英ロンドン塔の護衛兵ヨーマン・ウォーダーで、カラスの飼育係「レイヴンマスター」を務めるクリス・スカイフさん(2020年10月12日撮影)。(c)TOLGA AKMEN / AFP

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【AFP=時事】クリス・スカイフ(Chris Skaife)氏は、英国で最も重要な職業の一つに就いている。ロンドン塔の護衛兵ヨーマン・ウォーダー(Yeoman Warder)の一人で、カラスの飼育係「レイヴンマスター(Ravenmaster)」だ。

 もしすべてのカラスがロンドン塔からいなくなると、この王国は崩壊して大混乱に陥る──英国民の間で広く知られている伝承ではそう言われている。カラスは同国で最も有名な鳥なのだ。

 新型コロナウイルスのロックダウン(都市封鎖)により、国内各地の観光名所は一時的に閉鎖を余儀なくされた。テムズ川(Thames River)の川岸にある1000年の歴史を誇るロンドン塔も例外ではなかった

 そしてスカイフ氏は、カラスたちを退屈させない方法を考えるという前代未聞の課題を突き付けられた。ロックダウンで、カラスの遊び相手──もしくは食べ物を横取りする相手──が突然、いなくなってしまったためだ。

 また、塔の守護者のカラスがおいしい食べ物を求めてどこかに飛び去り、伝説が現実のものとなったら大変だ。

■勅令

 ロンドン塔では8羽のカラスを飼育している。メリーナ、ポピー、エリン、ジュビリー、ロッキー、ハリス、グリップ、そしてジョージだ。17世紀に出されたという勅令では、常に6羽のカラスがいなければならないとされた。だがスカイフ氏は「万が一」を考え、2羽を「予備」として飼っていると話す。

 カラスは敷地内を自由に動き回ることはできるが、遠くに飛び去ってしまうのを防ぐために、クリッピング(鳥の羽切り)が施されている。

 3月のロックダウン開始時、スカイフ氏は一時解雇された。それでも同氏は王室から預かるカラスの世話を続け、アシスタント3人と交代で餌やりなどをした。

 ロックダウンでロンドン塔を訪れる人がいなくなった。カラスたちにとってもやることが少なくなってしまい、「彼らが退屈しないようにする必要があった」とスカイフ氏は話す。そして、好奇心をくすぐることで楽しんでもらえると考え「カラスたちのためにおもちゃを用意した」と説明した。

 飼育施設の中には風船やはしご、鏡が持ち込まれた他、敷地内の各所に餌を隠し置いてカラスが探し回るようにするなど、さまざまな工夫が講じられた。

■「伝説が本当になってほしくはないですから」

 朝食はスカイフ氏の出番だ。護衛兵の赤と黒の特徴的なユニホームを着て、ひな鳥やネズミなどを与えると、カラスたちがこれをおいしそうに食べる。

 スカイフ氏のお気に入りはメリーナだ。メリーナは、投稿や動画にたびたび登場し、インスタグラム(Instagram)やツイッター(Twitter)では、おなじみの一羽となっている。同氏のアカウントのフォロワー数は12万人を超える。

 餌の時間が終わると、スカイフ氏は南庭に置かれた飼育施設のドアを開放し、外に出たカラスたちが翼を大きく伸ばした。

 ロンドン塔は7月10日に閉鎖を解除したが、訪問者の数はパンデミック(世界的な大流行)により大幅に減った。塔を管理運営するヒストリック・ロイヤル・パレス(Historic Royal Palaces)によると、一週間当たりの訪問者数は昨年10月は約6万人に上っていたが、現在はわずか6000人にとどまっているという。

 現在カラスは、以前よりも長い時間、おりに入れられている。訪問者の数が減り、カラスがあさることのできるごみ箱の入りが悪いため、十分に餌を食べさせる方策が必要だからだ。

「本当は、こんなふうにはしたくないんですが」と、スカイフさんは語った。

 世間の生活は元に戻った。少なくとも外見上はそう見える。カラスたちも人の姿を見る機会が増え、以前のような過ごし方に、また慣れつつある。

 スカイフ氏はカラスの世話を14年間続けてきた。カラスへの愛情があるのはもちろんだ。だが、そこには歴史的、愛国的な義務感もあり、「伝説が本当になってほしくはないですからね」と話した。

【翻訳編集】AFPBB News

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