5月29日に外食チェーン向けの支援策を考える議員連盟が自民党内で発足した(記者撮影)

「全店舗分を合わせると家賃は毎月1億6000万円かかる。それなのに家賃支援給付金は6カ月分の600万円しか1企業に対して支給されない」

全国で約100店舗を抱える中堅外食チェーンの社長はこう話す。社長が訴えるのは、1企業ごとではなく1店舗単位での給付金の必要性だ。

「経営の厳しさについては小規模の個人店ばかり語られがちだが、チェーンは個店の集合体。店舗数が増えても原価や人件費といった収益構造が大きく変わるわけではないのに、なぜ給付金は1店舗単位で支給されないのか」

「雀の涙」の家賃支援給付金

このチェーンでは毎月の固定費として、家賃1億6000万円、正社員の人件費1億円、水道光熱費などその他固定費の数千万円が平均的にかかっている。全店が休業し、売り上げがほぼゼロになった場合には約3億5000万円の損失が発生する。

緊急事態宣言が発令された4〜5月、行政からの求めに応じ、同社もほぼ全店が休業した。6月以降も地方自治体レベルで行われた営業時間の短縮などにできる限り協力してきた。しかし、国や地方自治体からの給付金は、その間の損失を補える額ではなかった。

同社は、制度の上限額である600万円(6カ月分)の家賃支援給付金を受け取ることができたが、支払っている家賃と比べると雀の涙ほどの額でしかない。中小事業者向けの持続化給付金は制度上限の200万円、地方自治体からの休業協力金は自治体ごとに数十万円〜100万円程度が支給されたというが、これらの受給は一度きりだ。

各種支援策の中で金額が大きかったのは、休業手当の一部を国が負担する雇用調整助成金だった。1人当たり1日1万5000円を上限に支給されるため、ほぼ全店を臨時休業した4〜5月は、1月当たり約5000万円の支給があった。

家賃支援給付金や持続化給付金は、資本金10億円以上の企業は対象外となる。その理由について、中小企業庁の担当者は「今回の制度についてはコロナで影響を受けやすい中小企業に対象を絞った。(資本金の大きい)大企業であれば、融資などそれなりの手立てを打つことができるだろう」と説明する。

店舗閉鎖に踏み切るチェーン店も

だが、ある大手外食チェーン幹部は、こうため息をつく。

「子会社もみなし大企業の適用を受けるため、グループ全体で雇用調整助成金以外はほとんど受給できていない。目先の運転資金の確保で精一杯な中、来年以降も売り上げが戻らず返済額だけ増えるとなると、中長期にわたって厳しい状況が続くだろう」

重い固定費負担を少しでも軽減するべく、大規模な店舗閉鎖に踏み切るチェーンも増えてきた。居酒屋「甘太郎」などを展開するコロワイドは2021年3月期中に196店、牛丼チェーンの吉野家は2021年2月期中に最大150店を閉鎖する。また、ファミレス大手のジョイフルは2020年7月以降に200店程度の閉鎖を計画している。

とはいえ、店舗を閉鎖すれば問題が解決するわけではない。店を閉める場合は不動産契約上、店舗を借りる前の状態に戻さなければいけないことが多い。一般的な牛丼チェーンの店舗(20〜30坪程度)で1000万円、居酒屋チェーン(50〜70坪)だと3000万円程度の費用がかかるとされる。コロナの影響が特に大きかった居酒屋業態などを中心に、外食チェーンはまさに「閉めるも地獄、閉めざるも地獄」という状況に陥っているのだ。

苦境を予見していた外食業界は早い段階からSOSを発信していた。ファミレス大手・ロイヤルホールディングス(HD)の菊地唯夫会長らは3月に官邸で開かれた新型コロナウイルスの影響に関する集中ヒアリングに出席。外食の需要喚起策や雇用調整助成金の適用対象拡充・増額の必要性を説いた。4月以降も与野党に窮状を訴え続けた。

こうした努力が実を結び、5月末には自民党内に外食チェーンへの支援策を検討する「多店舗展開型飲食店議員連盟」(所属議員数76人、会長・麻生太郎財務相)が発足。外食業界は大きな期待を寄せている。

議連では外食企業の経営者や関係省庁の官僚らをまじえ、これまでに3回の総会と約10回のヒアリングを実施した。議連の事務局長である薗浦健太郎衆議院議員は「経営者らから生の声を聴くことで窮状が伝わってきた。外食チェーンに資する救済施策を政府に提示していく」と語る。

7つの支援策からなる「たたき台」

10月9日には、飲食店支援に関する7つの提言案が示された。店舗ごとの家賃支援や正社員の出向施策など、外食チェーンの要望をくみ取ったものだ。


居酒屋業態を中心に146店舗を運営し、総会にも参加したファイブグループの坂本憲史社長は「店舗ごとの賃料補助が盛り込まれており、たたき台を概ね評価している。これを基に政府に申し入れをしてもらい、一刻も早い支援をお願いしたい」と訴える。議連は提言案をベースに11月中をメドに政府へ申し入れを行う予定だ。

支援の必要性を指摘する声は外食業界以外からもあがる。東京商工リサーチの坂田芳博情報部課長は「売り上げ減が続くとすぐにキャッシュ不足に陥ってしまうのが日銭商売である外食産業だ。このまま何の施策も打たれなかった場合、この冬を境に比較的大きな会社の中から倒産するところが出てきてもおかしくない」と述べる。

約433万人が従事している飲食サービス業。そのうち従業員数が100人以上の企業は、企業数で全体の0.6%にすぎないが、抱えている従業員数では、飲食サービス業全体の48.3%を占める(2016年「経済センサス 活動調査」)。

足元ではロイヤルHDが200人規模の希望退職を募るなどの動きがみられる。厚生労働省によると、新型コロナウイルスの影響で解雇や雇い止めをされた人々は、飲食業だけですでに1万人を超えた。外食チェーンのさらなる経営悪化を許せば、大規模な雇用喪失につながりかねない。

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