アルコールの飲みすぎは要注意です(写真:マハロ/PIXTA)

アルコールを飲むと血圧が上がり、体に負担がかかります。ではどのくらいの量にとどめれば安全なのでしょうか。食事や運動、生活習慣によって血圧を正しく効率的に下げる方法を解説した、内科医・奥田昌子氏の著書『血圧を最速で下げる』を基に、第3回はアルコールとのつきあい方やタバコの悪影響について紹介します。

第1回:「減塩で血圧は下がらない」医者が語る衝撃事実

第2回:心臓病死のリスク、「月曜午前」が最も高いワケ

1日「ビール中びん1本」以上で血圧上昇

飲酒はどのくらいの量なら安全なのでしょうか。ハワイ在住の日系人男性約7000人を対象に実施された有名な調査があります。これによると、純粋なエチルアルコールの摂取量が1日平均20mlを超えると、上の血圧も下の血圧も明らかに上昇しました。

エチルアルコール20mlといえば、日本酒1合に含まれる量です。ビールなら500ml入りの中びん1本、焼酎なら0.6合、ワインは1/4本で、発泡酒はビールと同じです。

要注意なのが、昨今流行りのストロング系チューハイです。通常の缶チューハイはアルコール度数が6%弱なので、500ml缶1本が日本酒1合に相当しますが、アルコール度数が9%のストロング系だと、350ml缶1本で日本酒1.5合、500ml缶だと1本で日本酒2合強に相当します。

ビールを飲んでも焼酎を飲んでも、飲酒量を日本酒に換算できるのは、アルコール飲料に共通して入っているエチルアルコールが血圧を上げるからです。言い換えるとアルコール飲料である限り血圧は上がり、「血圧が上がりにくい飲料」とか「上がりやすい飲料」というものはないわけです。

飲酒が体に与える影響は蓄積して作用するため、1日ではなく1週間単位で考えて、安全のために男性は週に6合まで、女性は3合までとしましょう。女性が半分なのは、日本人を含む東アジア人の女性は、東アジア人男性の半分の量で体への悪影響が出現することがわかっているからです。

歓迎会や送別会、忘年会、新年会など飲酒の機会が続く時期は1カ月単位で帳尻を合わせてください。男性なら月に25合、女性は13合です。元の血圧が高い人ほど節酒が有効です。

飲酒量はカレンダーか手帳に書いておくことをおすすめします。「缶ビール2本、ワイン1杯」という具合に簡単にメモしておいて、週に一度か月に一度、先に述べた換算法で日本酒の分量に直します。

たとえば焼酎2合と350ml入りの缶ビール4本なら、それぞれ3合強と3合弱で合計6合程度です。「意外に少なかったな」とか「あれれ、結構飲んじゃったな」と驚きながら、次第に自分で「ここでやめれば今週は大丈夫だろう」と計算できるようになります。

アルコールが分解される過程でできる物質には血管を広げる作用があるため、飲むといっときは血圧が下がります。けれども、この物質はまもなく分解されてしまい、飲み続けるうちに血圧が高くなります。

世界保健機関(WHO)が2016年に実施した調査によると、日本人男性1人が年間に消費するエチルアルコールの量は10.4リットルで、世界86位でした。

大きな傾向として見ると、1人当たりの飲酒量は、かつて東側陣営に属していた国々が軒並み高く、もっとも多かったベラルーシの男性は年に27.5リットル飲んでいます。次に多いのが西欧諸国と韓国で、その次が韓国以外の東アジアと東南アジア、北米諸国です。日本もここに入ります。

そのすぐ下に世界平均値が来て、平均より少ないのがインドと、飲酒が禁止されているイスラム諸国でした。日本人の飲酒量は世界平均より多いとはいえ、飲酒の習慣がないイスラム諸国を除いて考えれば、世界のなかでは少ないほうです。

アジア人の40%は分解する酵素の働きが弱い

それでも安心はできません。アルコールの分解にかかわる酵素の働きには人種差があり、これは生まれ持った遺伝子で決まります。日本人を含む東アジア人は約40%の人でこの酵素の働きが弱く、飲むと有害な作用が出やすいのです。欧米人やアフリカ系の人には、この酵素の働きが弱い人はいません。

アルコールの分解がスムーズに進まないとアセトアルデヒドという毒性物質がたくさん作られて、顔が赤くなる、頭痛がする、心臓がドキドキするなどの症状があらわれます。アセトアルデヒドが神経に働きかけて皮膚の血管を広げ、流れる血液の量を増やすからです。

そのため、顔が赤くなるかどうかを見れば、アルコールを分解する働きが強いか弱いかがある程度判断できます。これを利用して、顔が赤くなるグループと、赤くならないグループに毎日同じ量のアルコールを飲んでもらう実験が韓国で行われました。すると、顔が赤くなるグループは、赤くならないグループの半分の日数で血圧が上がることが判明しました。

他の調査からは、アジア人は、血圧上昇により脳血管障害を発症する危険が欧米人の2倍近く高いという結果が得られています。

血圧を上げるものといえば、タバコの右に出るものはないでしょう。その影響はすさまじく、一本吸うだけで上の血圧が20ミリ上がり、とくに朝起きぬけの一本で30ミリもはね上がるというデータがあります。上の血圧が普段140ミリの人なら170ミリになるということです。

この状態は15分以上続き、普段の血圧まで下がるには30分ほどかかります。2本続けて吸えば30分たっても血圧は上がったままです。

このことから、1日に30〜40本吸うヘビースモーカーは、おそらく1日中血圧が高いままとなり、血管の壁の劣化が進むと考えられています。実際に、30〜70代の日本人910人を対象とする調査を通じて、1日に30本以上吸うグループは、喫煙しないグループとくらべて血管の壁の機能が約2.2倍低下しやすいことが示されています。

また、日本人を対象に19年間行われた別の調査によれば、1日1箱以内の喫煙でも心筋梗塞の発症率が4倍以上、1箱を超えると7.4倍上がり、毎日2箱以上タバコを吸う男性は、まったく吸わない人とくらべて脳血管障害の発症率が約2.2倍高くなりました。

これは飲酒や塩分摂取の影響を受けないように調整したデータなので、喫煙に加えて酒を飲む、塩分も摂取するとなれば、健康に気をつかっている人との差はさらに広がります。

女性は心臓病の危険がさらに増す

とくに女性が喫煙すると、心臓病の危険が男性の喫煙者のさらに25%増しであることもわかっています。おまけに喫煙は女性ホルモンを減少させるため、これによっても血管の壁がもろくなり、肌の老化が進みます。妊娠しているかどうかに関係なく、女性もタバコはやめるべきです。

タバコを吸う人の寿命は吸わない人より平均10年短く、自立して生活できる健康寿命も4.4年短いというデータもあるとなれば、もはや禁煙待ったなしです。

禁煙すれば血管は元どおりになるのでしょうか? タバコを2年以上吸っていて禁煙した男性を対象に、血管の壁の機能を比較した研究があります。すると、検査の数値が正常範囲だった人は禁煙前には約15%しかいなかったのに、禁煙3カ月後には約62%まで増えました。回復力がちゃんと残っていたのです。

また、心筋梗塞を起こした男性およそ900人を対象に行われた調査によると、病気になるまで毎日15本以上吸っていた患者さんのうち、病気をきっかけに禁煙したグループは、その後も喫煙を続けたグループとくらべて、その後3年間に心筋梗塞を再発した人の割合がほぼ半分でした。

別の調査では、禁煙して15年たつと、再発の危険が初めから吸っていなかった人と変わらなくなることが示されています。異なる調査なので単純に比較することはできませんが、喫煙によって心臓の血管が受けた傷は禁煙して3年で半分になり、15年でほぼ完全に癒える可能性があるわけです。

では、新型タバコにはどのくらい期待できるでしょうか。20〜30代の喫煙者のうち、紙巻きタバコから新型タバコに完全に切り替えた人が3人に1人を超えたと伝えられています。見た目がおしゃれなうえに、小さな器具を操作する面白さもあるのでしょう。

メーカーが「有害物質の量が平均で90%少ない」などと宣伝していることから、新型タバコは健康に害を与えにくく、周囲の人に迷惑がかからないと考えている人もいるようです。

加熱式タバコも血管の壁の機能をそこなう

日本で普及している新型タバコは大部分が加熱式タバコです。刻んだタバコの葉を燃やして煙を吸う紙巻きタバコに対し、タバコの葉を加熱して発生する蒸気を吸うため煙が出ません。


ですが、安全かどうかは別の話です。近年、紙巻きタバコの煙と加熱式タバコの蒸気をネズミに吸わせて、血管の壁の機能がどのくらい変化するかを調べる実験が行われました。一回に15秒間、5分間に5回吸わせたところ、壁の働きは紙巻きタバコで57%、加熱式タバコでは58%低下しました。

加熱式タバコの蒸気が目に見えようが見えなかろうが、血管の壁の機能は紙巻きタバコと同じようにそこなわれるのです。ここにかかわっていると推測されているのがニコチンです。

紙巻きタバコと加熱式タバコのそれぞれを吸ったあとで、血液のニコチン濃度を時間を追って測定したデータを見ると、どちらのタイプのタバコもニコチンが急速に血液に取り込まれ、ニコチンが血液から消えるまでの時間はほとんど変わりませんでした。

タバコをすっぱりやめられない人が多いのは、ニコチンが、ヘロインやコカインより依存性が高いと考えられているからです。禁煙外来には依存が起きるしくみをふまえて開発された禁煙プログラムがありますので、相談するのも一案です。