途中出場で試合の流れを変えた遠藤。(C) Getty Images

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 試合の流れを変えるのは難しい。サッカーの試合では、よく言われることだ。

 特に相手の流れになっている時、「ゲームチェンジャ―」として途中出場し、流れを変える役割を期待されるのは前線の選手だが、そういう選手でも思い切って自分の特徴を出さないと変化を生み出すのは容易ではない。

 それが中盤、ボランチでは、さらに仕事が難しくなる。日本代表の国際Aマッチ152試合の最多出場を誇る遠藤保仁は、「試合の流れを自分が入って劇的に変えるのは、いうほど簡単じゃない。前線の選手はともかく、俺のようなボランチの選手は何かひとつ違いをみんなに見せて、徐々に流れを変えていくしかない」と語っていた。遠藤は自らにボールを集め、パスを左右に振り分けていくことでリズムを取り戻していった。

 パナマ戦、その流れを変える仕事をやってのけたのが、遠藤航だった。

 遠藤がピッチに入って、まずプレーで見せたのは球際の厳しさだった。相手に負けない気持ち、戦う気持ちを球際の厳しさで見せ、周囲の選手にそれを伝播させていった。なんとなく守備していた日本の選手だが、ひとつやるべきことが遠藤のメッセージによって明確になり、続けていくと守備が落ち着き、それが攻撃にもいい影響を与えるようになった。

 61分、南野拓実のPKによるゴールは、遠藤が狙っていた縦パスから生まれた。植田直通からボールをもらった瞬間、素早い判断で久保健英に縦パスを出し、その久保からのパスに反応した南野がボックス内で倒され、PKに繋がった。

「前半、上から(スタンド)見ていて前につけられるチャンスがあるなって思っていた。拓実(南野)のところ、2シャドーのところが空いているなと思っていたし、いいポジショニングとタケ(久保)がうまく間に入ってきたのでシンプルにつけた」(遠藤)

 久保が間に入ってくるタイミングとパスを出したタイミングが絶妙だったが、それは遠藤の判断の早さ、良さに尽きるだろう。リオ五輪代表の時、ボランチのポジションに入り、「鬼の縦パス」と言われる強く、精度の高い縦パスを前線にバシバシ配給していた。「それが自分の得意なプレーのひとつ」と語った遠藤は、今もその縦パスを磨き、その武器を披露した。
 
 結果的に、遠藤は攻守を建て直し、チームの勝利に貢献した。アタッカーでも、FWでもない選手がチームの流れを変えられるのは、本当に力のある証拠だ。遠藤のプレーを見ていて改めて思ったのは、本当に無駄がないということだった。円熟味を増したベテラン選手のようにドシリと落ち着いていて、全方位に目があるように的確に動き、シンプルに素早くさばく。守備での当たりの強さ、1対1の強さは、湘南時代に監督だった曹貴裁に右のセンターバックに置かれることで磨かれたが、それがシュツットガルトでさらに磨かれているようだ。

 ブンデスリーガ7試合を終え、1対1でボールを奪い合うデュエル勝利数は、リーグトップの116回をマーク。これは、これまで遠藤が努力を続けてきた成果であり、チームのレギュラーとして信頼され、起用されている理由も分かる。久保が「球際に強く、ボールを奪ってから素早く前に出してくれた。ドイツでコンスタントに試合に出ているので、余裕があるなと思っていました」と遠藤の凄さを語っていたが、パナマ戦でもドイツで主力としてプレーしている自信が溢れていた。

 そんな遠藤を見ていると、ザックジャパンで主軸としてプレーした遠藤保仁を思い出した。遠藤保は、ブラジル・ワールドカップの7か月前ぐらいからスタメンを外れ、途中出場が増えた。出番は攻撃にシフトする際で、自らのパスで状況を打開し、前線の本田圭佑や香川真司、岡崎慎司らと連係しながら攻撃を活性化する役割を担っていた。2013年11月、欧州遠征でのオランダ戦などで見せたその変化の付け方は、さすが遠藤と唸らせるものだった。

 遠藤航は、攻撃面は遠藤保にまだ及ばないが、守備の強さと全体を整えるリーダーシップを持っている。パナマ戦で見せたように途中出場で守備からリズムを生み、縦パスや左右に振るパスで攻撃を立て直す術は、彼にしかできないことだろう。

 次のメキシコ戦は、個々の選手の質が高く、チーム戦術にも長け、相当にやっかいな相手である。そういう相手との試合にスタメンで出場し、自分たちの流れが悪いなか、自らが軸になってどうやってその流れを掴み、あるいは悪い流れを変えていくのか。ボランチながらも途中出場で「ゲームチェンジャー」になれるのはパナマ戦で証明してくれた。

 次はスタメンでより難しいミッションをこなして、自分の良さと違いを見せてほしい。

取材・文●佐藤 俊(スポーツライター)