反射鏡破損のアレシボ天文台、安全上の問題で修復断念。周辺施設は継続の意向
University of Central Florida

全米科学財団(NSF)が、プエルトリコにあるアレシボ天文台の電波望遠鏡を廃止すると発表しました。

アレシボでは今年8月に構造を支えるサポート用のワイヤーケーブルが落下。補助用とはいえ太く重い金属製のケーブルは、反射鏡を数十mにわたって大きく破損してしまいました。NSFとアレシボ天文台を運営するセントラルフロリダ大学(UCF)は、当初これを修復するため、破損の状況を評価し、調達可能な予算範囲で修復可能な計画を立案。それに従い天文台は破断したサポートケーブルを代替するケーブルと仮設用ケーブル各2本を手配していました。

しかし11月6日になって、こんどは8月の時と同じ鉄塔につながっているメインの構造支持ケーブルにも断線が発生。これによって反射鏡の構造全体が脆弱となり、最悪は反射鏡がさらに破損する可能性が出てきました。

複数の機関による状況の分析を行った結果、直径305mの反射鏡の下にぶら下がる900tもの構造物、そして周囲にそびえる鉄塔がいつ崩壊してもおかしくない状況だとわかり、さすがにそこへ人員を送り込んでの修復作業は不可能と判断されました。なんとかして安全を確保し修理できたとしても、完成から57年も経過したアレシボ天文台が今後長らく安全にかつ安定した状態で維持できるかどうかもわかりません。

NSFは「これまでわれわれの考えは天文台を修理するかどうかではなく、どう修理するかを考えていました。しかし状況を示すデータは、安全に修復作業を行うことができないことを示しています。これはわれわれが越えてはいけない一線です」とNSFの天文科学部門長Ralph Gaume氏は述べています。

技術チームはいまも2本のケーブルが破断した原因を調査中です。最初のケーブルは、1990年代に設備の構造強化のために設置された一連のケーブルのひとつでした。一方、11月に切れたメインケーブルは建設当時からのものでしたが、破断時の負荷は定格強度の62%ほどでしかなく、なぜこれが壊れたのかはわかっていません。ただ、他のケーブルを検査したところメインケーブルの一部に小さな断線があり、補助ケーブルを留めるソケットにもいくつかに滑り痕がみつかったと報告されています。

NSFでアレシボ天文台のプログラムディレクターを務めるAshley Zauderer氏はここ最近大きな災害に見舞われていたアレシボ天文台のケーブルを含む構造検査では異常は発見されなかったと述べ、メインケーブルについても、塗装などのメンテナンスを施しても湿気などが内部に及んで腐食や劣化が生じないよう設計されているとしました。そして、最初の補助ケーブル破断後に計画していた(メインケーブルの異常も検出できたではずの)監視用システムの導入が間に合わなかったことが悔やまれると述べています。

NSFによると、アレシボ天文台の修復断念は天文台全体を閉鎖することとは意味が異なるとのこと。というのも、アレシボには大きな皿をもつ電波望遠鏡のほかにも地球の大気を調査するLIDAR施設とビジターセンターがあり、これらは今回の問題の影響を直接は受けていません。また反射鏡の破損以前に収集された大量のデータの分析作業も残されています。

とはいっても、アレシボが電波望遠鏡としての役割を終えるのは、これまで様々な用途で関わってきた天文学者、惑星科学者らにとっては大きな打撃になるでしょう。われわれ一般の興味をひく研究への活用もわりと多く、1974年には地球外知的生命体探査(SETI)の一環としてヘルクレス座の球状星団M13へ向けて「アレシボ・メッセージ」を送ったり、1999年から今年3月まで継続していたSETI@homeではアレシボのデータを分析したりといったことが行われてきました。

一方、NASAはアレシボの運用継続のために資金を投じ、惑星レーダーとして地球近傍天体の追跡や特性評価に活用していましたが、NSFによる電波望遠鏡の修復断念に対して「NASA​​は、歴史的な天文台で働き、そこを訪れ、勉強する人々の安全を最優先するというNSFの決定を尊重する」とコメント、惑星レーダーとしての観測活動は将来的にカリフォルニアのゴールドストーン天文台で行うとしています。

source:NSF
via:Space News