副業解禁の動きが加速する現在、ユニリーバ・ジャパンやライオン、ヤフーなどの大企業では、新たに副業人材の採用を進める動きが広がっています。

「これからは複業(副業)前提社会になる」と語るのは、株式会社HARES(ヘアーズ)のCEOであり、複業研究家/HRマーケターの西村創一朗さん。

西村さんは本業を補うサブとしての「副業」ではなく、転職でも起業でもない“第3の道”としての「複業」を提唱し、パラレルアントレプレナー(複業起業家)として活動しています。

働く人にとってのメリットや今後の展開について見解を聞きました。

目次

コロナ禍が後押しした「複業」へのチャレンジ社外人材の活用が企業の課題に複業人材を求める大企業の狙いは?コロナが生んだ複業人材の空白地帯今の状況は「開国前夜の江戸幕府」複業はリスクを冒さずに人生を取り戻す方法複業スタートの目安は「週10時間」「行列」ができたら値上げのタイミング必須スキルは「リモートトラスト」これからは「複業前提社会」になる

コロナ禍が後押しした「複業」へのチャレンジ

──2020年に入り、大企業による副業人材の公募という新たな動きが出てきています。この流れをどう見ていらっしゃいますか?

Photo: takumi YANO

副業を取り巻く大きな変化は、この5年間で3回ありました。

ロート製薬が副業解禁を発表した2016年のロートショック。2018年の政府による原則副業禁止から原則副業容認に変えた「モデル就業規則」の改革。そして2020年のコロナショックです。

2年ごとに起きたこの3つのインパクトが、今の副業への関心の高まりを後押ししています。

そして2020年、コロナの影響で、企業にとっても働く個人にとっても大きく変わったことがありました。働く場所と時間の概念です。

まず個人についていうと、緊急事態宣言以降、在宅勤務が増えたことから、可処分時間が劇的に増えました。

外出や旅行ができないなど、時間の使い方が制限されたこともあり、以前から興味があった複業の実践に踏み込む人が増えたのでしょう。

複業系のサービス(アナザーワークス、ココナラ、ストアカなど)の新規登録者数は、3〜5月で右肩上がりに伸びています。

いっぽう企業も、以前は複業人材を採用するにしろ、リモートワーク前提ではありませんでした。それがコロナによってZoomやSlackなどのツールの活用が進んだことで、社外人材の活用がしやすくなったのです。

社外人材の活用が企業の課題に

コロナ禍によって、こうした働く環境の変化に加え、多くの企業は厳しい変革を迫られました。

例えば、店舗販売ができないから通販を強化したい。しかし社内にマーケティングやECサイトに詳しい人材がおらず、新規採用する余裕もない。

そこで目をつけたのが複業人材。優秀な社外の人材を獲得する手段になるという認識の広がりが、現在の大企業による複業人材の公募につながっていると思います。

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複業人材を求める大企業の狙いは?

──2020年の7月以降、ヤフーやユニリーバ・ジャパンは下記のようなスタイルで複業人材を採用しています。こうした大手企業の狙いはどこにあるのでしょうか。

Image: Shutterstock

ヤフー

2020年7月から「ギグパートナー」として募集開始。契約形態は業務委託、出社を伴わないオンラインでの業務を原則とする。職種は新規メディアサービス企画、新規コマース事業戦略、グループシナジー戦略、テクノロジースペシャリストなど。

契約期間は10月から2〜3か月で、月5時間ほどのオンライン会議などに参加する。報酬は5万円ほどを想定。約110人の採用枠に4千人超の応募があった。

ユニリーバ・ジャパン

2020年7月から募集開始。新商品開発や新たな人事制度の導入など、プロジェクトごとに採用する。契約期間は3か月〜1年とし、年内に10〜30人の採用を見込む。勤務時時間は週2〜10時間、報酬は10万〜20万円を想定。

これは実際の公募時にヤフーが明言していたことですが「副業でいいから試しにうちにきてほしい」と。そもそも転職は、働く側にとっては移住並みにリスクが大きく、コストもかかります。

しかし月5時間の副業なら、さほど負担なく仕事を通して社風を知ってもらえる。徐々にコミットメントしていくうちに、転職したいという人も出てくるでしょう。つまり採用戦略の一環ということです。

もうひとつは、外部のスキルや知識の獲得です。社内にいない人材を社外から調達する、外部人材活用の手段になっています。

コロナが生んだ複業人材の空白地帯

──外部人材活用としては、これまでは業務委託として行う場合が多かったと思うのですが、複業人材として募集することによるイメージ戦略もありそうですね。

Photo: takumi YANO

それはあると思います。ヤフーやユニリーバ・ジャパンのように「副業人材を何百人募集します」と打ち出せば、大きなニュースバリューが生まれる。広報・PR面のメリットはもちろんあるでしょう。

ただ、そうではない理由も2つあります。

ひとつはコスト。プロフェッショナルを正社員として採用するよりも、複業人材として採用する方が、多くの場合低コストです。というのも、そういった人材は金銭報酬よりも、感情報酬や経験報酬に比重を置く場合が多いからです。

ヤフーであれば、最大5時間程度/月の稼働で5万円の報酬です。この報酬は、フリーランスで稼ぐプロフェッショナルからすれば安い金額でしょう。

しかし複業人材なら、腕試しや社外ネットワークの構築、キャリアアップの手段として金額以上の価値を見出してくれます。通常のアウトソーシングよりも、安く優秀な人を雇える可能性があるということです。

もうひとつは、今まで空白地帯だったところにピタリとハマった、ということがあります。これまでは副業自体が禁止されていて、みんなやりたくてもできなかった。でも今は、主要企業の半数が副業を解禁していて、やりたい人も爆増している。

その一方で、複業人材を募集する企業は限られていました。ヤフーもユニリーバ・ジャパンもマーケティングに強い会社なので、その需給のアンバランスを見逃さなかったのでしょう。

それが2020年だったということは、やはりコロナの影響が大きい。リモートワークが進んだことで、企業がプロジェクトやチームに副業人材を巻き込みやすくなりました。

おそらくコロナがなかったら、ヤフーもユニリーバ・ジャパンも副業人材の公募には踏み切らなかったのではないかと思います。

今の状況は「開国前夜の江戸幕府」

──大手企業が副業人材に期待を寄せる一方で、副業解禁を警戒する企業もあります。企業側にはどんなデメリットがあるのでしょうか。

Image: Getty Images

企業が副業を禁止する理由としては、主に次の3つが考えられます。

副業禁止の3大理由

労働時間問題情報漏洩・利益相反人材流出リスク

しかし私自身は、「副業解禁のデメリットはほとんどない」と考えています。今の状況は、歴史に例えるなら「開国前夜の江戸幕府」。リスクを重く見過ぎているのです。

労働時間に関しては、副業の上限を設定して誓約書にサインさせる、本業・健康に支障をきたした場合には副業の停止を命じられるようにする、といったガイドラインを作ることで、ある程度は解決できるでしょう。

情報漏洩に関しては、競業避止義務・機密情報の守秘義務をガイドラインに明示する必要がありますが、そもそも副業禁止をしていても情報漏洩は多発しています。

副業する、しないにかかわらず機密情報の漏洩は労働契約法3条4項に反するため、懲戒解雇や損害賠償に対象になりうることをしっかりと伝えることが重要です。

そして人材流出リスクですが、副業によって、むしろ本業へのモチベーションや忠誠心が高まり、離職率の低下につながるというデータがあります。副業OKな企業は働く側にとって魅力的なので、新卒・中途問わず採用で有利にもなるでしょう。

企業にとって「副業禁止」はもはや無意味。管理の及ばない「伏業」となり、リスクになります。「一定のルール内でのみ認める」とするのが最も低リスクです。

複業はリスクを冒さずに人生を取り戻す方法

──これから複業を始めたい人に向けて、複業のメリットを教えてください。

Photo: takumi YANO

複業とは、転職・起業のリスクを冒さずに、自分の人生を取り戻す方法です。

会社を辞めるモチベーションとして「新しいことをやりたい」という人は多い。しかし、いざ転職、独立となると成功できる確証はなく、足踏みしてしまうのも当たり前です。

その点、複業なら、今の仕事を捨てることなく、しかしそれだけにしがみつくことなく、本業では得られない知識や経験やスキル、ネットワークが得られます。それを本業に生かしてオープンイノベーションを起こす人も多いです。

僕自身、以前はリクルートキャリアの社員でしたが、当時の上司が複業で出会ったベンチャー起業の社長と意気投合し、リクルートキャリアと共同で新規事業を立ち上げたことがありました。

複業スタートの目安は「週10時間」

――複業を始めるにあたって、どんなことに注意すれば失敗を防ぐことができますか?

複業の大前提は「本業に支障をきたさない」こと。複業に力を入れすぎて、業務がおろそかになってはいけません。就業時間や健康についても、自身でコントロールできる範囲が望ましいです。

また、情報漏洩や利益相反などリスクとなるような競合他社での複業は、企業側からするともってのほかです。

事前に自分で決めておくべきなのは、複業に費やす時間と量です。私の感覚としては、平日1日1時間、土日あわせて5時間で週10時間が目安。20時間だとギリギリ、30時間だとやりすぎという感じです。

「行列」ができたら値上げのタイミング

――自分の仕事に対する値段は、どのようにつけたらよいのでしょうか。

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これは非常に難しい問題で、正解はありません。ただ、私は複業には3つの段階があり、値付けも変わってくると考えています。

1.アマチュア

信用をためる「貯信」の段階。「複業準備中なので期間限定で無償でもやります!」といった発信を自分からしていくのもいいでしょう。ただし「期間限定」としておくのを忘れずに。

2.セミプロ

お金をいただくけれど、相手の言い値からスタートすべき段階。値付けに迷うようならストレートに「この仕事、いくらだったら買う?」と聞いてみるのも手。

3.プロフェッショナル

自分が供給できる仕事量よりも需要が上回ってきたら、「行列ができる店(=プロフェッショナル)」になったということ。ここが値上げのタイミング! これまで受けていた言い値の金額の平均の倍で提示し、高いといわれたら1.5倍を提案するなど、交渉に挑戦してみましょう。

必須スキルは「リモートトラスト」

――複業に従事する際、多くの人はリモートワークになりそうです。こうした状況で注意すべきことはありますか?

西村さんのデスク周りの環境
Photo: 西村創一朗

これは複業に限ったことではありませんが、今は「リモートトラスト」がとても重要です。

リモートトラストとは、対面で会うことなく、「リモート」のコミュニケーションのみでビジネス上の信頼関係を構築し、大きな意思決定や仕事の受発注が可能になるスキルです。

まずは次の3点に気をつけて、「リモート身だしなみ」を整えましょう。

1.音声や映像が止まらないネットワーク環境を

「fast.com」などでインターネット回線の速度をチェック。10Mbpsを下回ったら黄色信号です。

2.好印象を与えるカメラワーク

カメラの画質よりも角度と明るさが大事。ノートパソコンであれば台にのせ、目線がカメラ位置(パソコン上部)よりもやや高い位置にあって、視線が少しだけ下を向くくらいがベスト。

3.クリアに声が伝わるマイクワーク

PCやWebカメラ内臓のマイクはノイズが入りがち。イヤフォンマイクやコンデンサーマイクがおすすめ。

これからは「複業前提社会」になる

――今後、複業への感心はますます高まっていきそうですが、企業・働き手双方にどういった展開が予測されますか?

私が2年ほど前から提唱しているのは、これからは「複業前提社会」になる、ということです。

今までは副業禁止、1社にフルコミットして100%本業に集中するという考え方が主でした。「一社一生」が美徳とされてきたわけです。

しかしバブル崩壊以降続く「失われた30年」により、多くの日本企業は体力を失い、「終身雇用」や「年功賃金」は幻想になりつつあります。従業員の生活を守りきることが約束できない時代になったからこそ、政府も企業も副業を容認する流れが出てきているのです。

リモートワークが普及したこれからは、複業できる個人も増え、複業採用そのものも増えて、どちらも当たり前になっていくでしょう。その流れはもっとゆるやかかと思っていましたが、コロナの影響で急速にシフトしています。

これからの時代に必要なのは「ポートフォリオワーク」です。昔は給料が出るとそのまま銀行に預ける人が多数派でしたが、ここ30年ほどで給料の何割かを投資に回し、ポートフォリオを形成する人が増えています。

これと同じ動きが、仕事でも起こるでしょう。80%は本業で20%は複業をやるとか、週5日ではなくて週4日〜3日正社員として働くとか。自分の働く時間を分散投資する、ポートフォリオを組んで働くワークスタイルが、日本でも当たり前になっていくのではないでしょうか。

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複業研究家/HRマーケター。『複業の教科書』の著者。1988年神奈川県生まれ。大学卒業後、2011年に新卒でリクルートキャリアに入社後、法人営業・新規事業開発・人事採用を歴任。本業の傍ら2015年に株式会社HARESを創業し、仕事、子育て、社外活動などパラレルキャリアの実践者として活動を続けた後、2017年1月に独立。独立後は複業研究家として、働き方改革の専門家として個人・企業向けにコンサルティングを行う。講演・セミナー実績多数。LinkedIn認定インフルエンサー。2017年9月〜2018年3月「我が国産業における人材力強化に向けた研究会」(経済産業省)委員を務めた。プライベートでは12歳長男、8歳次男、4歳長女の3児の父、NPO法人ファザーリングジャパンにて最年少理事を務める。

Reference: 日本経済新聞

Photo: takumi YANO, Shutterstock