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『ドクター・モリスの島 フィッシュマン』
1979年・イタリア・95分
監督/セルジオ・マルチーノ
脚本/セルジオ・ドナッティ、チェザーレ・フルゴーニ、セルジオ・マルチーノ
出演/バーバラ・バック、クラウディオ・カッシネリ、リチャード・ジョンソン、ジョゼフ・コットンほか
英題『THE ISLAND OF THE FISHMEN』

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 1896年にH・G・ウェルズが発表した『モロー博士の島』。マッドサイエンティストが豚や豹に人間並みの知能と二足歩行を与えるという内容が世間に衝撃を与え、『獣人島』(32年)、『ドクター・モローの島』(77年)、『D・N・A ドクター・モローの島』と3度の映画化を果たした。この題材に喰い付いたのが、パチモン大国のイタリア映画界。
 監督以下スタッフは前回紹介した『パニック・アリゲーター 悪魔の棲む沼』とほぼ同じ。メインキャストも3人が続投し、主演はボンドガールのバーバラ・バックで、ビデオとDVDのパッケージも引き続き彼女のスケチクがメインビジュアル。恋のお相手も再びクラウディオ・カッシネリ、敵ボスは洞窟に住む宣教師役だった名優リチャード・ジョンソン。そんなヤッツケ感漂う低予算映画にしては、見応えのあるSF映画に仕上がっていた。


 時代設定はウェルズが小説を発表する5年前の1891年。囚人を護送中のフランス船がカリブ海で沈没し、軍医のクロードほか十数名の囚人が救命ボートで脱出する。火山島に5人が漂着するが、正体不明の怪物の襲撃や落とし穴で2名が死亡。生き残ったクロード、ホセ、ピーターの3人は森の奥でブードゥー民族の墓地を発見するが、墓は荒らされ遺体が全て消えている。ブードゥーゆえ遺体はゾンビになったと恐れる3人の前に、島の所有者ラッカム(リチャード・ジョンソン)と美女(バーバラ・バック)が現れる。クロードが医者と知ったラッカムは寝床と食事を用意するが、何か魂胆がありそうだ。

 翌朝、浜辺にいるアマンダの前に海中から半魚人が続々と姿を現す。背中には大きな背ビレ、体毛が垂れた茶褐色のヌメッとした皮膚に、水掻きのある手足。囚人を殺した怪物の正体だ。10匹ほどいる半魚人は、アマンダから与えられるお茶みたいな液体をゴクゴク飲み干していく。餌付けか? その日ピーターはアマンダをレイプしようとして半魚人に殺され、彼が行方不明となった事で怖くなったホセは馬を奪って逃亡してしまう。

 屋敷内には、余命1ヶ月の風土病に冒された生物学者マービン教授がいた。アマンダの父親だった。ラッカムは医者のクロードに教授の延命治療をさせようとしたのだ。演じるジョゼフ・コットンは『市民ケーン』(41年)などの名作に出演、日米合作の東宝特撮映画『緯度0大作戦』(69年)では主役を演じたハリウッド・スターだ。

 ラッカムはクロードに驚くべき島の秘密を明かす。島は沈んだアトランティス大陸の一部で、15年前に島を訪れたラッカムは海底に沈む遺跡と半魚人を発見。ラッカムに招致された教授は幼い娘を連れて島に来て、中毒性のある麻薬みたいな薬(アマンダが与えていた液体)を開発して半魚人を飼い慣らし、遺跡に眠る財宝を回収させていたのだ。半魚人は教授の仮説によると、大陸が沈んでいく間に水中適応し両生類に進化したアトランティス人の末裔だという。だがラッカムは財宝の一部を教授に譲与する約束をしながらも、実は全部一人占めして娘まで頂こうと企んでいた。

 しかし教授の著書を読んでいたクロードに恐ろしい事件の記憶が蘇る。かつて教授は獣の臓器を人間に移植して何人も死なせ、有罪判決を受けて医師免許を剥奪されていたのだ。クロードは事実を知らされていないアマンダを教授の秘密実験室に連れていく。水槽には「コー、ホー」と胸にある魚類のエラで呼吸をしている変わり果てたホセが横たわっていた。逃亡中ラッカムに捕まり、半魚人改造の実験台にされていたのだ。それを見て衝撃を受けたクロードは、ホセを不憫に思いメスで刺し殺してしまう。半魚人がアトランティス人の末裔というのは真っ赤な嘘で、墓場から掘り起こした島民の遺体に魚の機能を移植した改造人間だったのだ。

 ここで火山活動が激しくなり、財宝とアマンダを土産に島を脱出するつもりのラッカムは、教授もメイドたちも、薬が切れて言う事を聞かなくなった半魚人も虫けらのように殺していく。だがクロード怒りの鉄拳で海中へ叩き落とされたラッカムは、半魚人の生き残りに嬲り殺される。クロードとアマンダも海に落ち、半魚人に捕まり万事休す! 島はアトランティスの遺跡や財宝、教授の研究と共に海中へ沈んでいく。2人が気付くと大板の上で海面を漂っていた。アマンダへの思慕が残っていた半魚人らが、安全な所まで運んでくれていたのだ(泣ける)。そこへ運よく通りかかる帆船で完。

 あれ? 待てよ。ドクター・モリスって出てきたっけ? ウィキペディアによるとラッカムの別名となっているが、そんな事を語るシーンはなかった。「ドクター・モローか......ならドクター・モリスってのはどう?」なんて邦題を付けた日本のビデオメーカー社員をつい疑ってしまうのは悪い習性だろうか......。
さて次回は中断していた「ワニ映画特集」に戻ります。誰にも語られない超珍作を用意しているのでお楽しみに!

(文/天野ミチヒロ)

おまけ:『ドクター・モリスの島 フィッシュマン』VHSジャケット(筆者私物※VHS廃番)