航続距離は最大で600kmに達する

 ロンドンタクシーは2019年で70年の歴史を持つ、イギリスの風物詩ともいえる、ニューヨークのイエローキャブに対してブラックキャブと呼ばれるタクシー車両だ。ロンドンを観光などで訪れたことがあるなら、1度はお世話になった移動手段だろう。

 そんなロンドンタクシーも、世界的なクルマの電動化のトレンドは無視できない。日本においてLEVC Japanが発売したロンドンタクシーTXは、人はもちろん、環境にもやさしいレンジエクステンダーの電動車。ロンドンタクシーは以前、LTI(London Taxi International)社で製造されていたが、現在は社名を変更。ボルボやロータスを傘下に収める中国の自動車メーカー、浙江吉利控股集団(ジーリーホールディンググループ)の傘下となったLEVC(London EV Company)で生産されている。

 骨格にアルミ、ボディスキンに樹脂を用いたボディはデカい。全長4855×全幅2036×全高1880mm、ホイールベース2985mmと、日本車で言えばアルファードに近く、より幅広い、低い。とはいえ、全高の高さ=室内高の高さ(実測約1500mm:ガラスルーフ部分/アルファードはカタログ値1400mm)は、山高帽をかぶったイギリス紳士がスマートに無理なく乗れるためというのは、周知のとおりだ。

 車重は2310kgという巨漢である。駆動方式はFR(後輪駆動)、乗客は最大6人乗りで(対面式)、ドライバーを含め7人乗りとなる。助手席を含めないのは、ロンドンタクシーの助手席は荷物専用スペースとなるからだ(リヤにトランクスペースはない)。

 ロンドンタクシーは現在、ボルボと同じグループに属していることから、レンジエクステンダーの1.5リッター、64kw/4000rpmのターボエンジンはボルボ製。スタータースイッチ、ディスプレイなども、見慣れたボルボ製である。

 ロンドンタクシーTXのリチウムイオンバッテリーは31kWh。先代日産リーフの後期、大容量バッテリー搭載モデルと同等だ。モーター最高出力120kWh、モーター最大トルク255Nm、エンジン最高出力91ps、最大トルク16.3kg-m。EV走行距離は公称130km。30リットルのガソリンが入るエンジンと組み合わせたレンジエクステンダーとしての航続距離は最大約600kmと説明される。

巨体でも最小回転半径4mで運転はラクラク!

 ロンドンタクシーTXはサスティナブルな電動車であるとともに、福祉車両としての側面もある。ほぼ直角まで開くリヤドア部分の床下には引き出し式スロープが格納され、簡単な作業で引き出し、格納することができる。ちなみに後席部分のフロア地上高は355mmと極めて低く、リヤドア開口部は幅830mm、高さ1315mmと広大。誰もが乗り降りしやすいだけでなく、車いすやベビーカーなどをスイスイと車内に運び入れることができるのだ(フロアが低いとスロープの角度が小さくなるため)。なお、実測で幅約1350mm、最大奥行1340mmものフロアには、滑り止め加工が施されているようで、雨の日でも滑りにくそうだ。傘を差したままでも乗り込めるリヤドア開口部、室内空間なのである。

 乗客のためのシートは、前向きに3座、後ろ向きに、映画館のような手押しで座面を押し下げるタイプの簡易シート3座の6人分用意されている。ドライバーズシートと後席スペースには、セキュリティーのためのアクリル製のパーテーションがあるのだが(料金受け渡し部分だけ小さく開いていて、トレイがある)、今ではソーシャルディスタンス、感染防止にも役立ちそう。ちなみに助手席の荷物用スペースは幅約550mm、実質奥行約720mm(ダッシュボード上部まで約670mm)である。

 では、めったに着ないスーツを着用して!? ロンドンタクシーの運転席に乗り込むとしよう。おっと、フロアは高いぞ。実測で地上高470mmと、アルファードのステップ地上高390mm、フロア地上高490mmと、フロア自体の高さは同等ながら、ステップがないので、一気に地上470mmの高さまで足を持ち上げなければならない。

 最新のボルボと同じスタータースイッチを回し、ロンドンタクシーTXを目覚めさせる。バッテリー残量が十分にあれば、もちろんEVとして始動する。視界は抜群だ。そもそもアップライトかつ、ロンドンタクシーの運転手が長時間座っていても疲れにくそうな上質なシートの位置が高めで、また、ボンネットが視界に入り、フロントドアのショルダー部分が、ドライビングポジションに対して相対的に低く、左右の視界にも優れているからだ。ボルボでおなじみの縦型ディスプレイは、当たり前だが運転席に向けられ、しかし表記は英語のみとなっている。

 ロンドンタクシーの運転手になった気分でジェントルに走り出せば、加速もまた英国紳士的にジェントル。今は100%モーター駆動だから、スムースで動力源からのノイズは皆無に等しいのだが、ゆったりとした加速感と表現すべきだろう。215/65R17サイズのタイヤを履く乗り心地はさすが、伝統あるロンドンタクシーらしく、マイルドで段差を乗り越えた際のショックも軽微。おおむね、乗り心地はよい。

 ただし、運転手目線で言えば、ACCやオートブレーキホールド機能が付いている点は現代的で嬉しいものの、直進性という面では、ややルーズな印象。速度にかかわらずビシリと直進してくれるクルマではないようだ。とはいえ、これだけの巨体にして、最小回転半径約4mの小回り性によって、曲がりやすく、Uターンしやすく、また路肩や料金所などに幅寄せしやすく、視界の良さもあって、極端に狭い道を除けば、恐れるほどのことはない運転感覚だった。

 ロンドンタクシーTXはシフターの操作で、アウトランダーPHEVのパドルシフトで行うような回生ブレーキのコントロール(強弱)も可能。ドライブモードとして、レンジエクステンダーを使わない「ピュアEV」、デフォルトの効率的な「スマート」、主にレンジエクステンダーで走り、電力走行距離を伸ばす「セーブモード」も備わっている。

対面6座のシートを広大な室内に配置

 では、本来のインプレッション!? である後席に乗ってみよう。運転席と比べ乗降性の良さは大違い。最小限の足の持ち上げ量で、スッと頭を大きくかがめずに乗り込める。自動ドアではありませんが……。

 前向き3座のシートは、フロアから高めにセットされ、いす感覚のかけ心地。3座どこに座っても、タクシーとして快適感あるかけ心地に差はなし。中央席がハズレ席ではないのである。しかも、ガラスのスカイルーフ付きで、まさに乗っているだけで観光気分になれるところもうれしいポイント。東京なら、スカイツリーや東京タワーを見上げながらの移動も可能になるということだ。後席左右にはUSBソケットも完備され、スマートフォンの充電にも対応する。

 6座のシートは、ソーシャルディスタンスにもうってつけだ。2名乗車なら前向きシートの両端に座ればいいし、3名乗車なら前向きシート両端&後ろ向きシートの中央に座れば、対面しない三角形のフォーメーションになるではないか。

 そうそう、広大な室内空間、運転席とのパーテーションによって、運転手と乗員の距離、会話は遠いのだが、そこは歴史ある百戦錬磨のロンドンタクシー、しっかり双方の会話を容易にするマイクとスピーカーを前後席に完備。飛沫を心配せず!? 会話ができる。

 ここでひとつ、ロンドンタクシーTXのドライバーに注文がある。一般的な日本のタクシーと違い、後席乗員は、アシストグリップや前席をつかめないため、カーブなどでは一段とジェントルな運転を心がけていただきたい。とくに後席中央席には、シートベルト以外、まったく体を保持するすべがないからである。

 そんなロンドンタクシーTXは、時代が求める、電欠の心配がない(ガソリンが入っている限り)レンジエクステンダーの電動タクシーであると同時に、ユニバーサルデザイン、そしてソーシャルディスタンスカーとしての側面を持っていると感じた。

 最後に価格だが、1120万円と高価(もちろん補助金あり)。プライベートカーとしてはもちろん、ハイヤー事業者でもなかなか手を出しにくい価格だが(リヤドアが自動ドアではないので日本でタクシーとして使うのは難しい)、ちょっとシャレた送迎車、イベントカー、そして観光用の(イギリスからの観光客は喜ばないかも)多人数乗用車的使い方ならハマると思える。いずれの用途でも、車いす対応というのが見逃せないポイントではないだろうか。なお、充電口はフロントにCHAdeMO対応を含め2種類あり、リチウムイオンバッテリーの寿命は100万kmということだから頼もしい。