服を着たまま、うつぶせの状態で受けられるのがドゥイブス・サーチの特徴。これなら、もちろん痛くない ※画像はイメージです

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 女性の9人に1人が生涯のうちにかかるといわれている乳がん。有名人でも、北斗晶や、だいたひかるらタレントをはじめ、作家の室井佑月、亡くなった岡江久美子さんや小林麻央さんなど、闘病を告白する人があとを絶たない。乳がんは30代後半から増加し始め、40代にピークを迎える傾向にあり、年間9万人が新たに診断を受けている。

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乳がん検査につきまとう“負のイメージ”

 乳がんの5年生存率は90%以上。早期発見できれば治る可能性が高いにもかかわらず、検診受診率は芳(かんば)しくない。欧米の70〜80%に対し、日本では45%と半数にも満たない状況だ。

 その理由を医療ジャーナリストの村上和巳さんは、こう指摘する。

「内閣府が調査したデータによると、“忙しいから”や“自分は健康だから”といった理由が多く挙げられています。乳がんを、まだどこか他人事だと思っている人が多いのだと思います」

 また、昔ながらのイメージも影響しているという。

「病院と聞くと、男性医師を思い浮かべる人も少なくない。検査技師も今でこそ女性が増えてはいますが、昔は圧倒的に男性が多かったため、乳房をさらすことに恥ずかしさや抵抗があるというのもひとつの原因なのかもしれません」(村上さん)

 さらに女性たちの抵抗を強めているのが、検査に伴う痛み。乳がん検診を受けたことのある女性を対象にした各種アンケートからは、“痛くて怖い”“恥ずかしいし痛い”などの声が聞かれ、検査自体に苦手意識を持つ人も。

 乳がんの検査方法には超音波検査(エコー検査)のほか、乳房専用のX線装置を使って撮影するマンモグラフィー検査がある。しかし、マンモグラフィーは乳房を機械に挟んで圧迫するため、個人差はあれど痛みを伴う。

「まったく痛くないという人はいないと思いますが、痛みの程度は胸の大きさも関係しているように思います」(村上さん)

 ボリュームのないバストの場合、挟むためには引っ張るしかない。物理的に考えても致し方ないのである。

 そんな中、注目されているのが「痛くない乳がん検査」。そのうちのひとつに『無痛MRI乳がん検診』(ドゥイブス・サーチ)と呼ばれる検査方法がある。

 これを開発した、東海大学医用生体工学科教授で放射線科医の高原太郎さんは、ドゥイブス・サーチの特徴を次のように話す。

「うつぶせに寝転がりMRIを撮影するだけとあって簡単です。痛みや恥ずかしさを理由に検査を避けてきた人たちも、安心して受けることができます」

 マンモグラフィーのように乳房をつぶす必要がないので痛みはなし。衣服を脱がずに撮影できるのでX線を使うマンモグラフィーと違い放射線による被ばくの心配もない。

 ほかにもメリットは多く、

「不妊治療で排卵誘発剤を投与している、豊胸手術などを受けてインプラントが入っている、授乳中であるといった方でも、検査することが可能です」と、高原医師。

 より多くの女性に、少ないストレスで乳がん検診を受けてほしいという思いから、ドゥイブス・サーチが生まれたと話す。

 注目すべきは、見つかりにくいとされている高濃度乳房の検査にも適している点だ。日本をはじめアジアの女性たちには、欧米と比較して、乳腺組織が発達した高濃度乳房が多くみられるという。

「高濃度乳房の人のマンモグラフィーは、密度が高い乳腺が、がんと一緒に白く映し出されてしまいます。そのため専門医が見ても、発見するべき腫瘍を見逃してしまう可能性があるのです」(高原医師)

 高濃度乳房は若い世代ほど割合が高いといわれている。年齢にかかわらず、誰もが無関係ではいられないのだ。

約1時間におよぶ検査を体験レポ!

 そこで、週刊女性アラサー記者がドゥイブス・サーチによる乳がん検査にチャレンジ! 実際に都内の某病院で受けてみた。日本で現在、この検査を受けられる医療機関は全国22か所。一部の病院では24時間、インターネット予約が可能となっている。

 まずは電話で予約し、指定日時に病院へ。受付で「この検査を知ったきっかけ」「受けようと思った理由」などの簡単なアンケートに答えると、MRI室へ案内された。

 上下が分かれた検査着に着替えをすませたら乳房型にくり抜かれたベッドの上に、うつぶせになるよう指示される。2人の女性検査技師が、乳房がしっかり穴の形に沿うように検査着を両脇から引っ張って調整。背面から大きなベルトで胸部を固定され、耳栓とヘッドホンをつけたら準備完了。

 コロナ禍の影響で、乳がん検査時にも感染予防対策は欠かせない。マスク着用のままMRI装置の中に入ったアラサー記者に、女性技師は「苦しかったら、マスクはずらしても大丈夫ですよ」と声をかけてくれた。緊張をほぐしながら気遣ってくれる、やさしさに感激!

 そこからは、目を閉じてじっと待つだけ。ジージーと規則的な機械音が響き、小刻みな電子音や揺れが数分間続いた。当たり前だが、寝ているだけなので痛みもなく圧迫感もゼロ。しいて言えば、快適な呼吸のために、やっぱりマスクをずらせばよかった……。

 撮影自体は20分ほどで終了。MRI室に入ってから出るまでは1時間ほどだった。検査を終えると「身近な人にこの検査をすすめたいと思うか」などといったアンケートに回答し、会計へ。結果は撮影した写真とともに後日郵送されるとの説明を受けて、人生初の乳がん検診は終了した。

 記者の母親や、周囲のマンモグラフィー経験者から「痛い」という感想ばかり聞いていたので拍子抜け。しこりや痛みなど症状を検査時に伝えておくと、その部分が大丈夫かどうかもレポートしてくれるので、不安を具体的に解消できる。いいことだらけと思ったものの、気になったのは金額面。どこの病院でもドゥイブス・サーチの乳がん検査は、2万〜3万円の費用がかかる。もう少し低価格であれば、ぜひオススメしたいと強く思う記者だった。

痛くないマンモAI検査も登場

 ドゥイブス・サーチ以外にも、痛くない乳がん検査の開発は進んでいる。

 神戸大学の研究チームは昨年9月、微弱なマイクロ波を患部に当てる『マイクロ波マンモグラフィー』の開発に成功したと発表。通常のマンモグラフィーと違い、乳房を圧迫することなく、検査器具を乳房の形に沿ってなぞることでがん細胞を発見できるそうだ。被ばくの心配もなく、0・5ミリ程度の腫瘍も発見できる精度だという。

 また、広島大学の研究チームも、微弱電波を使った携帯型の乳がん検診装置を開発。あおむけに寝た状態で、お椀型の装置を乳房にかぶせて電波を当てると、がんの位置を見つけることができるというもの。実用化に向けてさらなる研究が進められている。

 前出・村上さんは、「MRIに関しては、AI(人工知能)を併用していく開発が進められていて、これが実用化されれば、がんの見落としが劇的に減るはず」と期待を込める。人間の目だけでチェックするには限界があり、担当医師の熟練度も、がんの発見に関係するからだ。過去に撮影されたデータを蓄積したAIが、がんの兆候を検出・判定できるようになれば、医師にかかる負担を減らせるかもしれない。

「すべてAIに任せるということではなく、あくまで医師とのダブルチェック体制を作ることができれば、精度もより高まるでしょう。2〜3年以内に実用化されると考えています」(村上さん)

 新たな乳がん検査の開発に期待がかかるが、「国が認めている対策型検診では、高濃度乳房で効果が低いことと放射線被ばくの影響をなるべく避けるため、40歳未満の方のマンモグラフィー検査の受診は推奨していません。このため30歳くらいで1度、ドゥイブス・サーチで自分の乳房がどうなのかを知っておくといいと思います」と高原医師。

 村上さんは「あくまで検診を受けるのは40代以上であることが前提です」としながらも、乳がん検診を受けたほうがいい人について、次のように指摘する。

「乳がんになりやすい人の傾向として医学的な統計から明らかになっているのは、未婚の人、出産経験がない人、初経が11歳以前の人、それから閉経が55歳以降の人といわれています。

 これは理由がはっきりしていて、乳がんの発症にはエストロゲンという女性ホルモンが深く関係しているから。エストロゲンが分泌されている期間が長ければ長いほど、リスクが高まります」

 ほかにも、ピルの服用期間が長い人は乳がんにかかりやすいとされている。

乳がんの血縁者がいる人は早めに検査を

 また、乳がんには遺伝性のものもある。

「およそ5〜10%といわれています。ある特定の遺伝子が変異する『遺伝性乳がん・卵巣がん症候群』というものが代表的で、この遺伝子を持つ人は20代ぐらいの若さでも、がんが発症してしまうケースがあります」(村上さん、以下同)

 遺伝性乳がんでは、米ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーがよく知られている。母親を卵巣がんで亡くしたことから遺伝子検査を行った結果、乳がん・卵巣がんの発症率が非常に高いことが発覚。予防のため、'13年に両乳房を手術で切除、'15年には卵巣と卵管も切除した。

「どのがんにも、一定割合は遺伝が関係しています。なかでも、危険度が高いうえ見つけにくいのが遺伝性の乳がんです。遺伝性の人たちは若くして発症しますが、若いときは乳腺が発達していて検査でも見つけづらく、発見が遅れてしまうのです。

 母や父方・母方の祖母、大叔母、叔母などの血縁者に乳がんを患った人が3人以上いる場合は、1度、検査の必要性を医師に相談してみることをおすすめします」

 中年以降に気をつけたい肥満も、乳がん発症のリスクを高める要因のひとつ。

「だいたいの女性は50歳前後で閉経を迎えますが、閉経後に乳がんと診断されるのは、肥満の人が比較的多い傾向にあります。脂肪細胞が女性ホルモンのエストロゲンを作ってしまうためです」

 さまざまな理由で乳がん検診から疎遠になっていた人もピンクリボン月間であるこの機会にいま1度、自分の身体と向き合ってみてほしい。

(取材・文/高橋もも子)