2020年10月末から11月の初めにかけて、世界は記録的な1週間を経験することになった。太平洋と大西洋それぞれの周辺地域が、立て続けに猛烈な暴風雨に見舞われたのだ。

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これは、温暖化による破滅的な未来の前触れなのだろうか? それとも、地球の限界を試すかのような異常事態ではあるものの、正常な気候変動の範囲内の現象なのだろうか? 科学者たちは頭を悩ませている。

遅い時期に発生したふたつの大型台風

スーパー台風「ゴニ(Goni)」は11月1日、最大時速195マイル(秒速87m)と推定される暴風を伴ってフィリピン諸島を襲い、複数の小規模な島々に大きな爪痕を残した。米国海洋大気庁(NOAA)の一部門である国立ハリケーンセンター(NHC)および米海軍の合同台風警報センター(JTWC)の観測によると、上陸した台風としては過去最強だったという。

人口の密集する首都マニラとその周辺地域は運よく直撃を免れた。ゴニはその後、風力を弱めながらも激しい雨を伴ってヴェトナム方面へと向かった。

一方、カリブ海ではカテゴリー4のハリケーン「エタ(Eta)」が、11月3日に時速145マイル(秒速65m)の強風を伴いニカラグア沿岸を直撃した。同日朝のNOAAハリケーンセンターの発表によると、その勢力は中米全域に「人命を脅かすほどの高潮、暴風、鉄砲水、地滑り」をもたらす大きさだったという。ニカラグアの緊急対策当局によって沿岸全域に避難命令が発せられ、同地域は豪雨によって数日のうちに最大33インチ(約83cm)の浸水に見舞われるとの予報が発表された。

20年に命名された大西洋海域のハリケーンはエタが28個目であり、これまで最高の発生数を記録した05年に並んでいる。

ふたつのハリケーンはどちらも非常に大型で、かなり遅い時期に発生している。これは太平洋と大西洋の水温がいずれも高いままであることが原因だと、ジョン・ナフは言う。ナフはNOAAの提携機関であるコロラド州立大学大気科学共同研究所(CSU/CIRA)所属の気象学者である。

「今季の大西洋は、まるで海面の温度が著しく上昇した場合に何が起きるかを試す実験場のようです」と、ナフは言う。「平年を上回るエネルギーによって極めて勢力の強い嵐が発生しているのです」

そもそも「スーパー台風」とは?

気象学的に台風とハリケーンは同じ現象だが、慣例として太平洋の西部海域で発生するものを台風、太平洋東部および大西洋で発生するものをハリケーンと呼んでいる。いずれも初めは単なる荒天であったものが、温かい洋上を通過しながら徐々に海面から水を吸い上げていく。

このとき海水は深さ150フィート(約46m)で27℃の高い温度を保っており、吸い上げられた海水は空中に蒸気として放出される。このとき上昇気流に乗った水蒸気は凝結して水滴となるが、その際にエネルギーを放出する。上昇する空気の塊の下に低気圧が発生し、さらに大量の空気が勢いよく取り込まれていくのだ。

そして、中心付近に吹く反時計回りの風の最大風速が毎時74マイル(秒速33m)に達したとき、熱帯性低気圧は正式にハリケーンと呼ばれるようになる。台風ゴニは最大風速が毎時150マイル(秒速67m)に達した時点で、気象学者らによって「スーパー台風」の呼称を与えられた。

NOAAは20年初め、名前のつくハリケーンは大西洋海域で年内に26個発生し、そのうち「大型」に分類されるものは3から6個と予想していたという。NOAAとは別の複数の学術研究チームもまた、20年が並外れたハリケーンの当たり年になるだろうとの予測を出していた。

だが実際には、20年11月初旬の時点で28個のハリケーンが発生し、そのうち5つが大型だった。「個人的にはこうした予想に対してシーズン当初は懐疑的でした。しかし、この結果には驚くばかりです」と、ナフは話す。

太平洋海域に関しては、逆に平年より穏やかな台風シーズンになるだろうとNOAAの気象学者たちは予測していた。スーパー台風ゴニは大型だったものの、この予測はおおむね正しかったと言える。

ナフはハリケーンを誘発する環境条件について研究する観測気象学者だ。ほかにも気候科学者のケリー・エマニュエルのように、気候変動がゴニやエタ級の猛烈なハリケーンの発生にどうかかわっているのか、そしてこれから大気と海水の温度が上昇し続けた場合、将来的にどんな変化が起こりうるのかを研究している学者たちがいる。

「気になるのは、過去10年であらゆる記録が塗り替えられていることです」と、マサチューセッツ工科大学(MIT)で大気科学の教授を務めるエマニュエルは言う。

過去のハリケーンについて記録したNOAAのデータベース「IBTrACS」によると、世界でこれまでに上陸が確認された大型ハリケーンの上位10個のうち、7個は06年以降に発生している。このデータベースは、1930年代までさかのぼった連邦政府の記録を基に作成されている。

ゴニより前の記録となると、1952年以降に時速160マイル(秒速71m)以上の暴風を伴ってフィリピン諸島を直撃したカテゴリー5のスーパー台風はわずか20個だ。もはや大型台風のスピードは天井知らずだとエマニュエルは言う。

地球の温暖化と被害の拡大

将来の気象パターンを予測する地球規模の気候モデリング技術が向上する一方で、大気中の二酸化炭素濃度は上昇の一途をたどっている。地球全体が、今世紀半ばまでに予想されている2℃の気温上昇へと近づいているのだ。

実際、国連の世界気象機関(WMO)による最新報告によると、新型コロナウイルスの世界的流行によって経済が停滞していた期間も、地球の「病状」はほとんど落ち着きを見せていない。世界は「観測史上最も高温な5年間」への道をひた走っているのだ。

気温の上昇は、海から上がる水蒸気が大気中にとどまりやすくなることを意味する。水蒸気はやがてハリケーンの豪雨へと変わり、同時に海面の温かい水から大量の熱エネルギーを得ることによって嵐はさらに発達する。つまり、海水の温度が高いほど、嵐は大型化するのだ。

こうした条件が揃うと、熱帯性低気圧は高い確率で勢力を拡大していく。そう語るのは、ニュージャージー州プリンストンにあるNOAAの地球物理流体力学研究所(GFDL)の研究員で気象学者のトーマス・ナットソンだ。最新のWMO報告書の寄稿者でもある彼は、あらゆる事実から考えて気候変動がハリケーンの大型化に拍車をかけていることは間違いないと考えている。

「われわれの気象モデルからは、気温の上昇に伴って熱帯低気圧がますます強力になっていることがわかります」と、ナットソンは言う。「地球の温度が2℃上昇するごとに、5パーセント激しくなるといった具合です。この数字どおりにいけば、最強レヴェルの嵐がさらに激しさを増すことも考えられます。将来的に、記録破りの暴風雨に何度か襲われることになるかもしれません。嵐はますます激しくなっていくのですから」

地球の温暖化が今後のハリケーンや台風の発生数に影響するかどうかはまだわからないと、ナットソンは言う。はっきりしているのは、風に押されて海岸に押し寄せる波が高くなることから、沿岸の被害は大きくなるだろうということだ。

水位の上昇が原因で、高潮による被害が深刻化している。極地の氷が溶けて世界中の海面が上昇していることに加え、水には温度が上がるにつれて膨張する性質があるからだ。

太平洋では、大西洋に比べて大型の嵐が発生する。これは面積が広く、発達するために十分なスペースがあることに加え、太平洋のほうが海面からより深いところまで温かい水の層が続いているからでもある。大西洋では、フロリダ南部からヨーロッパ方面に向かうメキシコ湾流や、メキシコ湾周辺を流れるフロリダ海流などによって、水面に近い温かい水の層が崩れてしまうのだ。

すべての要素が重なると、ゴニのようなスーパー台風は、さらに激しい風と豪雨、巨大な高潮を伴うことになる。そのため沿岸部の住人が受ける被害は、これまで以上に甚大なものになる恐れがある。

個別の台風を気候変動とは結び付けられない

ゴニは直前で進路を南に変えたことから、マニラへの直撃は免れた。だが少なくとも10人が亡くなり、避難所に残っている人は11月4日時点で34万5,000人にのぼっていた。一方、フィリピン政府の推計によると、13年に発生したスーパー台風「ハイヤン(Haiyan)」は6,000人の死者と1,800人の行方不明者を出している。

NOAAのナフは、大西洋海域のシーズン最終日と決められている11月30日までに、これ以上ハリケーンが発生しないでほしいと願っている。だがこの願いが叶わなかった場合、彼はさらなる記録更新に備えてコンピューターのプログラムを修正せざるを得ないだろう。

「ここで止まってくれればいいのですが」と、ナフは言う。「以前、年末に台風が相次いだときには大混乱に陥りました。現在はシーズン終了に向けて稼働するソフトウェアの数を増やしています」

個別の台風の発生や動きを気候変動と結びつけることはできないと、気象学者や気候研究者たちは言う。そのため、ゴニやエタのようなスーパー台風が「ニューノーマル」になるとは断言できない、というのが彼らの意見だ。

科学者である彼らは、長期的に見た可能性や傾向を語る。しかし、目の前の数字はどれも決して望ましいものには見えない。

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