撮影/唐松奈津子

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駅から遠く不便、街の印象が薄い、などのイメージを持たれがちだった竹芝。浜松町駅周辺の開発とあわせて、「WATERS takeshiba(ウォーターズ竹芝)」として生まれ変わっています。この開発を通して浜松町〜竹芝エリアはどのように変わっていくのか。また“住む場所””暮らす場所“としてはどうなのか?
ウォーターズ竹芝の開発を手がけたJR東日本の大野一聡さんに、まちづくりの狙いとこれからの水辺活用についてお話を聞きました。

ショッピングにホテル、エンターテインメントまでがそろう「ウォーターズ竹芝」

ウォーターズ竹芝がオープンし、素敵な場所になったと聞いて現地に向かった筆者。訪れたのが土曜日のお昼ごろだったこともあり、水辺に抜けるウォーターズ竹芝のテラスには小さな子どもを連れた家族の憩いの姿が。なんとも絵になる風景です。

「ウォーターズ竹芝では、水辺のワークライフスタイルと文化・芸術を提案できるまちづくりを目指しています。商業施設やホテル、劇場、オフィスのほかに船着場や干潟があるので、近隣にお住まいの方がよくお子さまを連れてお越しくださっていますね。コロナ収束後には、東京観光にいらっしゃる国内外のお客さまにもぜひ訪れていただきたいです」(大野さん、以下同)

ウォーターズ竹芝のテラス。空に抜ける芝生と水辺が開放的で気持ちがいい(画像提供/JR東日本)

船着場からの船に乗れば、美しい東京の水辺観光を楽しめる

ウォーターズ竹芝の空撮写真。水辺と緑の豊かなロケーションであることがよく分かる(画像提供/JR東日本)

ひと足、施設の中に入ると、外の開放感とはまた異なるラグジュアリーな雰囲気も感じられます。入っているお店も、都会的な海を目の前に、高級感漂うスタイリッシュな空間で音楽を楽しみながら飲食できる「BANK30」、レンタルスペースやキッチンにカラオケ設備を備える「SHAKOBA」など、大人が夜を楽しむためのコンテンツがそろっています。

施設のひとつ「アトレ竹芝」タワー棟のレストスペース。ゴージャスでラグジュアリーな大人の雰囲気(画像/アトレ竹芝)

浜離宮恩賜庭園や東京スカイツリーなど東京の眺望が楽しめる「メズム東京」のロビー(画像提供/メズム東京)

レストラン「シェフズ・シアター」では、東京に集まる食材をつかった本格的なフレンチを「ビストロノミー」スタイルで楽しめます。オープンキッチンでライブ感も満点(画像提供/メズム東京)

40平米からある客室には、全室デジタルピアノや猿田彦珈琲のドリップコーヒーなど、五感を魅了する体験が用意されています。浜離宮恩賜庭園に面している客室は全室バルコニー付き(画像提供/メズム東京)

劇団四季の上演が行われる「JR東日本四季劇場[秋]」(撮影/下坂敦俊)

アトレ竹芝の中にある劇場型コミュニティスペース「SHAKOBA(シャコウバ)」。レンタルスペース、キッチン、カラオケ設備などを備える(画像提供/JR東日本)

気軽に友人や家族と観劇やショッピングを楽しみながら、また記念日など、シーンに合わせて活用できそうです。

「『感性に遊び場を。』をコンセプトに、成熟した大人の方に楽しんでいただけるよう、多彩なお店がそろっています。新しい体験や学び、出会いを求める多くの方に満足してもらえる豊かな場所になればと思っています」

こんなに駅から近かった!? 水辺のアクセスに驚き

このウォーターズ竹芝、施設も本当に素敵なのですが、今回訪れて思ったのは「海までこんなに近かったっけ?」ということです。JR浜松町駅より徒歩6分の山手線内で一番東京の水辺に近い場所ですが、歩いていくとより近くに感じられることでしょう。さらに陸のアクセスだけでなく、海からもアクセスできるのがすごいところです。

海側をパノラマ画像で撮影。右奥が竹芝ふ頭、手前の高架はゆりかもめ。左奥の水色に反射する窓の建物がウォーターズ竹芝の施設のひとつ「メズム東京」が入るタワー棟(撮影/唐松奈津子)

「ウォーターズ竹芝前の竹芝地区船着場からは浅草・両国・お台場・豊洲・葛西などとを結ぶ定期航路船を運行しています。加えて7月からは羽田空港と竹芝を結ぶ羽田空港アクセス船の実証実験を始めています。11月からはナイトクルーズ船の運航も開始予定です。東京の水辺観光と日常の交通を支える場所になればと考えています」

浅草からの船! 筆者も乗りもの好きの息子とパパと一緒に、以前、日の出桟橋までホタルナに乗ったことがあります。「銀河鉄道999」の松本零士氏のデザイン、本当に格好いいんですよね。それがウォーターズ竹芝の船着場にも停泊している姿に興奮しました!

ウォーターズ竹芝の船着場に停泊するホタルナを発見!(撮影/唐松奈津子)

全国的に広がる「ミズベリング」の活動

そして今、観光や水運だけではなく、空間設計においても「水辺」が見直されつつあります。今回のウォーターズ竹芝のように近年、水辺を活用した心地のいい場所が増えてきたように感じるのは筆者だけではないでしょう。これには国土交通省が推進する「ミズベリング」の取り組みが全国の水辺活用を後押ししているようです。

「河川利用の規制緩和と合わせて、昔からのにぎわいを失ってしまった日本の水辺の新しい活用の可能性を創造していくプロジェクトが『ミズベリング』です。各地で『ミズベリング◯◯(地名)』として、水辺活性化に向けた活動が始まっています。

ミズベリング竹芝は、このミズベリングの枠組みを活かしてJR東日本が2017年3月に立ち上げました。竹芝エリアの水辺活性化に向けて、水辺総研、東京海洋大学、ココペリプラスなど、さまざまな団体と連携をして社会実験を進めています。

例えば干潟では、ハゼなど東京都の絶滅危惧種をはじめとする水生物調査やフィールドワーク、豊かな東京湾再生に向けた活動を行っているんですよ」

シアター棟の奥の階段を降りたところには干潟が。江戸前の海であった東京湾の再生に向けた環境づくりが行われている(画像提供/JR東日本)

干潟のイメージ。クロダイ、スズキ、ハゼ、エビ、カニなどのほか、東京都の絶滅危惧種に指定されているミミズハゼなど多様な生物が存在する(画像提供/JR東日本)

浜松町〜竹芝エリア全体が変わりつつある!

オフィスや商業施設だけではなく、芸術・文化、交通、そして教育まで! 大野さんによると、そもそもこの浜松町〜竹芝エリアは東京を代表する歴史とさまざまな可能性を持つエリアだったと言います。

「もともと増上寺や浜離宮など、江戸時代から続く歴史資産を有するエリアです。さらに1964年の東京オリンピックへ向けてモノレールや東京タワー、世界貿易センタービルなど、東京を代表する多くの施設が整備され、浜松町はまさに日本最先端の場所だったと言っても過言ではありません」

ウォーターズ竹芝のビジュアル・マップ。このエリアの見どころの多さがよく分かる(画像提供/JR東日本)

そして今また、このエリアは大きな開発計画の最中にあります。今回、浜松町駅を降りて、まず目の当たりにしたのも、駅周辺の至るところで大規模な工事が行われている様子でした。

工事が行われている浜松町駅の南側、浜松町二丁目付近の様子(撮影/唐松奈津子)

筆者が訪れたのは9月上旬。ペデストリアンデッキはまだ完成しておらず、工事中の様子を仰ぎ見ながら歩きました。9月14日に開業した東京ポートシティ竹芝などの新しい建物はもちろん、きれいに舗装された歩道に「あれ、浜松町とか竹芝ってこんなにきれいな街だったっけ?」と印象を新たにしました。

浜松町駅から竹芝ふ頭へは建設中のペデストリアンデッキが伸びる。駅の向こうには東京タワーが!(撮影/唐松奈津子)

東京ポートシティ竹芝脇の歩道を歩くと、船の舵輪をモチーフにした時計に出会う(撮影/唐松奈津子)

“住む場所”“暮らす場所”としての可能性は?

それでは“住む場所”“暮らす場所”としてのポテンシャルはどうでしょうか。“働く場所”としてのオフィス街、また海辺は“遊びに行く場所”というイメージが強く、マンションなどの住宅はあまり見たことがないように思います。けれども、考えてみれば通勤が必要なオフィスワーカーにとってアクセス利便性はもちろん、ウォーターズ竹芝の風景は、筆者のように子どもがいるファミリーにとても魅力的に映ります。

「近隣で開業した東京ポートシティ竹芝以外にも、現在の周辺エリアでの開発が進んでおります。浜松町、竹芝、近隣の芝浦地区も含めて、今後10年で住む場所、暮らす場所としての機能も充実していくでしょう。私たちも水辺や文化、芸術を核にしたまちづくりを進め、訪れる人にも住む人にも居心地のいい場所となることを目指しています」

たしかに隣駅の田町駅周辺もここ数年で開発が進み、商業施設やマンションがかなり増えてきました。住むにも便利で、気持ちのいい水辺がある場所として、大きな可能性を秘めていますね。

アトレの2階から芝浦方面を望む。これからも開発が進み、水辺エリア全体がより住みやすく暮らしやすいエリアとなるだろう(撮影/唐松奈津子)

ウォーターズ竹芝では、10月24日に劇団四季の『オペラ座の怪人』の公演が始まり、まちびらきが行われました。「これからも浜松町〜竹芝エリアにはしばらく目が離せないな」――そんな予感と期待を膨らませながら、筆者も母として「今度は生きもの・乗りものが大好きな6歳の息子を連れて来よう」と思いながら竹芝を後にしました。

●取材協力
ウォーターズ竹芝
(唐松 奈津子(スパルタデザイン))