鉄男役で話題の中村蒼
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 現在放送中の連続テレビ小説「エール」(月〜土、NHK総合・午前8時〜ほか)で、作曲家の村野鉄男を演じている中村蒼。初めての朝ドラ出演を果たし、先ごろクランクアップを迎えたばかりの中村が思いを語った。

 連続テレビ小説102作目となる「エール」は、作曲家の古山裕一(窪田正孝)と音(二階堂ふみ)の夫婦が昭和の時代を音楽とともに生きる姿を描く物語。中村が演じるのは裕一の幼なじみで、歌手の佐藤久志(山崎育三郎)とともに「福島三羽ガラス」と呼ばれる作詞家の村野鉄男。第22週「ふるさとに響く歌」では、作詞家として大成するも暗い過去にとらわれ、家族を主題にした歌だけは書けずにいた鉄男が、裕一とともに母校の校歌を作りあげる姿が描かれている。

初めての朝ドラで“地肩”が強くなった

 先日、およそ1年間の撮影を終えて「無事に終わって心からよかった」と充実の表情を見せる中村。コロナ禍による撮影中断にもさまざまな思いがあったようで「いつ再開できるかわからない状態で、やはり不安になっていきました。僕自身も『エール』を心からおもしろいと思いながら撮影していて、先の台本を読んで一視聴者として楽しみなシーンがたくさんあったので、日の目を見ないかもしれないと思うと不安になってしまって」と振り返る。

 そんな中村にとって今回が初めての朝ドラ。「両親や親戚から楽しみにしていると言われると、出られてよかったなと。実力ある俳優さんのなかで埋もれてしまわないように、自分の影を濃くして存在することがいかに大変かを強く感じました。一瞬一瞬で求められる以上のものを表現しないといけない。今後、新たな作品の撮影現場に行くときは自信を持っていけるんじゃないかと思うくらい、貴重な1年間でした」と確かな手応えを感じたよう。

 中村の俳優デビューは舞台「田園に死す」で主演を務めた15歳のとき。その2年後の『ひゃくはち』(2008)では高校球児役で映画初主演を果たすなど、ドラマや映画、舞台で着実にキャリアを重ねてきた。そんな中村に新たな自信をもたらす朝ドラでの経験。「才能あふれる方々に囲まれ、振り落とされないように必死でした。朝ドラは1年間、自分の役と向き合うので、それを乗り切ったことで、野球でいう“地肩”が強くなったかもしれません」

村野鉄男は「三羽ガラスでは一番真っすぐな男」

 中村が演じた鉄男は、ガキ大将で男らしさもある魅力的な人物。「最初は自分にまったくない要素なので大丈夫かな? と思いました。朝ドラに出られる嬉しさはもちろん、うまくいかなかったときはダメな自分を1年間晒すリスクもありますから(笑)」と後ろ向きになったことを明かす。それでいて鉄男は「裕一や久志と違って飛びぬけた才能があるわけではないので、そのぶん逞しく生きないといけない。作詞家という夢を大切にしつつ新聞記者として働いたり、おでん屋を任されたり、人の懐に入るのが上手。現実的でありながら、三羽ガラスでは一番真っすぐな男だと思います。だからこそ故郷や家族を思う気持ち、普通に生きる人たちが共感する詞を書けたのだと思います」と実感をこめて言う。

 福島三羽ガラスの関係性については「常に二人が先を走っていてくれたおかげで、鉄男は腐らずに頑張れたと思います」と分析。窪田と山崎についても「窪田さんはとても男くさい人で常に周りの芝居を受け止め、引き立てようとされます。育さんの歌はもちろん心に響きますし、久志をより愛されるキャラクターにしている。本当にすごい人たちで、お芝居をするために生まれてきたような人って本当にいるんだと。そんな人が歌も上手かったりすると、勘弁してよ……って」と苦笑いを交えつつも称賛の言葉を惜しまない。

 現在、物語では中村も「個人的に気になっていた」という鉄男の過去について語られている。「家族というのは誰もが馴染みがあり、そのぶん複雑な問題でもあります。複雑な家庭環境だったり、血が繋がっているからこそ憎しみが深かったり。あるいは心が繋がる人を家族と呼ぶ人もいるでしょう。一言で言い表せないのが家族で、鉄男がどんな家庭環境で育って大人になったのかが明らかになるので、ご覧になっていただきたいです」

お芝居について、いま思うこと

 淡々とした口調で、一つひとつの質問にじっくり答える中村。どんな役とも静かに深く向き合い、丁寧に演じる。そして「エール」で俳優としてのさらなる進化を遂げた中村だが、以前は「この仕事が自分に合っていると思えなくて」と謙虚な発言も。それでも俳優業を続けてきたのは「もちろん楽しくないとやっていられません。大好きでこの世界に入ったのではなく、どちらかというと周りの人に薦められて始めたのですが、それでもここまで続いたのは、やっぱり……好きなんでしょうね」と本音を明かす。

 「好きなぶんだけ大変なこともあるし、だからこそ楽しい。強大な壁が周りにたくさんあって、なんとかよじ登っている感じです。いつでも求められるものの斜め上を表現したいという気持ちがどこかにあって、でも作品のルールを逸脱してはいけないし、そのなかでどう表現するかを考えて『ダメだったかも……』と反省する。そんなことの繰り返しです」

 中村にとって喜びを感じるのは、やはり観てくれた人のリアクションだという。「自分では福岡にいたときの学生時代と何も変わっていません。そんな人間なのに『鉄男さんがよかった』と言ってくださる人が一人でもいると、不思議な仕事だなと思うんです。やりがいを感じます」とあくまで謙虚。「お芝居は人間の恥ずかしい部分やダメな部分を引き出して、共感したり優越感に浸っていただいたりする。憧れを持たれるような表現が求められることもある。役者の仕事は想像力が大切で、鉄男が故郷を思うシーンなら、観る人も自分の故郷を思ってしまうような芝居をしないといけない。それが難しいです」

 来年、30歳の節目を迎える中村。年齢については「まだ29歳か、もう29歳かという反応は人それぞれ。自分の意識はあまり変わりません。想像していた30歳と違う! と焦ることもありますが、先のことを考えてもわからない。とにかく目の前のことをやっていくしかないと思っているんです」と真っすぐな眼差しで語った。(文・浅見祥子)