、お茶畑が広がり景色が良く、酷道区間としては短いものだった。

 三遠南信自動車道の飯田上久堅・喬木富田インター付近を過ぎると、センターラインが消えた。山に入るにつれて、道路状況は一段と険しさを増してゆく。道幅は車1台ギリギリで、木々が日光を遮るため、昼間でも薄暗い。

 すると目の前に、突然ゲートが現れた。万事休すかと思われたが、よく見ると通行止ではなく、害獣用のゲートだった。

 山から猪等の害獣が街に下りてこないよう、設置されたものだ。山道では時おり見かけるが、これが国道本線上に設置されているのは、非常に珍しい。さすが酷道である。

ゲートの先に広がっていたのは……

 ゲートは施錠されておらず、自分で開けて進入できるようになっている。進入後は害獣が入らないよう、すぐに閉めるのがルールだ。ゲートの先は未舗装で、路面の凹凸も激しい。これまで以上に国道らしさが失われ、完全に林道の様相を呈している。

 車で進めるのはここまでだろう。ゲート付近の邪魔にならない場所に車を置き、ここからは徒歩で探索することにした。

 この先に待ち構えている小川路峠を目指して、まずは歩きはじめる。しばらくはオフロード車なら通行できそうな雰囲気もあったが、それも長くは続かなかった。車道はすぐに登山道と化し、道幅は最も狭いところで靴の幅しかない。これが国道だと言われても、信じられないだろう。

 ちなみに、地図アプリのナビ機能を使って小川路峠を目的地に設定したところ、ここから車で4分と表示された。この道を車で走れと言われても、途方に暮れるしかない。

なぜこんな登山道が国道なのか?

 そもそも、なぜこんな登山道が国道に指定されているのかというと、昔は重要な街道だったからだ。現在の長野県飯田市にある飯田八幡宿と、静岡県浜松市にある火の神様・秋葉神社を結ぶ道は、秋葉街道と呼ばれていた。江戸時代には、秋葉参りや善光寺参りなどで人の往来が盛んで、また、海の無い信州と太平洋側を結んでいたため、物流としても重要な役割を担っていた。

 その秋葉街道を踏襲しているのが、この国道256号と国道152号なのだが、峠越えの難所が連続することから、国道であるにも関わらず道路の分断されている区間が複数存在する。そうした難所の1つが、この先にある小川路峠だ。

 小川路峠の標高は1642メートル。秋葉街道のなかでも最大の難所と言われていたらしい。その言い伝え通り、延々と急な上り坂が連続し、体力を奪われる。足を踏み外すと危険な箇所も多く、全く気が抜けない。休み休み歩いていても汗が噴き出してきて、次第に休憩のペースが早くなった。

 歩き始めて2時間半で、ようやく小川路峠に到着した。飯田方面の眺望がすばらしい。峠付近には、鳥居がポツンと建っていた。神社は見当たらないので何だろうと思ったが、どうやら遠く離れた秋葉神社を遥拝するためのものらしい。

4時間かけてあの県道に到着!

 小川路峠は分断区間のほぼ中央に位置するため、この先にも同じだけの距離が待っている。永遠に休憩したいのを我慢して、峠を下りはじめる。国道を見に来たつもりが、もはや完全な登山になっていた。

 終盤に差しかかると道が荒れ、どこを歩けばいいのか、見失いそうになった。そして歩き始めて4時間、ようやく県道に出た。久々に見る舗装路は、何度も行ったり来たりした、見覚えのある場所だった。

 前回は気が付かなかったが、“秋葉街道”と書かれた案内板も立っている。案内板の脇に登山道があるわけだが、今さっきそこを降りてきた私が見ても、どれがその道なのかすぐには分からない。先週、ここに来たとき辺りは薄暗く、ましてや車道だと思い込んでいたので、なおさら発見するのは困難だっただろう。国道256号を全線踏破して非常に疲れたが、とても充実した1日になった。

時代に取り残されてしまった酷道の魅力

「なぜこんな道が国道なんだ!」と思うような道でも、昔は重要な街道だったと知れば、納得できる部分もある。鉄道など他の交通手段の発展や、モータリゼーションの到来など、時代の流れによって交通の要衝も変化していく。

 今回、ドライブ中に地図に騙されたことをきっかけに、再び現地を訪れて登山する羽目になった。時代の変化に合わせて整備されてきた優等生の国道と違い、時代に取り残されてしまった酷道は、どこか人間臭さというか、親近感を覚える。

 たまには高速道路やバイパスを降りて酷道を走ってみるのも、楽しいかもしれない。但し、その代償として、多くの時間と気力と体力を奪われるのは、間違いないだろう。

撮影=鹿取茂雄

(鹿取 茂雄)