小幌駅

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―[シリーズ・駅]―

 発着する列車もわずかで通勤・通学で利用する乗客もいない秘境駅。ほとんどの場合、しばらく歩けば民家があったりするものだが、なかには周辺地域に住民が誰もいない駅も存在する。

◆鉄道でしか行けない陸の孤島、JR室蘭本線「小幌駅」

 北海道豊浦町にあるJR室蘭本線の『小幌駅』がまさにそれ。2つのトンネルに挟まれた100メートルに満たない場所にあり、四方を山と海に囲まれ、外界に通じる道路は皆無。当然、車で訪れることもできず、住民はおろか建物も一切ない。つまり、完全な秘境駅なのだ。

 秘境駅に関する多数の著書を持つ牛山隆信氏がまとめた「秘境駅ランキング」でも毎年不動の1位をキープ。鉄道ファンの間では“日本一の秘境駅”として認知されており、この駅目当てにわざわざ足を運ぶ者も少なくない。

 筆者もこれまで何度か訪れたことはあるが、1日に到着するの列車は長万部方面の上り線が4本、東室蘭方面の下り線が2本の合わせてたったの6本(※20年11月現在)。特急や貨物列車は頻繁に通過するが、さすがと言うべきかアクセスも大変だ。

 ちなみに小幌駅でホーム以外に置いてあるのは環境に配慮されたバイオトイレくらい。ほかにJRの保線用施設があるものの、もちろん関係者以外は入ることはできない。

◆「マムシ出没注意」の張り紙が

 しかも、建物には「マムシ出没注意」と書かれた気になる貼り紙が。このときちょうどJRの保線職員がいたので尋ねると、「この(建物の)下にマムシの巣があるんですよ」とのこと。確かに、駅構内や駅前も舗装されている場所すらなく、ヘビの1匹や2匹出てきたとしても何ら不思議ではない。

 一方、熊に関しては駅周辺での出没はないと聞いて安心したが、念のために後で地元自治体の出没情報を調べたところ、少し離れた地域では頻繁に出没が確認されていることがわかった。やはり油断できない場所ではあるようだ。

◆誰もいない海、釣りの穴場スポットでもある

 その小幌駅は穴場の釣りスポットとしても知られており、駅前からの山道を200メートルほど下ると海がある。それでも駅のある場所とは高低差が約50メートルあり、かなりの急坂。実際、滑って尻もちをつく人も多く、筆者も何度か転びそうになってしまった。

 海岸は砂浜ではなくゴツゴツとした岩場だが、プライベートビーチのような雰囲気で夏場に海を眺めながらのんびり過ごすにはいいかもしれない。なお、駅からの山道は途中で二手に分かれており、岩屋観音という観音像が祀られている別の海岸に出ることもできる。

 駅から歩いて約25分とこちらの海岸のほうが遠いが、ここは駅周辺では唯一の史跡で観光名所。江戸時代前期に全国を巡りながら数多くの仏像を残した仏師・歌人としても活躍した僧、円空が彫った像だと伝えられている。当時は鉄道もなく、なぜわざわざこんな辺鄙なところまで来たのかは気になるところだが、小幌駅まで来たならぜひ立ち寄ってほしい場所だ。

◆住んでいたのはホームレスの1人だけ?

 そんな小幌駅の周辺には昔から誰も住んでおらず、乗客の乗り降りこそ可能だったがもともと信号場という扱いだった。正式な駅に昇格したのは、国鉄からJRに分社民営化された1987年のこと。昔は賑わっていたのに廃れてしまったというありがちなストーリーもなければ、秘境駅としての歴史も思っていた以上に浅かったわけだ。

 しかし、正規の住民ではないが勝手に住み着いていた者はいる。かつて上り線ホームから少し離れた場所にあった小屋にホームレス男性が住み着いており、その風貌などから“仙人”と呼ばれていた。

 10数年前に亡くなってしまったが冬場には駅やホームの除雪などを自ら行い、住むことを黙認されていたとも言われている。筆者は会う機会がなかったが、実際に彼との交流を楽しんだ鉄道ファンも多かったようだ。

 小幌駅に駅舎や待合室はなく、極寒の冬場は夏場とは比べ物にならないほど過酷。これからの季節にあえて訪れようという物好きはあまりいないと思うが、もし行くなら寒さ対策だけは十分に行っておいたほうがよさそうだ。<TEXT/高島昌俊>

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【高島昌俊】
フリーライター。鉄道や飛行機をはじめ、旅モノ全般に広く精通。世界一周(3周目)から帰国後も仕事やプライベートで国内外を飛び回っている。