安倍晋三前内閣から引き続き、政府ナンバー2の要職にとどまる麻生太郎副総理兼財務相。「菅義偉首相を支えていく」と繰り返すものの、元々2人は距離があるとされる上に、首相の後見人の二階俊博幹事長ともけん制し合う関係で、政権内で旗色は芳しくない。体調を回復させつつある安倍氏と再び手を結び、唯一無二の存在感を取り戻せるのか。麻生氏の周囲で静かな権力闘争が始まっている。

 10日夜。都内のステーキ店に麻生氏の姿があった。2人きりで向かい合っていたのは、9月の退任後、政治活動を本格化させている安倍氏。「元気そうで何よりだ」。リラックスした様子の麻生氏は、「盟友」の肌つやの良さに満足そうな笑みをたたえた。

 腹蔵ないコンビの話題は、安倍氏がその時機をうかがう出身派閥・細田派への復帰と会長就任にも及んだという。前向きな意向をくみ取った麻生氏は翌日、周囲に上機嫌で告げた。「(安倍氏は来年3月末の)年度替わりぐらいで、何らかの方向性を出すんだろう」

 安倍氏の復権はすなわち、麻生氏の復権も導く。

 現菅政権では、無派閥の首相が最も頼りとする派閥領袖(りょうしゅう)・二階氏が「重心」として権勢を振るっている。二階派が、政府と党の主要ポストを相当数占める「独り勝ち状態」(別の派閥幹部)であるのと明暗をなし、麻生氏は浮き上がってしまっている状態。国会の答弁席こそ首相の隣に座っているが、安倍氏にしていたように気軽に話し掛ける場面も明らかに少なく、「楽しいはずがない」(周辺)。

 そこへ、気脈を通じる安倍氏が98人の最大派閥を率いて表舞台に返り咲けば、54人の第2派閥のボスである麻生氏にとってまたとない援軍となる。合力して主流派を形成し、自らその盟主となって「菅―二階ライン」から主導権を奪い返す―。麻生氏の言動には、そんな魂胆がのぞく。

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 もっとも、麻生氏の目下の最大関心事は、残り任期1年を切った衆院議員の解散・総選挙。復権シナリオの大前提として、麻生派の「数の力」の死守が命題となるからだ。

 選挙地盤の弱い所属議員には「靴底をすり減らして地元を回れ」「陳情に応えて力をアピールしろ」と尻をたたく。現職メンバーを抱える選挙区に新人擁立の動きがあれば、旧知の党県連幹部に電話してその芽を摘む。自らの色の付いた新人候補に金銭支援も惜しまない。側近の一人は「第3派閥に後退するわけにはいかない」と、麻生氏の心中を代弁する。

 安倍前政権時代から早期解散論者として知られ、9月の総裁選で支援を決めたころには、麻生氏は首相にこんな戦略を授けていた。≪新内閣と党の支持率が堅調なうちに速やかに衆院選を仕掛けて圧勝すれば、来秋の総裁選も事実上の無投票再選に持ち込むことができ、長期政権の道が開ける≫

 ただ、新政権が離陸し、巡航速度に入ってきた今後、首相がどこまで麻生氏の声に耳を傾けるかは見通せない。

 総裁選で首相と戦い、敗れた岸田文雄前政調会長は来秋を見据え、かつて同じ派閥だった麻生氏に「大宏池会」構想の秋波を送るとともに、初当選同期で親しい安倍氏が会長に就いて発足した議員連盟にも名を連ねた。

 10日の「麻生―安倍会食」では、岸田氏に関する突っ込んだやりとりはなかった様子だが、麻生氏周辺は「その話をするには、まだ早い」と含みを持たす。「ポスト菅」のカードもちらつかせながら、政権中枢の駆け引きが続く。

(河合仁志)