ファーストサマーウイカと峯岸みなみ

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「ASAYAN」って敗者の方が売れる不思議なオーディション番組だった。つんく♂プロデュースのボーカルオーディションを制したのは平家みちよさんだったが、落選者を集めたモーニング娘。の方が爆発的に売れた。CHEMISTRYのオーディション敗退者は、EXILEのATSUSHIさんとNESMITHさん。先日話題になった「女子メンタル」を見たとき、ふとその「ASAYAN」を思い出した。負け組女子たちの面目躍如。ひたむきに戦う敗者の美学が、そこにはあった。

 出演したのは、松本人志さんによって選ばれた7人の女性たち。峯岸みなみさんにファーストサマーウイカさん、浜口京子さん。ゆきぽよさん、朝日奈央さん、金田朋子さん、松野明美さん。職種も芸歴もバラバラな女性たちが、笑いで闘うドキュメンタリーだ。彼女たちの共通点をあえて挙げろと言われれば、大きな「負け」を経験してきたということではないだろうか。浮き沈みを味わってきたからこその強烈なガッツがぶつかり合い、実に清々しかった。

ファーストサマーウイカと峯岸みなみ

 AKBの1期生でありながら、度重なる異性スキャンダルを起こしてきた峯岸さん。アイドルとして活動するも、今ひとつブレイクしきれなかった朝日さんやウイカさん。松野さんは五輪に憧れるも一度も出場できなかったマラソン選手だった(1万メートルではソウル五輪に出場)。五輪に出場した浜口さんとて銅メダリストだが、同世代の吉田沙保里さんや伊調馨さんら金メダリストにばかり脚光が当たっていた感がある。またギャルのゆきぽよさんも、甲高い声でしゃべり倒す金田さんも、どこか「イロモノ枠」としてしか扱われてこなかったのではないか。

松本人志

 本業でずっと活躍し続けるようなスターなんてひと握り。憧れていた職や環境にやっとたどり着いても、勝ち続けるのは難しい。だからこそ、不遇の時代を腐らずに戦い続けた人たちのたくましさは強烈だ。すべったらどうしよう、好感度が下がったらどうしようという迷いや保身が全くない。かぶり物も変顔もいとわず、自分や相手の恥ずかしい過去さえ利用する。一度大負けしているから、ここで転んでも屁でもない。そんななりふり構わぬ強さを全ての女性が発していた。彼女たちの不格好だけどまっすぐな戦いぶりは、テレビってやっぱり面白いな、一生懸命な人は素敵だなと改めて思わせてくれたのである。

YouTube全盛時代に際立つ「敗者の美学」 テレビの未来を救うのは負け組女子と名監督・松ちゃん?

 テレビがつまらなくなった、とよく言われるが、出演者側の熱量が下がってきたことも理由の一つではないか。不祥事を起こした芸人などはのぞき、どうしてもテレビに出続けたいという欲が見えるタレントは少ない。そう口に出すこと自体が恥ずかしい雰囲気になっている。ちょっとしたことで炎上するし、拘束時間も長いし、テレビはいろいろと面倒くさい。自分の好きなタイミングで好きにやって、自分のファンだけ見てくれるYouTubeの方がよほど効率がいい。そうした考えが主流に見える。テレビの申し子のようなマツコ・デラックスさんや明石家さんまさんでさえ、引退という言葉を口にするようになった。

 今の世の中は、「負けない」処世術であふれている。効率良く稼ぐ方法、下積みなしのステップアップ、無様に傷つく前に逃げるスキル。タレントとして売れる自信はないけど、チヤホヤされたいから女子アナになる。本当は女優になりたいから、お笑い芸人は通過点。そういう生き方はとても要領が良くて賢いのだろう。まともに夢にぶつかって負ける人はバカに見えてしまう。でも「負けない」術が全盛時代だからこそ、思い切り負けたことのある人たちの戦いぶりは貴重な価値になる。そして、胸を打つ。

 負け方がうまい人は、戦い方がうまい人になるに違いない。スラムダンク世代の筆者は、「『負けたことがある』というのがいつか 大きな財産になる」という山王工業・堂本監督の名言を思い出す。最も有名な「あきらめたら そこで試合終了ですよ」という安西監督の言葉とも重なる。「女子メンタル」の負け組女子たちは、あきらめずに戦い続けてきたからこその度胸やたくましさが備わっていた。YouTubeに押され気味のテレビ界を救うのは、彼女たちのような負け組女子たちのエネルギーではないだろうか。

 思えば松ちゃんがバラエティで認めた女性タレントは、ほどなくしてMC番組を持つ。「ごっつええ感じ」でブレイクしたYOUさんしかり、「台本に名前があると安心する」と言わしめた小池栄子さんしかり。最近の注目株だと、まさにファーストサマーウイカさんがいる。本人の実力はもちろんだが、松ちゃんの見る目が確かということだろう。ちなみに「女子メンタル」を制したのは峯岸さんだったが、彼女の好感度が上がったという声も多く聞かれた。松ちゃんは女性タレント再生工場長、いや、女性タレント界の安西監督なのかもしれない。

冨士海ネコ

2020年11月15日 掲載